第二十二話 シリアス?知らない子ですね
ゴブリン達を避けて進むこと4時間。
遂にボスの間まで来た。
いつもであれば当たるを幸に遭遇した魔物を片っ端から殺していくのだが、流石にゴブリン相手ではやる気も失せるという物である。
主に悪臭が原因で。
ちなみに第二階層もそんな感じだった。
さて、第九階層のボスはリザードマン。
蜥蜴を人間サイズにまででっかくして、二足歩行にした魔物。
お嬢曰く、ゴブリンやオーク、リザードマンなどの人間に似た魔物を総称して亜人系の魔物と言ったりするらしい。
エルフやワービーストが亜人と呼ばれるのを嫌う理由はここにあるとか何とか。
魔物なんかと一緒の呼び方するんじゃねえ!ということでこぜーますね?
生前の記憶からリザードマンと言うと水辺の近くに生息していそうだが、普通に乾燥した地域にもいるんだそう。
というかそっちの方が多いんだとか。
何でリザードマン=水辺って連想するんだろうね?
蜥蜴って乾燥した地域にもいるのに。
イモリとか連想するからかな?
両生類だけど。
閑話休題
リザードマンは蜥蜴をまんま立たせたような亜人であるため、天然の鎧である鱗を身に纏っている。
こいつを倒せるかどうかが冒険者として駆け出しかそうでないかの分水嶺だと言う。
『ってな感じか?』
「そうだな、大体そんな感じだ。リザードマンはほんの少しではあるものの、竜の因子を受け継いでいると言われ進化すれば竜、あるいはそれに類似したものになることもあるらしい。今から50年ほど前にエルクス・ジャングウェルという研究者がリザードマンから進化を続けてタラスクという亜竜種に進化を遂げたそうだ。その事からリザードマンは竜の因子を受け継いでいると判明し、一時期世界中の話題となったそうだ」
………久々の長文きたねえ。
説明をする時のお嬢は生き生きとしていてこちらもなんだか若返っていくような感覚に陥る。
はいそこ!アラサーはおっさんじゃありません!
『それで、そのタラスクはどうなったんだ?』
「さあ?多分ジャングウェル教授が今も飼ってるんじゃないから」
『そうか』
ふと思ってしまった。
研究対象として飼い殺しにされ続ける一生とは果たして幸福と呼ばるのだろうか。
以前、お嬢がこんな事を言っていた。
ホワイトスネークは発見されたが最後、狩られて素材にされるか捕まえられて愛玩用の魔物として飼い殺しにされるかのどちらかだと。
俺はお嬢に拾われていたからよかったものの、もし違う運命を辿っていたらどうだろう。
そう考えるとゾッとする。
俺たち魔物が生きている世界とはそういうものなのだと、再認識させられたように感じた。
「ちなみにリザードマンの肉はオーク程ではないが、さっぱりしていて冒険者には好評な肉だ」
『よし!さっさと行くぞ!!5分で終わらしてやる!!』
なに?狩られる命運?
知るか!世の中弱肉強食だ!!
待ってろリザードマン!!
その腹掻っ捌いて今日の夕飯の食卓に並べてやるぜぇ!
◇◆◇◆◇◆
対峙する白蛇とリザードマン。
正々堂々と、というわけでもないが一対一。
リザードマンは手に槍を持ち、こちらの様子を伺っている。
『ここで会ったが百年目!いざ、その肉貰い受ける!!『フローウィングブレイズ』!!』
食欲を全面に出して「清流魔法」の『フローウィングブレイズ』を放つ。
チャクラムのような形をした水の刃が寸分違わずリザードマンの首を跳ねる軌道で放たれる。
とは言え相手は腐ってもボス。
走り出し、身をかがめて水刃をかわす。
だが、それは想定内。
それぐらいかわしてくれなきゃ興醒めというものである。
こちらに突進してくるリザードマンに向けて万里の堅鎖を3本放つ。
それに対してリザードマンは1本目をかわし、2本目と3本目を槍の柄で同時に防いだ。
こちらの鎖を全て防ぎ切ったと思ったのだろう、槍を横薙ぎに振りかぶる。
それとほぼ同時、残しておいた最後の万里の堅鎖をその心臓目掛けて発射する。
さらに弾かれていた万里の堅鎖3本を操って、それぞれこちらから見て右から順に時間差で着弾するように放ち、後詰めとして再度『フローウィングブレイズ』を首目掛けて放つ。
「グガァアアァ!?」
その身のこなしは見事と言う他なく、残しておいた万里の堅鎖と再度撃った万里の堅鎖のうち1本までは避けられたものの、残りの2本と『フローウィングブレイズ』は避けきれず両脇腹を杭の部分で刺され、頭部を綺麗に切り離されて絶命した。
「いつも以上に仕留め方がエゲツない………」
『セパレート・ボディ』でリザードマンを解体しながらお嬢が言う。
そうだろうか?
