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魔女の使い魔  作者: 自動機械鮎
第二章 戦火舞い散るは古の神殿
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第六話 ギルマスとおはなし

いや、ほんと遅れてごめんなさい

だって中盤あたりからデータ吹き飛んじゃったんだもの

「シィッ」


『はあっ!』


 激突する尾と刀。

 まともに打ち合えばどちらが押し勝つかなど明白で、故にこそ尾は形を曲げて刀の軌道を逸らす。


 しかし相手の剣ははその程度で流される程拙くはなく、流される剣の勢いに逆らって尾に垂直に刀を押し付ける。

 再びぶつかり合い、しかし2秒後には刀が振り切られているだろう。

 それが分かっているからこそ次の手を打つ。


 左肩、左脇腹、右肘、右膝とバラバラに放たれるのは銀色の杭付きの鎖。

 じゃらあ、と音を立てて肉を穿とうとするが男の姿は既になく。

 視線をあげれば跳び上がって刀を振りかぶっている和装の男が日輪を背負っている。


「シッ」


 振り下ろされる長刀。

 魔法を撃つには近すぎ、鎖は既に放たれた後。

 打つ手はなく、銀色の龍刀が脳天を叩き割ーー


「はい、そこまで」


 ーーる直前で太刀の動きがピタリと止まる。


 霊刀と蛇体、2つの銀色は髪一本分の隙間を開けてギリギリ触れ合ってはおらず、あと1秒でも銀刀が止まるのが遅ければ鱗は叩き割れ、長刀は肉を斬り裂いていただろう。


『だあぁー!!クッソ、また負けたー!!!』


 はい、どうもルキアです。

 ヘカテを拾ってから早2週間が経った。


 料理、掃除、洗濯などの家事をヘカテに教え込む傍ら、あれからちょくちょく屋敷に遊びに来るシオンに稽古をつけてもらっている。

 シオンにご飯をご馳走するという報酬付きなのもあってか、殆ど同居人と化している。


 と言うかもうここ数日じゃあ寝泊まりしてる時点でほぼ同居人ですよね?

 それはそれとして。

 稽古、と言ってもシオンに教えを乞うているのは刀の扱い方が未熟なヘカテだけで俺はヘカテと交代でシオンと模擬戦をしている。

 これまでの戦績は21戦21敗。


 まあ当然と言っちゃあ当然だが今の俺がシオンに勝てるはずもなく、全敗している。

 しかもこっちはスキルと万里の堅鎖をフルに使ってその上シオンは任意発動型のスキルは使わないというハンデ付きで、だ。

 日に日に粘れるようにはなってきたんだが、未だ我が友を打ち倒すには遥か遠く。


 それでもシオンやお嬢曰く、このレベル差でここまで戦えてるのは結構凄いことなのだとか。

 お嬢はあれで結構嘘が苦手な人だし、シオンはシオンでこと戦闘に関しては虚言を吐かない人物なのでこの評価は信頼に値すると見て問題ないだろう。

 ちなみにお嬢は魔法の研究の息抜きに見にきたり、時々今回みたいに審判役をやったりすることもある。

 

「ルキア、これから冒険者ギルドに行くけど、どうする?」


『何しに?依頼でも受けるのか?』


 3日後にまたコルテカの迷宮に潜る予定なのでそれに併せて依頼でも受けるのだろうか?


「それもあるけど……聖女サマの護衛依頼の報酬についてこれからギルマスと話しに行く」


『んー、じゃあ行こうかな。報酬と受ける依頼内容も確認しておきたいし。ヘカテは?』


『お供致します』


「あ、俺も行こう。聖女サマの護衛とは面白そうだしな」


 さいで。

 と言うかシオン、お前絶対首突っ込むつもりだろ。




◇◆◇◆◇◆




「お、ルキアにヘカテのお嬢ちゃんか。どこに行くんだ?」

 

『ちょいと冒険者ギルドにね。帰りにお野菜買わせてもらうよ』


「そうかい。毎度ご贔屓に」


 歩き慣れた街中を住民に挨拶しながら歩く。

 ヘカテはこの街に来て2週間なため、ヘカテも住人も少しぎこちないところがあるが、その点俺はこの街に来てもう数ヶ月になるため結構和やかに会話ができるようになっている。


