第十一話 モンスターハウス(そっちはもう1人の戦闘狂が対処してます)
戦闘ラッシュ
『ゴホッ』
「無茶しすぎだまったく……。じっとしてろ『ヒール』」
『申し訳……ございません』
激戦を制したヘカテに待っていたのはお嬢による叱責と治療だった。
ちなみに俺は褒めるぐらいしかしません。
だってあのぐらいの無茶はボス戦だったら結構やるし……。
「悪くない戦い方だったが……まだまだ甘いところが幾つもある。帰ったらそこのところの修正をたたき込んで行こうか」
『宜しく……お願いします』
シオンのスパルタいつも通り、と。
まあ向上心は高いのだからヘカテにとってはそちらの方がいいのろう。
◇◆◇◆◇◆
「ははははは!!」
「グオオォ!!」
前言撤回。
今更ながらコイツヘカテの師匠にして良かったのか不安になるな……。
ヘカテがトロールとの死闘を繰り広げた後、丸2日をかけて第十九階層を踏破し、ヘカテが戦う時に出した注文通りに今ボス部屋でシオンが戦っているのを俺達は後ろで見学していた。
コルテカの迷宮第十九階層の階層ボスはル・ガルーと言う魔物だった。
姿形はいわゆる人狼のソレで、狼を人間の骨格に当てはめたような魔物だ。
特徴としては鋭い牙と黒い爪、そして2メートルの巨体から繰り出される強烈な一撃と獣故の敏捷である。
伸びた漆黒の爪は下手な刃物よりも鋭く、ボス部屋の壁に刻まれた大きな爪痕がその鋭利さを明確に示している。
高火力高起動。
その言葉がこれほどないと言うぐらいに似合っているル・ガルーの爪撃はしかし、自身を遥かに上回る相対した剣士にあたることは愚か掠ることすら叶わなかった。
唯一当たるのは剣士の得物のみ。
それにしても剣士が敢えて打ち合っているがために触れることができているのだ。
銀刀と黒爪がぶつかり合い、快音を室内に鳴り響かせる。
「しっ!」
「ガアァッ!?」
ル・ガルーの腕をその豪刀で弾き、閃光のような速度で返す太刀に右斬上に振るわれる「銀光」がル・ガルーの左手の指を纏めて3本斬り飛ばした。
「つぁらあ!!」
「グアァア!?」
間髪入れず放たれた前蹴りがル・ガルーの腹に叩き込まれ、その身体を壁まで吹き飛ばした。
「ふっ!!」
休む間も無くシオンが次に打った手はあろう事か「銀光」の投擲。
一直線にル・ガルーに飛んで行く銀刀。
すんでのところで首を捻って回避したル・ガルーだがシオンの凶刃はまだ止まらない。
「足を止めたな?狼男」
「ガアッ!?」
いつの間にかーーおそらく「縮地」を始めとしたスキルを使用しての高速移動だろうがーール・ガルーの前に立っていたシオンが死神の如く囁く。
見ればシオンの指は既に「時雨」の鯉口を切っている。
「グルアァ!!」
反撃とばかりに残っている右手の爪を伸ばしてシオンを切り刻もうとするがーー
「遅い。御影幻刀流『迅雷』」
それよりもシオンの方が速かった。
技の名前にあやまたず、雷のような速度で抜き放たれた妖刀。
俊速の居合いはル・ガルーとすれ違いざまに左脇腹を切り裂いた。
吹き上がった鮮血が地面を汚すよりも早く、
「眠れ」
シオンの二の太刀がル・ガルーの首を斬り落とした。
切断面を見れば恐ろしいほどに綺麗に切断されており、それも瞬く間に溢れかえった血によって見えなくなっている。
ごとり、と重い音を立ててル・ガルーの頭部が石畳に落ちて、それにカーテンをかけるようにして血の雨が降り注ぐ。
それを成した張本人を見れば刀についた血を振り払って懐から出した布で丹念に拭った後に刃面に曇りがないかどうかよくよく見て、チン、と音を鳴らして刀を鞘に収めた。
何とも締まりのない……。
しかし本人曰く、そうしないとすぐに錆びてしまうのだと。
だったら「銀光」ももうちょっと大切に扱えや、と思わないでもないのだがアレはまた別とのこと。
……よく分からん。
それでも歪みがないか確かめている辺り、コイツは刀が好きなんだろうなあとは思うが。
『相変わらず参考にならんな……。速すぎて真似できんし』
「俺には俺の戦い方が、ルキアにはルキアの戦い方というものがあるだろう。無理に参考にする必要はないだろうさ。強いて言うのであれば尻尾の使い方ぐらいか?」
『何で尻尾?』
「お前さんの尻尾と刀の形状は結構似ている。当てるだけではなく引くことで斬ると言う特徴も含めて、な」
『……そう言われればそうか』
確かに俺の尻尾は当てただけでは切れない。
首をカッ斬る時も勢いに任せて叩きつけると言うよりは滑らせるような感じで使っている。
そういう意味では刀の使い方は参考になるのかもしれないが……やっぱり異次元すぎて無理では?