別に尻の穴から串刺しにしたりしているわけじゃないし、普通に殺してると思うんだが。
「そういうんじゃなくて隠し球とか退路の塞ぎ方とか後詰めとか…、そういうハメ方がエゲツないと言っているんだ。遊びがないというか?」
『いや、でも肉を腐らせないように「毒魔法」を使わないと必然的にこうなるって』
そう、今回は「毒魔法」を使うわけにはいかなかったのだ。
「毒耐性」がある為毒肉を食べても問題ないとは言え、「毒魔法」を使って仕留めた魔物の肉は痛んでしまって肉の質が落ちるのだ。
それはどうにかして避けたいと思って戦った結果、あんな感じの戦術になった訳だ。
それに退路を塞ぐというのは戦術としては初歩的なことではなかろうか。
それはともかくとして、
『お嬢、そろそろ良い時間だ。肉食おうぜ、肉!!』
解体されたリザードマンを見てお嬢を催促する。
この為にタイムアタックじみた真似をしてまで速攻で狩ったのだ、早く食いたい。
てか食わせろ。
「はいはい、今焼くから待ってろ」
お嬢が焼いてくれた焼きリザードマンは手羽先みたいで美味しかったです、まる。
ちなみに宝箱の中身は強度を高める魔法刻印が施された魔剣だった。
へっへっへとあくどい笑みを浮かべていたお嬢が印象的でした。
◇◆◇◆◇◆
「そろそろいい時間だ。私は寝る。不寝番は任せたぞ。それじゃあおやすみ」
『了解した。おやすみ、良い夢を、お嬢』
今日の不寝番は俺であるため、俺に背を預けて宝物庫から取り出した毛布を被ってお嬢は眠りに入る。
進化してからというものの、お嬢は俺に背を預けて寝ることが殆どだ。
なんでも寄り掛かりやすくて、鱗のひんやりとした感触が心地良いからよく眠れるのだとか。
主に寄りかかってもらえるというのは使い魔冥利に尽きるというものである。
そして、お嬢の柔らかい体を堪能できるため、とても役得だと思います、はい。
とはいえ別に襲う気もなければ危害を加えるつもりも毛頭ないので、寝顔を鑑賞しながら毛布がズレたら直したり、寄ってくるオークを魔法で倒したりするだけだけである。
何でもないようなこんな時間が実は大好きだったりする。
それこそ、魔物と戦うよりもお嬢のそばにいてその温もりを味わうだけ、ただそれだけのことが俺の中では好きだったりする。
お嬢には言わんが。
こんな時間がずっと続けばいいのにと思う一方で、魔物の本能が自分に戦えと常にささやいている気がして、難儀な体質だなと他人事のように思いながらも今はこの温もりを感じていたいと、ただそう思った。
それぐらいは許されるだろう?と、自分の中の誰かに弁明をするようにして。
……胸の感触が少しだけ寂しかったのは秘密。
◇◆◇◆◇◆
「おはよう、ルキア」
『おはようさん。今日でコルテカの迷宮は終わりになるか?』
「順調にいけばそうなるだろう。まあ、ボスは少し苦戦するかも知れんが」
試すような口調で笑いかける。
上等、そうじゃなくちゃあ面白くない。
強敵であればある程燃えるというものである。
「ま、その前に朝ごはんだな」
昨日の残りのリザードマンの肉を焼く準備をしながら心なしかウキウキした様子でそう言った。
個人的にはオークの肉よりもリザードマンの肉の方が好きだったりする。
オークの肉は旨味があっていいんだが、いかんせん油っこい。
一方リザードマンの肉は言ってしまえば手羽先の様な味で程よく油が乗っていて、三十路には優しい味である。
肉体は種族ごと変わっていても、精神は変わらないということだ。
若干バトルジャンキーになっている感は否めないが。
◇◆◇◆◇◆
朝食を終え、第十階層を進む。第九階層のホブゴブリンたちとは違い、集まっても2、3体のためそこまで苦戦することなく進めた。
正直、技術に限って言えばホブゴブリンの方が優っている。
リザードマンは言ってしまえばオークとホブゴブリンを足して2で割って、最後に1割増させた感じだ。
身体能力はホブゴブリンよりも高いとは言え、個人的に言わせて貰えばどっちだろうがジャイアントスパイダーと比較してしまえば大抵の魔物は非力になってしまうので、そんな底辺の争いをしても…ねえ、という感じだ。
故に、俺としては集団を作り技術を高めて連携をとってくるホブゴブリンのほうが強いと感じたので、この階層については予定よりも早く、お昼前にボスのいる場所に着いた。