 まあ冒険者とかだとどうしても「魔物」という先入観が邪魔して緊張してしまうようだけれど。


 その点、ギルマスの召集の際に会ったフレデリカというエルフの娘は色々凄かったなあ。

 マシンガントークと言うかなんと言うか。


 まあアレは俺が彼女にとって脅威足りえないからこそできる無防備さだったのだろうが。

 その辺悔しくはあるが、今尚成長途中の身としては良い目標ができたと喜ぶべきなんだろう。 


 …………お嬢の使い魔に相応しい魔物になるという目標には未だ手が遠いどころかその域を見据えることもできていないが。

 そんなことを考えているうちに冒険者ギルドについた。


 ギルドの中は相も変わらず飲んだくれどもで賑わっていた。

 冬ならまだ分かるけど今夏真っ盛りだぞ?魔物が活性化する夏なんだから稼ぎ時じゃ無いの?

 そしてこれも相変わらずお嬢に向けられる畏怖の視線の中をお嬢はズンズンと歩いて行く。


 まあそれはわからんでも無い。

 ひとつ進化してそこそこ強くなった今でも尚、お嬢は絶対強者だ。

 勿論シオンも俺からすれば絶対強者であることに変わりはないのだが、お嬢の場合はその身に秘めている魔力はもはや一種の暴力だ。

 流石に慣れたけど。


 俺何万体分?という表現すら物足りないと言えばその魔力の膨大さが分かるだろうか?

 シオンも俺なんかより断然魔力量は多いんだが、いかんせん物理型だ。

 元より剣士、それでもその立ち振る舞いから遠く及ばない事は明白だが、お嬢やは違ってはっきりと指標になるものが無いからわかりにくかったりする。


 閑話休題。

 受付嬢のメロンちゃんことリリアーナちゃんが先導してギルマスの執務室案内してくれる。

 一応アポは取ってあるらしく、お嬢の成長具合におじさん感動………かと思いきや、アポを取ったのは昨日の深夜だとか。

 チクショウ、俺の感動を返せ。


「ギルドマスター、アリシア・ローレライ様をお連れしました」


「入れ」

 

 相変わらず疲労が滲んだ声で入室の許可が降りる。

 中に入ると事務用と思われる机にうず高く積み上げられた書類に埋もれて辛うじて顔だけ見えるギルマスの姿。

 以前よりも目の下のクマがひどくなっているように感じるのは気のせいだろうか?


「おお、来たか…………って随分増えたな。そっちのお嬢ちゃんはラミアか?」


「ああ、ルキアの眷属だ。で、こっちの和装の男がシオン・ミカゲ。面白そうって言うんで連れてきた」


「仮にも権力者の護衛任務についての話し合いなんだが…………」


 はあ、とため息をつくギルドマスター。

 ご苦労様です。


「まあいい取り敢えず座れ」


 そう言ってくいっと部屋の中央に配置されているソファを顎で指し示す。


「さて、何から話そうか……と言っても話すことなんざ決まってるんだがな。今回の依頼、報酬は何がいい?」


「ほう?こちらに選ばせるのか?」


 さも意外、とでも言うようにお嬢が問いかける。

 それもそのはず、指名依頼は基本的に依頼者が依頼内容と報酬を提示して、指名を受けた冒険者がそれを見て決める、というのが基本的なプロセスだ。


 今回のように依頼内容だけ提示して報酬は後から決める、というのはそうそうあるものではない。

 それは一重に依頼の内容が一大事であるがためだろう。


「なに、こちらとしても無茶な依頼をしているというのは重々承知の上だ。この件で飽きられて冒険者なんざ辞めてやる、なんてなったら痛手を喰らうのはこっちの方だからな。ご機嫌をとらせていただいている、というわけだ」


