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魔女の使い魔  作者: 自動機械鮎
第三章 太陽が開きし港湾
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第十三話 在り方

早いものでもう百話ですね………昨年の春から投稿してきましたが、最初の頃からお付き合い頂いた方、途中あたりから読んでいただいている方、そして最近読み始めていただいている方、拙作をご閲覧頂きありがとうございます。割と自己満足で書いているところがあるので性癖全開で突っ走っている感はありますが、それでもお付き合いいただき本当にありがとうございます。これからも拙作をどうぞよろしくお願い致します


あ、後書きで百話記念という口実を利用した設定吐き出しコーナーがあるのでよかったら最後まで見てやってください


死ぬほど今更だけどリゼロ六章読み終わりました。とりあえずシャウラすこ…………(語彙力崩壊)

 主人が盛大にヘマをやらかした日の夜、私は見慣れない天井を見つめていた。


 私の主人は厳しくて、そしてきっとどこまでも残酷な言葉をあの聖遺跡で私に突き刺した。

 赦しを与えるのではなく、裁きを下すのではなく、赦しも裁きも全て自分で決めろとそう言った。

 幼い私にとってはあまりに残酷で冷酷な沙汰。

 けれど主人と従者という関係性から考えればきっとそれが妥当なのだ。

 私とあの方は馴れ合いたいからたまにいるのではない。

 あの方の心の内は分からないけれど、私は外の世界が知りたくてあの方に付き従っているのだから。

 もっとも、あの方を主人と仰ぎたいから、という理由も無いではないが。


 目を瞑れば思い出す。

 噴き出す鮮血、零れ落ちる臓物、「なんで」と「どうして」で彩られた絶望の顔。

 口から出ていくのは憎悪に怨嗟、懺悔、狐媚。

 全て「生きたい」と「死にたくない」から出たものだった。

 それを思い出すだけで身体をつるぎで串刺しにされるような錯覚に陥る。


「…………痛い」


 主人は自分にとっては正しい行いだとしても私にとっては違うだろうと言った。

 それは立場と在り方が違うから。

 なら私の在り方は?