俺とは反対に食い入るようにシオンの戦闘を見つめていたのはヘカテだ。
刀の一閃、足運びから腰の使い方など一挙手一投足を余すことなく観察する向上心はいっそのこと称賛に値するだろう。
願わくば、師の戦闘狂の資質が移らなければいいと思う限りである。
……お前が言うなは禁句だゾ!
◇◆◇◆◇◆
『……チィッ!死ね!!『ポイズンレイ』!』
コルテカの迷宮第二十階層のとある通路の行き止まり。
そこで俺とヘカテは20を超える大量の魔物に相対していた。
ことの始まりはシオンがそこそこの数が集まっているいわゆるモンスターハウスに切り込んだことだ。
敵の数は20体弱。
しかし、通路が一度に多くてもオーガが5体通れるかどうかと言う幅だったこともあり、俺とシオン、ヘカテが協力すれば屠れる数だった。
しかしそこで背後から増援が来たのが不味かった。
シオンが「ここは俺に任せて先に行け」と1分後にはへし折れそうなフラグを立てたのを白い目で見つつ、俺とヘカテが増援に対処することになった。
ちなみにお嬢は動かない。
どうせ後で数十体の魔物の解体をすることになるんだから、とはお嬢の言。
……お疲れ様です。
『だあー!!キリねえぞ!?『アクアレイ』!』
『ご主人様!左です!』
『チィッ!!『ポイズンエッジ』!』
『ポイズンエッジ』つきの万里の堅鎖で突っ込んできたオーガの首を貫きながら本当にお疲れになるのは俺達のほうだったな、と心の中で呟く。
最初に増援が来たのが20分前。
そこに2度も更なる増援が来たのだから笑えない。
あれか?モンスターハウスに飛び込んだのが不味かったのか?
いやもうホント勘弁して欲しい。
強敵との殺し合いは好きだし控えめに言って大好物だがこうも連発されると正直萎える。
『ヘカテ!足止め頼む!!』
『承知しました』
こっちの狙いを察してくれる部下がいると言うのは非常にありがたい。
ヘカテが持ち前の剣の技と魔法、「魅了の魔眼」を駆使して時間を稼いでくれるのを尻目に魔法の準備に入る。
最大出力かつ最大展開。
今俺が出せる最大最強を持ってこの大軍を蹴散らす。
『下がれ!ヘカテ!!』
『はいっ!』
『まとめて死に晒せ!『アクアレイ』!!』
「魔法調整」で最大限にまで出力をあげつつ「並列詠唱」により五重詠唱までに拡大し、横一列にして放たれたのは円筒状に象られた流水の奔流。
壁役としてその頑強さを最大限に発揮するオーガは事前に仕留めておいてその数を2体にまで減らしている。
それでも盾を持ったオークガードナーやトレントの存在は厄介ではあるものの、オーガのように魔法に対抗するようなスキルを持ち合わせていないため、『アクアレイ』で十分に鏖殺できる相手だ。
強化された水光線が魔物達を紙細工のように貫きながら進み、後方で魔法を発動しようとしていた魔法士たちーーホブゴブリンソーサラーやアルラウネ、ラミアなどーーにまで届きその身体を食い破る。
それが五度同時に行われる。
『ーー流石に今ので魔力がすっからかんだ。俺も前に出る。後方の生き残りは任せるぞ』
『御意』
打てば響くとばかりにヘカテが返事をし、すぐ様魔法を撃つ。
ちょっと仰々しいのが未だに慣れないが……こればっかりは時間が何とかしてくれるのを待つしかないか。
20体を超える大群は見る影もなく今や残っているのはオークナイトが3体にトレントが2体。
それと後ろにラミアとアルラウネが1体ずついるが……ヘカテならすぐに終わらせるだろう。
『まともな近接戦は久しぶりだなあ!悪いが感を取り戻すために少しばかり付き合って貰うぞ人間モドキ!!』
そう啖呵を切って暫く使ってなかった縮んでから体を伸ばすことによる加速方で一気に接近し、すれ違いざまにオークナイトの首を掻っ切る。
『まずひとぉつ!!んでもってもう2つ!』
体を宙に浮かせたまま振り返ることすらせずに俺を見失っている残りのオークナイト2体目掛けて万里の堅鎖を発射する。
魔力がすっからかんとは言え万里の堅鎖2本を放つぐらいは残っている。
……まあそれも今ので本当に空っけつになったが。
今のを行ったのがヘカテであれば最初のオークナイトはともかく後の2体はこうも容易く打ち取られることはなかっただろう。
それを可能にしたのは俺がこれまで魔法を中心にした戦い方しかせず、半ば固定砲台とかしていたからだ。
接近された時は「尾撃」なり万里の堅鎖を使うなりでいくらでも対処はできたし、オークフェンサーのように攻守共に優れた相手であっても速度に優れたヘカテがいるので俺は敵の動きを止めつつ魔法をぶっ放せば十分だった。
それ故に俺が近接戦を、それも高速でできると言うことを知らないがためにあっさりとオークナイトは全滅したのだ。
……情報って大事ね。
さて、残っているのは面倒くさいトレントだ。
正直言って今の俺とコイツの相性は悪い。
それなりに硬い木の体に切り飛ばしても再生する枝と根っこ。
万里の堅鎖では決定打にはならないーーと言うか万里の堅鎖は魔力切れで今使えないーーし、俺の「尾撃」では枝か根っこを切り飛ばすので精一杯だ。
いつもであれば「毒魔法」なり「流水魔法」なり、撃つ手は幾らでもと言うわけでもないがそれなりにあるのだ。
……まあ、無い物ねだりをしても仕方ないか。
「シャアアア!!!」
注意を引き付けるために声を出して威嚇する。
3体のオークナイトを瞬く間に倒したこと、そしてそれが2メートル越えの大蛇でありそれが威嚇してきたことから2体のトレントの注意は完全にこちらに移る。
『チィッ!』
枝が振り回され風の原始魔法が吹き荒れる。
「心眼」による体感時間の遅延も「剛体」による一時的な防御力の向上も魔力がすっからかんな今は使えない。
アーツですら魔力を消費するので襲い掛かる枝を躱し、シオンとの模擬戦で鍛え上げた受け流しで何とか凌ぐ。
ところどころ凌ぎきれずに食らってしまうが、努めて無視する。
致命傷でなければ戦闘に支障が出なければ其れ即ち無傷ってことよ!
