第九話 常夜の支配者
祝!アクナイ半周年!これを機にみんなもアクナイ始めようぜとか言ってみたり
まあよくよく考えれば 前回進化した時と同じレベルで今回も進化するとは限らないわけで。
さも当たり前のように進化するレベルが一緒だと勘違いしていたのは迂闊だったと言えよう。
それにしてもある程度の失望は拭い切れないのだが。
そんな感じでがっかりしているのを察したのか、
「どうかしたのか?」
ここら辺、お嬢には無い洞察力であり、お嬢もこのぐらい他人の心情に敏感であって欲しいなあ、なんて思う今日この頃。
『ああいや、レベルが上がってそろそろ進化するかなあなんて思ってたらまだ先の話だったからちょっと落ち込んでただけだ』
「へえ、ってことはルキアはDランクの魔物なのか?それでその戦闘能力は凄いな……」
『そういうもんか?』
「そういうもんだ」
そんなようなことを話しながらだべる。
シオンとヘカテは自分の得物の手入れをしながら、俺は習得した魔法やアーツの確認をしながらお嬢が剥ぎ取りを終わらせるのを待つ。
……しかしいつ見ても死体が勝手に解体されていく様は凄いな。
ショーとかやったらお金取れそう。
今回新しく覚えた魔法は「毒魔法」と「流水魔法」がそれぞれひとつずつ。
「毒魔法」は『ポイズンミスト』という魔法で、文字通り指定範囲内に毒の霧を発生させる魔法だ。
『アシッドレイン』同様集団戦だと使いにくいことこの上ないが、一対多数の戦いであればとても頼りになる魔法だろう。
「流水魔法」で覚えたのは『アクアレイ』という魔法で、名前からして分かる様に「流水魔法」版『ポイズンレイ』だ。
『ポイズンレイ』との違いを挙げるとすれば威力の違いだろう。
『ポイズンレイ』は「毒魔法」であるため、威力優先の魔法とは言ってもどうしても毒の方に傾いてしまうのは仕方がないだろう。
反して「流水魔法」は攻撃系の魔法が多く、『アクアレイ』もそれに違わない。
その威力は俺の持ちうる魔法の中でも最強と言って差し支えない。
その反面とでも言うべきか、それとも「レイ」系の魔法はどれもそうなのか、他の魔法と比べて発生が遅く魔力消費も高い。
高燃費高出力の魔法だと言えよう。
「終わったぞ」
『ん、お疲れ様』
『お疲れ様です。アリシア様』
「お疲れさん」
「いや、そんなに労われるほど重労働ではないんだが……」
新しく覚えた魔法やらステータスの確認やらをしていたらお嬢の解体が終わった様だ。
「それでも助かっているのに違いはないからな。解体が余り得意ではない身としては大いに感謝せねばなるまいよ」
『俺に至っては解体できる様な手足すらないからな』
実際、戦闘に参加していないとは言え解体の手間を一手に担っているお嬢には感謝してもしきれないほどである。
「んんっ!そら、さっさと先に進むぞ」
そんな感謝の雨に気恥ずかしさを覚えたのか、ズンズンと先に進んでいくお嬢を見て、俺とシオンは共に苦笑を漏らした。
なお、宝箱を開けた時のお嬢の表情はそんな微笑ましいものとは無縁であったことをここに記しておく。
台無しだよホント……。
◇◆◇◆◇◆
宵闇の古城。
そこは城でありながら人ではなく魔物達が跋扈するラニア王国とエルデア帝国の北方に位置する魔境、腐敗の荒野の中心部。
より正確に言うのであればそこに住まうもの達は命を持たず、生あるものを妬み、嫉み、憎悪し渇望する不死者達だ。
昼夜を問わず、不死者達が徘徊する様はある種の世紀末じみた印象を受ける。
と言うよりもこの領域には昼という概念が無いのだがそれはさて置き。
通常の魔物とは違い、一定の瘴気を取り込んだ死体や亡霊が疑似的な自我と生命を獲得したことによって生まれるのが不死者という魔物だ。
代表的なもので言えばスケルトン、ゾンビ、レイス、リビングアーマー、そしてヴァンパイア。
それらがひしめき合う宵闇の古城の城主が支配する領土はラニア王国やエルデア帝国、鵬国を始めとする国々が存在するアンドレア大陸全体の5分の1を占める。
5分の1というと余り広くは感じないかもしれないが、このアンドレア大陸は兎にも角にも人類の未開拓領域が広すぎる。
大陸南方の大部分を占めるアルフの森、大陸の南北に渡って走りそこから東側には何があるかすら判明していない天霊の山脈。
この2つを合わせただけでも大陸の3分の1を超える。
そこに他種族の侵入を拒み続けるエルフの里などがあるのだから人類がきちんと把握しているアンドレア大陸の領域は半分にも満たない。
そのアンドレア大陸の5分の1を占める宵闇の古城の城主の領土がどれだけ広大か分かるだろう。
とは言え、ではその土地に価値があるかどうかと言われれば否だ。
土には雑草ひとつ育つ養分さえありはせず、文字通り不毛の地だ。