「…………分からない」


 初めて人が死ぬ光景を見たあの日からもう何十回と考えて、それでも分からなかった。

 私の願いといえば外の世界への知識欲くらいのものだが、それは彼らを殺したことの是非を制定する要素にはなり得ない。


「………寝付けないです」


 むくり、と身体を起こす。

 もうここ何日も寝付けなくて、アリシア様に睡眠導入剤を処方してもらってなんとか睡眠をとっているが、できるだけアリシア様やご主人様にも迷惑をかけたくはない。

 夜風にあたれば少しは焼きついた死に顔も払えるかと思って、グレイシア様に用意して頂いた客室のドアを開けた。

 本当は使用人の部屋に寝泊まりするべきなのだろうが、グレイシア様たっての希望、という名の強要によってこの部屋に寝泊まりさせられている。

 なんでも、「せっかくできた娘の家族なのですから、丁重に扱わなくては」とのこと。


 廊下を歩いている最中、アリシア様にいただいた寝巻きの上から羽織ったガウンが夜風に揺れた。

 ふと、人の気配がして顔を上げる。

 いつの間にか歩いたのだろうか、中庭に続く廊下まで来てしまったようだ。

 ロの字状になっている中央の中庭、そこに男が一人居た。


 「気配感知」を発動させていないと見逃してしまうほどに希薄な気配を纏って、シオン・ミカゲは佇んでいた。

 周囲の空気を同化するほどにただそこにあるだけの気配。

 それは彼らしくない光景で、けれど腰に差した時雨の鞘を左手で掴んでいるその姿が確かにシオンその人であることを教えているように見えた。


「師しょっ──」


 呼びかけようとしてすぐにその口を噤んだ、と言うよりはシオンの行動に噤ませられた。

 右手が目を隠している包帯にかかる。

 ゆっくりと、純白の包帯がずり落ちていって、


「──っ!」


 突如、凄まじい重圧がヘカテを、否、周囲を襲った。

 魔力とは少し違う気迫に、目の前にいるその存在そのものの格が違うと、ヘカテの勘が告げる。

 純白の包帯が振り払われ、夜に解放された血色の瞳が怪しく光っていた。


「カァァァアア…………」


 深く、深く、深く息を吐く。

 溜め込んだ息を全て吐き出すほどに大きく、大きく空気を吐き出すと、シオンは時雨の鯉口を切った。

 スラリ、と水色の刀身が月光を浴びて刃紋が美しく輝いていた。

 抜き放った時雨を上段に構える。


 瞬間、


「ふっ!」


「っ!」


 ヘカテの目をしても追いきれぬ程の速さで時雨が振り下ろされ、一拍を置いて中庭に暴風が吹き荒れた。

 全ての剣士が瞠目し、賞賛するであろう凄まじいまでの一閃。

 だと言うのに、


「チッ」


 シオンは不服そうに舌打ちした。


「剣とはそこにあるものを斬るための道具であり、剣術とはそこにあるものを斬る技術だ。そこに風圧だの電撃だのは過分でしかない。ただ斬るためだけの剣。それが俺の剣だ。お前はどういう剣を振るう?ヘカテ」


 抱いた疑問に答えたシオンが、今度はこちらに血色の瞳を向けて問いかけてきた。


 ──お前は、何を願う?


 その問いは、ルキアがヘカテに投げかけたものと何処か似ている。


「私、は………分かり、ません。人の死を見て、人を殺す技を学んで、けれどそれを何のために振るうのかが、まだ分からないままです」


 ずっと悩んでた。

 悩んで悩んで悩み続けて、けれど答えは出なくて。

 生きる理由は愚か、自分の願いがあるかどうかも分かっていない。

 こんなことであの方の報いることができるのだろうか、あの方に頂いた多くの恩を返せる日が来るのだろうか。


「ふむ…………なら、お前が探す答えはお前の内にはないのだろうさ」


「私の内に無い、ですか?」


「ああ、少なくとも()()()()には、な」


「そ、んな。なら、私はどうやって生きて、報いれば」


 それではあの方に報いることができない。

 命を、人生を、私が行く道標を教えてくれたあの方に、何も返すことができない。

 あの遺跡で失われた命にどう言い訳をすればいいのだろうか。


「だから、これから探して行けばいいんじゃないか?」


「へ?」


「別にアイツは今すぐ答えろなんて言ってないだろう?ならこれから探していけばいい。酢いも甘いも飲み込んで自分が生きる理由を、自分が誰かを殺す理由を探して行きゃあいい。その過程も、アイツにとっちゃあ愉しいものだろうさ」


(それに、アイツからしたら苦悩に歪むその姿も、きっと面白いものとして写るだろうよ)


