第二十話 爆走は巨大モンスターの特権
「あはははは!!これは良いなあ!!!」
森林を1匹の大蛇が背に人影を背負って爆走する。
勿論、それを見た魔物が攻撃を仕掛けようとするが、大蛇の周りに張り巡らされている結界に攻撃は阻まれ、あっという間に過ぎ去っていく。
それでも先にいかせまいと眼前に立ちはだかるオークが跳ね飛ばされて、追い討ちとばかりに炎の矢をぶち込まれいるのが見える。
……最初からこうすればよかったのね。
体調が10mを超えているというのはそれだけで武器となり得る。
普通の電車が約20mだからだいたいそれの半分弱。
電車で撥ねられるよりはマシだが、トラックで撥ねられるよりも質量的に考えれば重い。
いくらオークの体重が重いと言ってもこの重量と体積の前には無意味に等しい。
立ち塞がるものは木端の如く跳ね飛ばし、遠距離からの攻撃は俺の背中に乗ってるお嬢とシオンが防ぐ。
ヘカテは斥候で、なるべく魔物の少ないルートを探し出して先導している。
俺の喧しい爆走とヘカテの隠密能力も相まって、ヘカテは誰にも見つかることなく斥候ができるという訳だ。
にしても……
「あははははははあははは!!!」
「アリシア……もうちょっと抑えられんか?」
「ああ、いやすまない。少しばかり興奮してしまってな」
少しばかりじゃねえだろう、というのは2人揃って心の中に秘めておきました、まる。
「いやあ、しかし楽だなあ……シオン、さっきから魔物が衝突しまくってるんだが痛くないのか?」
『いや?まあ、「剛体」も使ってるし、進化したことでステータスも上がってるからな。たまに傷つけられることもあるけど、それはお嬢が治してくれるから問題ないしなあ』
「ほお……それは良かった」
『だからと言って人の背中の上で煎餅食ってんじゃねえよ、振り落とすぞ阿呆』
背中から聞こえるバリボリという音に青筋を立てる。
てめえ、この野郎。
人(?)が身を粉にして働いてるっていうのに、なにくつろいでんだ。
「ブオオ!!」
とか言ってるうちにオークが新路上に飛び出してくるが──
バクン!
上から覆いかぶさるようにしてオークを丸呑みにし、体内で「硫毒生成」を発動。
「オッ、ゴオォ……カフッ」
食道という狭い空間の中で充満される毒は、瞬く間にオークの肺占領し、呼吸器を蝕んで瞬く間に絶命させる。
生体からただの肉の塊になったオークを丸々呑み干しながらも爆走は止めず、コルテカの迷宮第二十一階層を進んでいく。
今のように武器や防具を持っていない魔物は丸々呑み干すことが多いが、武器、それも金属製のものを持っている場合は普通に魔法で迎撃する。
さすがに金属食うほど飢えてはいないしね。
腹と経験値が満たされて一石二鳥というわけだ。
一度で2度美味しいとはまさにこのことよ。
『──お嬢!3時の方向にシルフィード!』
「任せろ、『エア・ブラスト』」
斜め前方から飛んできた風の矢をお嬢が放った風の砲弾が相殺……否、総砕する。
続けて、
「終わりだ、『フレイム・ピラー』」
20mほど先で炎の円柱が吹き上がる。
樹海の中で炎の魔法を使うのはどうかと思うのだが、これまで一度も延焼していないのだからお嬢が燃え広がらないように何かしてるんだろう。
……何かまでは分からないが。
ちなみに今のシルフィードだが、第二十一階層に上がってきてからボスとして出てきた魔物以外の種類の魔物も出てきている。
火の原始魔法を使う、蜥蜴っぽいサラマンダー、水の原始魔法を使う、外見は人間の女性っぽいウンディーネ、風の原始魔法を使う、コイツも外見は人間の女性っぽいシルフィード、土の原始魔法を使う、体毛の薄いドワーフのようなノーム。
コイツら下位精霊をはじめとして、アリの亜人系の魔物だったミュルミドンの上位種らしき魔物や、どうにも他の魔物と比べれば実力不足は否めないが、狼の魔物ダークウルフ。
他にも名前の分からない魔物が結構出てきている。
まあ、ぶっちゃけ精霊と魔法使い以外は俺の突進でだいたいなんとかなるし、魔法使いどもに関してはお嬢が潰したり、ヘカテが背後から気配を消してサクッと殺ってくれるので殆ど脅威はないのだが。
強いていうのであればミノスやオーガと言った、進化してステータスがかなり上がった今の俺でも瞬殺はできない相手だが、そこは戦闘狂のシオン。
俺の背中を蹴っ飛ばして敵の懐に入り込み、時雨を抜刀して輪切りにし、死体を宝物庫の中にぶち込んでとんぼ返りをかれこれ10回は実行している。
……相変わらず化け物じみた身体能力だな。
進化した今でも勝てる気が欠片もしないぞ?
っかしーな、人間と魔物とでは魔物の方が遥かにステータスは高いはずなんだが……レベル離れすぎてるからそんなの参考にならんってか?
背中に乗ってる2人に追いつくのは当分先かぁ……、まあ分かっちゃあいたんだけどね?