土地を豊かにする精霊やあおこに入植しようとする生者が入りでもすれば、たちまちそこに住う不死者共に精気を吸われ、不死者の列に並ぶだろう。
故に自殺志願者と既に堕ちたものを除いて、そこに足を踏み入れるものなどいはしない。
「ミドルヴァンパイアが1体離反した?」
そんな腐敗の荒野にて、より一層不吉なオーラを発し続けるのは宵闇の古城。
外装は漆黒に染まり、周囲とは比べ物にならないほどの正気を発し続けていることからついた渾名は「現世の冥界」。
現世なんだか冥界なんだかよく分からないその城に君臨するのは不死者達の女王にしてこの世界に7体いる魔王の1人。
外装も漆黒なら内装も漆黒に染まった城内にて溶け込むはずの純黒のドレスは、なぜか鮮烈な印象を放っていて城内の漆黒に溶け込むことなどありなしない。
青白い肌とは対照的に真っ赤な唇が目を引き、そしてそれ以上に垂直のスリット状の爬虫類じみた真紅の瞳が見るものを引きつけ惑わす。
肩甲骨のあたりから生えたカラスのような漆黒の翼が白い肌をより一層引き立てている。
頬杖を突き、足を組んで玉座に君臨するその姿は写真に撮れば飛ぶ様に売れるであろう幻覚を見せた。
「は。ラニア王国にて諜報任務に就いていたミドルヴァンパイアの消息が絶ったことからそのように判断致しました」
謁見の間にて頭を垂れ、臣下の礼を拝するのは鎧の戦士、と言うのが一番しっくりくるだろうか。
しかしこの魔境においてただの生者は存在しない。
故に、この者もおよそ人間とは縁遠い姿形をしていた。
まず頭部。
明らかに人間の物ではなく、虫のそれであった。
額から伸びる一本の角と、それに追随するかの様にコメカミから生える二本の角は雄々しく、しかし悍しい瘴気を内包していた。
そして頭部が虫のソレならば胴体や手足も虫のソレである。
二本の足でその屈強な体を支え、残る四本の足は人間で言う手の役割を果たしていた。
体表は尽く鎧のような外骨格に覆われ、やはりこちらも絶えず瘴気を放っている。
腰や背中には刀剣や槍、戦斧、盾など様々な武具を身につけていて、しかしそのどれもが担い手同様、悍しいほどの呪詛を宿していた。
そのおどろおどろしいまた目にそぐわず、発された声は壮年の男性のものだった。
「何者かに始末されたという可能性は?」
「それを第一に考えましたが、あり得ないかと」
「ほう?理由を問おうか」
女王が発するその声音は聞く者を惑わせるような蠱惑的な印象を与え、しかしそれ以上の畏怖が押し潰す。
不死者の女王が放つ重圧はそれ自体が質量を持っているかのような錯覚をもたらし、常人であれば失神しても不思議ではない。
「まず第一に、彼の者が臆病であったこと。そして第二に、彼の者はミドルヴァンパイアの中でも腕の立つ者のものであり、特に隠蔽と逃走術に長けた者であったこと。最後に彼の者自身、野心に満ち溢れていたこと。これらの要因からそのように判断致しました」
そんな重圧を一身に受けて尚、呪鎧の戦士は臆するどころか僅かでも揺らぐことはない。
当然だろう。
彼は女王に侍ることを許された数少ない騎士であり、日夜身辺警護に勤しんでいる。
もしかの女王が怒り狂ったとしても彼は冷静に諫めるだろう。
並の騎士では遠く及びつかない精神力と武芸の練度、その2つがあるからこそ死の王を相手にしても畏敬を示すことはあっても恐怖に怯えることはない。
「なるほど……貴様がそう言うのであればそうなのだろう。しかしラニアか……。あの国は正直敵に回したくはない。適当な者に始末させろ。余り長引くようであれば私が出向く」
ラニア王国現国王ギルベルト・アトランタ・ラニア。
「豪雷の魔導師」と称される彼は「不死者の女王」と呼ばれる彼女であっても進んで敵には回したくはない相手だ。
「千里眼」を保有し、矮小な人の身で魔導へと至った正真正銘の化け物。
例え魔導書を持ち出してこなかったとしても進んで相手取りたい男ではない。
それに加えてラニア王国にはあの「凍土の魔導師」までいるのだ。
敵対したくないと思うのは当然だろう。
……「何としてでも敵対したくない」とはまではいかない辺り、彼女が魔王たる所以なのだろう。
例え魔導師2人であっても自身を殺し切るまではいかないという自信は根拠のない物ではなく、純然たる事実だ。
そして何より彼女はあくまで女王だ。
自身が出張って戦うよりも、膨大という表現すら過小な眷属を巧みに指揮することこそ「不死者の女王」としての真骨頂。
故に警戒することはあっても怯えることはない。
それでも敵対しないようにするのは無闇に戦っても得るものが何もないと理解しているからだ。
「承知いたしました。我が眷属共に命じておきます」
「そのようにしておけ。時にヘラクレス、何か面白いことはないか?」
またか