 どうしてだろう。

 自分は今すぐ答えを探さなければならないと思っていて、そればかりに囚われていた。

 そうだ、今持っていないならこれから探していけばいい。

 そんな簡単なことにすら気づかなかったのか、自分は。

 主人から投げかけられた設問が余程自分を動揺させたのか、それとも目にこびり着いた惨劇がそうさせたのか。

 どちらにせよ、自分が行く道は得た。

 なら後は全力で進むだけだ。

 そこに果てが見えなくとも、主人ルキア師匠シオン先生アリシアが先で待っているのだから。


「そう言えば師匠。何故そんなことをしていらっしゃったのですか?下手をすればグレイシア様に糾弾されかねない行為ですが………」


「なに、許可はとってある。あの人、きっと俺がこうするって分かってたんだろうなあ。結界用の魔道具なんざ寄越してきやがって。鬼の力を遮断する結界だとよ」


 す、と時雨の切っ先で指し示した場所には柱があり、そこに呪符のようなお札が貼り付けられていた。

 他の中庭を取り囲む柱を見れば、至る所にお札が貼ってあるのが見て取れる。


「ま、ちょいと奮起させられてなあ。ルキアがあそこまでやって新たな力を得たんだ。俺もうかうかしてると追い付かれかねないからなあ」


 それは午後の一件だろう。

 異常を通り越して異端とさえ言える実験をしたルキアに触発されたのだろう。

 確かにアレは一歩間違えれば死ぬような実験だったし、事実ルキアは死にかけた。

 だが一時死にかけたことによって塗りたくられた屈辱を代価に、彼は新たな力と戒めを手に入れた。

 それは確かに、彼にとって珍しく成長と呼ぶべき事項だ。


「………ま、俺もいつまでも逃げてるわけにいかないってのもあるがね」


「?なにか仰いましたか?」


「いや、なんでもねえさ。それより中入ろうぜ。春とは言え夜は少し冷える」


「はい、ご一緒させて頂きます」


 ヘカテの足取りは、中庭に来た時よりも軽くなっていた。




◇◆◇◆◇◆




「くっ、ひひひっ。おい、これが成功したら報酬の金、何に使うよ」


「んなもん酒と女に決まってんだろ」


「おい、お前らうるせえよ。相手はあのローレライだぞ。何が原因でバレるか分かったもんじゃねえ」


 ルキアが進化を終えた日から三日後の深夜、ローレライ本邸の門前にて、闇夜に紛れるようにして行動を起こす影の姿があった。

 人数は五人。

 いずれも男で格好はお世辞にも綺麗とは言えない身格好で、貴族街の一角に位置するローレライ本邸の前に居る状況はいささか妙でもあった。

 それを可能にしたのは地下水道の存在だ。

 ついこの間、エルデア帝国子飼いの暗殺者たちが情報収集のために使った地下水道は、王都で少なからず()()()方面に手を染めている者ならば周知の存在だ。

 もっとも、その迷宮の如き通路の全貌を知り得る者は両手の指で収まるだろうが。


「大丈夫だって。こんな時間まで魔女も起きてねえって。吸血鬼じゃあるまいし、不眠不休で研究し続けるなんてあるわけねえだろ」


「そうだそうだ。それに王国最強の魔導師サマの噂もどこまで正しいか。流石に一軍にも匹敵するってのは盛りすぎだろ」


「確かに。魔女だって人間なんだ。寝込みを襲えば殺せる」


 そして彼らはその存在を知ってはいるものの、具体的にどこがどこに繋がっているのかまでは把握できていない。

 だと言うのに的確にローレライ本邸近くの地下水道の出口を探り当てることができた理由。


『まあ、大方ここの襲撃を依頼された御貴族様か商人にでも教えられたってところだろ?』


「オイ!なんか変な音が聞こえ………るくっ!?」


「なっ」


 慎重に、音を立てないようにして門を開けた直後、金属が擦れる音が聞こえたかと思うと、先頭に立っていた男の頭から杭が突き出た。

 そのままズルズルと足を引きずって鎖が闇の奥に戻っていくのを彼らは黙って見ていることしかできなかった、と言うよりは警戒心が高まって助けに行くどころではなかった。

 そもそも同じスラム街の住民とは言え、彼らは親類や友人の類では無く今回仕事を共にするというだけの間柄。

 なんなら一人頭の報酬が高くなって喜んですらいる。


『なんだ、助けにはいかないのか?残念だなあ?』