 まあ、言ってることはわからんでもない。

 冒険者ギルドとしてもお嬢に冒険者を辞められては致命的には程遠くとも「蒼天の魔女」という戦力を失うことは避けたいはずだ。


「…………なるほど。それなら遠慮なく、そのご機嫌取りに乗っからせてもらおうか」


 じっとギルマスを見つめた後、笑みを浮かべたお嬢にギルマスがホッと息をついて、


「世界樹の枝をくれ」


「できるかド阿呆!!!!」


 執務室に怒声が響き渡った。

 いや、うん。

 馬鹿なのかな?うちのお嬢は。


 世界樹とはエルフが守護する霊樹の名前であり、神話の時代から存在し続けている生きた神話の産物である。

 その葉や枝が内包する魔力は一本だけで数百年を生きる霊樹すら遠く及ばないとされていて、枝葉の破片を取るのにも世界樹を守護するエルフの許可が必要で、一国の王族ですら入手は困難と言われている。


「…………?ダメ」


「当たり前だ馬鹿野郎!!今のをフレデリカにでも聞かれてみろ!「疾風貫穿」つきの矢を射掛けられるぞ!!?」


 おおう。

 なんかよく分からん言葉が飛び出てきたが、取り敢えず色々ヤバいことをお嬢が口走ったのは分かった。


「んー、じゃあ500年ものの霊樹の幹で」


「いや、それだって相当キツいぞ?そんなもん「アルフの樹海」にでも行かなきゃないだろうし………」


 「アルフの樹海」ってのはアルフの森をさらに奥に進んだところにある文字通り樹海と表すべき場所だ。

 なんで名前を分けているのかと言うと、単純に群生している植物や生息している魔物の質が違いすぎるからだ。


 徘徊する魔物はAランクが当たり前、Bランクなんぞただの餌でしかなくSランクもかなり少ない頻度ではあるが遭遇するのだとか。

 具体的に言うとポ○モンで色違いが出るぐらいの確率。

 そんなところじゃないと採取できない物をねだるとかアンタ鬼かよ………魔女でしたわ。


「ギルドの倉庫の中にあるだろう?」


 お嬢の言葉にピシリ、とそんな音が聞こえたような気がした。

 カマをかける、と言うには確信に満ちた声色にギルマスの表情が固まり、シオンの口角が吊り上がった。

 あ、多分俺の口角も吊り上がってるわ。


「……………………どうしてそう思った?」


 それはある意味敗北宣言だった。


「新しい杖の素材にいいのがないか「探知魔法」で探してみたら冒険者ギルドの地下倉庫が当たった。あと()()も一通り見させてもらったぞ。セキュリティー甘くないか?」


 いい笑顔を浮かべてサラッと脅迫をする我が主。

 「探知魔法」は指定しものを探すことができる魔法だ。

 その対象は人、物、場所など殆どのものに探知がかけられるが、曖昧な指定だと失敗しやすいという欠点がある。


 そのため、主に落とし物や人探しなんかに使われることが多い魔法だ。

 で、お嬢の言い方だとその中身とやらになんかやましい物が入っていることはほぼ確定だろう。

 でなけりゃギルマスが「しまった!」みたいな顔するかよ、このタイミングで。

 倉庫にやましい物があるのがバレ、できることと言えば口封じぐらいだろうか。


 ただ、ここで第三者の存在が効いてくる。

 そう、シオンだ。

 より正確に言うのであればお嬢寄りの第三者だろうか。

 後でお嬢を口封じしたとしてもここで会話を聞いていたシオンがこのことを誰かに話さないとは限らない。


 ではどちらも口封じをしたらいいのでは?とも思うがそれはそれでリスクが高い。

 シオンが今日のことを吹聴する前に殺さなければならないため、お嬢とシオンの口封じはほぼ同時期にする必要があるだろう。

 先にシオンを殺したとしてもそれはそれで今度はお嬢の警戒が強まるだけだ。


 そしてお嬢とシオンを殺害したとすると、今度は何故2人が同時に殺害されたのか?という疑問が捜査側に生じるだろう。

 そこからギルマスにたどり着く可能性はそれなりに高いと言っていいだろう。

 そのリスクを負うぐらいであれば大人しくお嬢の言葉に従った方が遥かに安全だろう。

 倉庫の中身に関しては後で契約魔法でも結んでしまえば漏れる心配もなくなるのだから。


「…………はあ、分かった。それでいこう」


「ああ、よろしく」


 疲れたようなギルマスの顔とホクホク顔のお嬢が対照的で見てて面白かったです、まる。

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