そう呪鎧の戦士ーーヘラクレスは心の中でそう呟く。
偶に女王はこのようなことを聞く。
そしてヘラクレスが「ありません」と答えるとたちまち不機嫌になるのだ。
悠久の時を生きる不死者の身であっても退屈するのは分からないでもないのだが、だからといって腹いせに山に穴を開けるのは勘弁してほしいのだが。
流石に2度も地形を変えられては堪らないので、こんなこともあろうかと事前に仕入れておいた情報を持ち出す。
「アルフの樹海にほんの少しではありますが魔物達が活性化しているとの知らせがありました。そう遠くないうちにスタンピードが起きる可能性が高いかと」
「……ほう?それは人為的なものか?それとも自然のものか?」
スタンピードには大きく分けて2種類ある。
ひとつ目は霊脈の活性化によるもの。
これは彼女の言った「自然のもの」に当たり、大体数十年スパンでどこかしらの霊脈が活性化し、大地から吹き上がる魔力によって増殖、活性化した魔物がエサを求めて人間達のいる街に侵攻するというものだ。
ふたつ目は何者かが魔物を扇動したことによるもの。
言わずとも分かる通りこちらは彼女の言った「人為的なもの」に当たり、主な手段としては統率個体ーーゴブリンキングやオークキングといった多数の眷属を従える魔物ーーを自身のスキルによって創造したり育て上げ、配下を集めさせた上で人里を襲わせることが多い。
数としては前者の方が多いが、歴史を紐解いてみれば後者もそれなりに実例がある。
かく言う彼女自身も前科があったりする。
今のところ彼女が把握している中で霊脈が活性化したと言う話は聞かないし、ヘラクレスが彼女に伝えるほどのことであればその兆候に気づくだろう。
それは分かっているのだが、いかんせん退屈であるが故に少しはいい意味で期待外れの出来事が起こって欲しいという願いを込めてヘラクレスに回答を促す。
「十中八九人為的なものでしょう。誰の手によるものかまでははっきりしていませんが……」
「そうか……にしてもアルフの樹海か……。あそこにいるのは「憤怒」と「暴食」だったか?「憤怒」はともかくとして「暴食」はやりそうではあるが……どう思う?」
「おっしゃる通り「憤怒」殿はないかと。しかし「暴食」殿にしてはいささか規模が小さすぎます。あの方が動けばどうあってももう少し大きな騒ぎになるかと」
「他にあるとすれば……天霊の山脈にいる奴らか?」
「「傲慢」殿、「嫉妬」殿、そして「怠惰」殿ですか……「傲慢」殿と「怠惰」殿は本人の性格からしてあり得ないでしょうからあるとすれば「嫉妬」殿でしょうか?しかし……」
2人してとある魔王の姿を思い出し、
「目立つな」
「目立ちますな」
秒速でその考えを却下した。
「嫉妬」の魔王は数いる魔王の中での2番目の大きさを誇る。
彼が動けばまず間違いなく目立つし、眷属を動かしたとしてもやはり目立つ。
どうあっても小規模にはなりようがないのだ。
「後は「強欲」だが……アイツは貢物が沢山あるだろうからそんなことをする必要は無いだろうからな」
最後に残った魔王を思い浮かべるが、そもそもアレは飢えるということなどあり得ない。
そこにいるだけで有象無象が寄ってくるのだから。
……まあ享楽目的と言われれば否とは言えないのだが。
「そうなると……ほんとに野良の魔物か?」
「恐らくは」
一応「強欲」がやらないというわけではないのだが、それを考えるとキリがない。
となると残されているのは魔王ではなく普通の魔物がやったという可能性。
ーーもっとも
「「色欲」の魔王たる御身がやったという可能性を除けば、の話ですが」
「色欲」の魔王である彼女の能力を持ってすれば魔物を扇動することなど朝飯前だろう。
それどころか国の中枢を掻き乱して国中を混沌に陥れることも可能だろう。
だが、
「ふん、誰がそのようなつまらない真似をするか。そんなことをしては未だ見ぬ原石が地に埋もれたまま砕け散ってしまうではないか。やるなら正面から攻め入るわ」
彼女の趣味に優秀な人材を蒐集するというものがある。
そしてそれらに試練を与え、女王のお眼鏡に適ったものがこの宵闇の古城で仕えることを許されるのだ。
それ故に宵闇の古城はその広さに反して城内に住まう者は少ない。
彼女の「優秀」の基準が高すぎるが故に。
「まあ、その野良の魔物とやらがどこまでやれるのか見せてもらおうではないか」
ーー黒城の女主人は今日もほくそ笑む
ーー未だ見ぬ逸材に期待の炎を宿らせながら
取り敢えず魔王が何処にいるのかの説明
ちなみに女王様の種族はヴァンパイアの上位種
尚、拙作ではサキュバス、インキュバスなどの夢魔はヴァンパイアと同一視しています
大罪の関係上こうなりました……まあ、生気を吸うプロセスで吸血していると考えればいけるかな……?(大分無理矢理)