……いや大分暴論だな。
そんなことをやっているともう1体のトレントから槍状の風の原始魔法が飛んでくるのだが、
「っ!?」
『はっ、ざまあねえな!!』
相対していたトレントを盾にすることで風の原始魔法を防ぐ。
『ついでだ!貰っとけ!!』
今の攻防でギリギリ溜まった魔力を使ってトレントの幹に『波涛』をぶち込んで吹っ飛ばす。
あ、HPちょっと削れた。
これあんまり使いたくないんだよね、自分の命そのものが削られる感じがしてあんまり好きじゃない。
戦闘によって命がこぼれ落ちていくような心地いいあの感覚はまた別だ。
あっちは燃え上がる炎に灼かれているような感覚なのに対し、こっちは無機質なモノに削られる感じ。
閑話休題。
……それでも致命傷には程遠い。
分かっちゃいたが「尾撃」では決定打にはならんか。
ちょっと本気でシオンに近接戦の稽古つけてもらおうかしら。
しかしここまでは想定内。
今持っている手札ではトレントを倒せないことなぞ百も承知。
であればどうするか?
簡単な話だ。
(さて、そろそろ向こうも片付いたか?)
「魔力感知」と「熱源感知」で後衛組が全滅しているのを知覚すると、思わず裂けるような笑みを浮かべてしまい、それを見たトレント達が慄くように一歩下がる。
……おい、泣くぞ。
なにも、俺1人で倒す必要はない。
俺に決め手となるような手札がないならばそれを持っているやつが来るまで時間稼ぎをしていればいい。
他力本願って素晴らしい言葉だよネ!
……まあそれはともかく。
『シッ!』
「っ!?」
紫の刀身がトレントの体を貫く。
小太刀に付与された『ポイズンエッジ』はトレントの体内を瞬く間に蝕んで、ヘカテはトレントが倒れるよりも早く、次の獲物に飛びかかる。
流石に仲間が窮地にあることに危機感を覚えたのか、俺が先ほど『波涛』をぶち込んだ方のトレントがヘカテ目掛けて枝を振り上げるが、
『はあっ!』
「っ!?」
ヘイヘイ無視とは寂しいじゃないの。
寂しくて死んじゃうよ?ウサギじゃないけど。
何ならウサギ食べる側だけど。
ヘカテが毒刀をぶっ刺した方のトレントが崩れ落ちるのを感知しながら、ガラ空きの胴体目掛けて思いっきり尻尾を叩き込む。
先程とは違い吹っ飛ぶとまではいかいないものの、無視できるほど軽い攻撃ではない。
タタラを踏むトレントにヘカテが「魅了の魔眼」を使いながら「縮地」で接近する。
小太刀にはもう一度付与したのであろう『ポイズンエッジ』の先ほどよりも濃い紫色が壁にかけられているランプの光を受けて妖しく光る。
横薙ぎに振るわれる毒刀を根っこを動かして何とか避けようとするがやらせるか。
『ふっ!』
「っ!?」
刀のような尻尾が根っこを貫き、石畳に縫い付ける。
声を発する器官がないために悲鳴は上がらないが明らかに動揺したような気配が伝わってくる。
バキリ、という擬音を立てて木の身体を冒していく毒刀。
ヘカテが力尽くで小太刀を振り抜いたときには十分に毒が入って木の皮は愚か、その内部にまで毒がまわり毒々しく変色していた。
爪でつけた傷は回復を阻害して激痛走らせる効果があったりするけどシオンが速攻で倒したので全部カットやで……
ハーピー「涙拭けよ」