「チッ、おい灯りを付けろ」


「ああ。朝に灯りし光よ。今こそ闇夜を照らせ『ライト』」


 新月の夜ということを差し引いても暗い、それこそ黒い闇のような何かが舞っているのではないかと思うほどに先の見えない暗闇を危惧したのだろう。

 「光属性魔法」における初歩の魔法『ライト』によって鎖の操り手の姿が露わになった。

 光に照らされたのは体長1()0()m()()()()()()()程度の大蛇。

 従魔の首輪を着けていることからおそらくは魔女の使い魔であることが分かる。

 そして彼らは大蛇──ルキアの姿を見て、安堵した。


「ハッ、何かと思えば随分とちっこい蛇だなあ?オイ。Dランク、高く見積もってもCランクくらいだろ」


「アイツは油断したみたいだが、不意打ちさえ封じればこっちのもんよ」


「なあ、コイツの鱗綺麗じゃねえ?売ったら高く売れそうだ」


 蛇の魔物における身体の大きさと強さは基本的に比例関係にある。

 大きければ大きいほど強いし、小さい蛇で強い魔物となれば亜人の因子が入っているものを除けば、高ランクの魔物は本当に稀だ。

 故に、彼らはそう勘違いしてしまった。

 従魔の首輪以外にもう一つの首輪があることに疑問すら持たずに。


 加えて言うなら彼らにはそれなりの自信があった。

 全員がそこそこの冒険者ランクにまで上り詰め、さまざまな幸運が積み重なったとは言えAランクの魔物すら討伐したことがある者すらいる。

 もっとも、だからと言ってB()()()()()()()()()()()()()()()を侮っていい理由にはなり得なかったが。

 と言うか言語を理解している時点でもう少し警戒したほうが良かったのだろうが、そこは冒険者家業から離れてそれなりに経っていたということを鑑みれば仕方がないのではないだろうか。


『さて、そろそろかな?』


「あ?何言ってんだ?これからテメエを殺すんだろうが。なあ、お前ら──」


 振り返って仲間に同意を求めた男の言葉が止まる。

 何故ならそこには倒れ伏しながら痙攣した男と、全身が石になった男と、身体の至ることが暗赤色に染まって腫れあがり、泡を吹いて喋ることもままならない男の姿。


「な、んだよ。コレ」


『ん?分からないか?最初の男は俺の鎖の杭の部分で串刺しにして即死。次の男は俺が生成した神経毒で今は喋ることすらできない。そのうち死ぬだろう。三人目は「石化の魔眼」でお陀仏。最後の一人は出血毒で身体の血液が凝固して………あ、今死んだねえ』


 何でも無いことのように喋るルキアの言葉に身体が固まる。

 毒?いつ仕掛けた?仕掛けたのがもし屋敷の領域内に入って直ぐだとしても効くのが早すぎる。

 それこそ高ランクの蛇の魔物でもなければこれほどの毒は使えない──と、そこまで考えて、今更ながらに身体が動かないことに気がついた。

 自分の身体を見やれば脚と手が石になり、腰も段々と石に──石化されかけている。


 身体の自由と体温が奪われて、何も感じなくなっていく。

 腹部も石化していく過程で息をするのもままならない。


「あ、たす、け」


 自分を今まさに殺している相手に請い願った助命が、彼の最後の言葉だった。


『アハハッ、分かっちゃいたことだがやっぱり俺ってば人殺しても何も感じないな?まあ、感じてないだけならまだ良かったんだが』


 いかんせん、俺の快楽主義というか愉悦主義のようなものは大概悪辣なものであるらしい。

 人が死ぬ様子をじっくりと眺めて、その中で彼らの中から湧き出た感情を楽しんでいるのだから。


『ま、これに関しちゃあどうしようもないか』


「お疲れ様です、ルキア様」


『ああいや、これくらいなんてことないですよ、セバスさん』


 背後から気配もなく声をかけてきた執事──セバスチャンに答える。


『しかし、この屋敷襲撃多すぎません?この四日で二回も襲撃されてますよ。まあ、全部雑魚だったのでいいんですけど』


「御当主様はこの国において最強の魔法使いであり、それに準じた地位と栄誉を賜っています。それ故に恨みも多く買っているいるのですよ。と言っても御当主様が屋敷張った結界を含めた防衛機構がありますので大事に至ったことはないのですが」