取り敢えず身体能力の差はどうにもならんから技術だけでも盗むとするかあ。
◇◆◇◆◇◆
「御影幻刀流『疾風』」
開幕直後に敵の懐に入り込み、その勢いを利用して瞬速の抜刀。
しかしその銀刀は鬼人ーーハイオーガの無骨なメイスによって防がれる。
それによって鍔迫り合いのような状況にもつれ込む。
これによって状況は膠着状態に陥る。
本来なら純粋なパワーファイターであるハイオーガのほうが有利なんだろうが……相手がシオンだからなあ、判断しにくい。
抜刀した勢いのまま刀を滑らせる。
無論、滑らせている間も刀からの圧は変わらずメイスはその場に留まり続ける。
そして、刀ーー銀光の切っ先がメイスから離れた瞬間に、メイスを抑えていた圧力がなくなり、ハイオーガがタタラを踏む。
右に流れたシオンはその側で左足を軸に右回転し、
「御影幻刀流『旋風』」
タタラを踏んだことによってガラ空きになった首目掛けて、回転の勢いを利用した横薙ぎの一線を放つ。
「オオオッ!!!」
「……クハッ」
しかし、ハイオーガとてボス個体、そう易々と首を取られるような無様は晒さない。
体制を崩しているにもかかわらず、跳ね上がるようにしてメイスの柄を滑り込ませ、致命の一閃を凌ぎ切る。
ただまあ、
『ええ…………』
3m強もあるハイオーガの巨体が吹っ飛んだのは流石に引いたが。
さて、ここまで言えばだいたい察しはつくだろう。
今いるのはコルテカの迷宮第二十一階層のボス部屋、というか領域。
いわゆる結界型で、一度入ると透明な壁が周囲を覆って出られなくなる仕組みだ。
ここを守護するのは今吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた挙句、ベシャッというかズゴン!という音を立てて落ちたハイオーガだ。
今まで見てきたオーガよりも体は一回りも二回りも大きく、筋肉の盛り上がりも桁違いだ。
手に持っているのは人間サイズで言えば完全に攻城兵器とかそういうレベルでの大きさのメイス。
シオンのアーツを受けても斬れるどころか歪みすらないことから、おそらく魔具なのだろう。
錆色のメイスは一見すれば錆びているようにも見えるが、きちんと見ればそれは間違いだと気づくだろう。
曇りのない金属面、使い込まれつつもきっちりと手入れを欠かしていない握りの部分は、そこだけで業物と思わせる。
何十、何百キロあるかも分からない身体を吹き飛ばすほどに斬撃を受けてなお、その柄の金属部分にはかすり傷のような切り傷が入っているだけだ。
「オオオォオ!!!」
ハイオーガの咆哮が空気をビリビリと震わす。
それは自分が健在であることを示しており、そして同時に目の前の剣士が強敵であるということを示す物でもあった。
自分を軽々と吹き飛ばすほどの膂力を持ち、技巧、速度共に秀でている人間。
そんな存在を前にして心が折れないように自分の心を奮い立たせるために咆哮は雄々しく、それでいて決死の覚悟を決めたような雰囲気を感じる。
「来い」
改めて臨戦体制を整えたハイオーガにシオンが一言そう告げる。
右足を後ろに、腰を落として銀光を右肩に担ぐようにして半身になって構える。
しっかりと、というよりはどっしりとした構えは先ほどまでとは異なり、カウンターに適した構えだろう。
一見すれば隙の多い構えにも見えるが、それが偽りであることはハイオーガを含め、ここにいる全員が分かっていることだ。
「…………ガアアッ!!」
だからと言ってハイオーガが怯むかと言われれば、答えは否だ。
地面がえぐれ、爆ぜるように駆け出す。
メイスを両手で下段に持ち、疾風の如く駆け抜け、シオンまで開いていた20mほどの距離を瞬く間に詰める。
ズドン!と踏み込んだハイオーガの右足が地面を陥没させ、それを認識するよりも早く、頭上に振りかぶった錆色のメイスが振り下ろされる。
「御影幻刀流『迅烈』」
迎え撃つのは豪速の袈裟斬り。
錆色と銀色が衝突し、両者の動きが止まる。
そして次の瞬間、
『は?』
メイスが時雨の上を滑るようにして通り過ぎて行った。
……まさか、アレ受け流しか?
俺だって受け流しはよく使うが、それだって横からアーツをぶつけるようにして押し流すような使い方だ。
だが、アレは違う。
完全に止まった状態からの受け流し。
ただ刀の角度をズラすだけでハイオーガのメイスの起動を操作したのだ。
それも鍔迫り合いの状態で。
力を抜きすればメイスに潰され、力を入れ過ぎれば流すことなどできずに半端に力を抜いた挙句、やっぱり潰される。
少しも力加減の誤りが許されない妙技。
『……やっぱアイツバケモノだわ』
そう呟いた時、水刀が巨鬼の首を刎ね飛ばした。
Q.
ハイオーガ弱すぎでは?
A.
逆です、ミノス君が強すぎたんです。なお、裏設定としてダンジョンに入り込んだ冒険者をいっぱい倒してレベルが上がったという背景があります。ゲームと違ってダンジョンの魔物もレベルアップはしますんで。
純粋なステータス値はハイオーガの方が上だけど、ユニークスキル込みだとミノスに軍配が上がるみたいな感じ。
これで第二章のダンジョン探索は終了。次回はちょっと日常回をば