 それって俺いる?と思わないでもないが、あの御母堂のことだ、なにか考えがあるのだろう。

 さて、解体と行きますか。

 古来より人間の身体は薬になると言われており、人間の身体をもとにして作られた薬を生薬と言うらしいが、それは世界が変わっても同じようで。

 そして毒は薄めれば薬になると言うし、その逆もまた然り。

 ペニシリンがアオカビから発明されたように、睡眠導入剤が多用すれば自殺用の凶器になり得るように、人の身体もまた毒にも薬にもなり得る。


 一人は頭部以外は損傷無しで確保できているし、石化した死体もそれはそれで使い道はあるのだ。

 ふはははは、血の一滴、肉の一片、骨の一本に至るまで使い尽くしてやろう。


 しっかし、案外すんなり騙されたなあ、彼ら。

 本来俺の体長はBランクという高ランクの魔物に相応しく、20mを超える巨躯を誇っているが、今は10mにすら満たない矮躯だ。

 それを実現しているのはお嬢謹製の「縮小の首輪」。


 ちょっと理論は専門的すぎて今の俺の知識では理解しきれなかったが、要約すると俺という存在の情報を全体的に薄め、圧縮するらしい。

 うん、俺もちょっと何言ってるのかわかんなかったが、その結果として得られるのが新幹線一両分の俺の身体がマーライオンの高さサイズへの縮小化と、HPが常時三分の二までへの減少だ。

 縮小化はともかく、HPの常時減少はどういうことかと言うと、俺という存在そのものを縮小する魔法を利用しているためにそれに応じてHPも減少してしまうのだと。

 ま、いざ戦闘になった時は魔法を解除すればHPも元に戻るとのことなので、それほどデメリットは感じていない。


 さて、お嬢が作ってくれたことに報いるために、己を研鑽するべく解体を始めますかと、意気込んで解体を始めようとした矢先、


「ひとつ、宜しいですかな?ルキア様」


 セバスさんことセバスチャンから感情を殺したような声が掛けられた。


『ん?作業しながらでいいならどうぞ?』


「では、ルキア様。貴方はアリシアお嬢様のことをどう思っていらっしゃるのですか?」


『どう………かあ。それはちょっと答えにくい質問ですねえ』


 俺がお嬢に抱く感情、それは思慕であり、敬愛であり、情愛であり、感謝であり、憐憫であり、と実に多くの感情が絡み合ってなんとも言葉にし難い。

 多分これ全部吐き出すとしたら数日分くらい時間取らなきゃいけなくなるんだけど、流石にそこまではなあ。


『なんでまあ、価値で語らせて頂いても?』


「…………ええ、構いません」


『なら話は割と簡単です。全人類の四分の三。これが俺がお嬢に、我が親愛なる主人に感じている価値です』


「………………は?」


 ──それは狂おしいほどの熱量を秘めた悍ましい愛


 けれどそれを執事は捉え切ることができなかったのか、あるいはその熱量を感じ取った上でさらに踏み込むことに決めたのか。


「参考までに貴方が人間という種族にどれほどの価値を置いているのか聞いても?」


『勿論構いませんとも。そうですね、例え話をしましょうか。今、目の前に傷ひとつないSランク神話級マイソロジー龍種ドラゴンの死骸の入った宝物庫とただの村人が一人。どちらか片方を選べと言われたら俺はただの村人を選びます』


「ほう?」


 Sランク神話級マイソロジー、それも龍種ドラゴンの死骸ともなれば、売りに出せばマジで国ひとつくらい買えてしまうほどの巨万の富を手にすることのできる夢と希望の塊だ。

 だがそれと比べてもなお、ただの人間の方が俺にとってはよっぽど価値のあるモノだ。

 もっとも、


『あ、いや待てよ?死骸持って帰ってそれを見せびらかした時の人間たちの反応とか想像しただけでも最高では?驚愕、賞賛、嫉妬、殺意、疑問、崇拝………うわヤバい、想像しただけでも下腹部熱くなってきた』


「あ、いやなんとなく分かりました」


 あら、そう?

 ま、それはともかく。


『まあ要するに、そんな一人一人が俺の命なんぞ百個くらい捨ててなお、足りないほどに尽くしたいと思える人間たちの総数、その四分の三と同じくらいの価値がお嬢にはあると俺は思っているという話です。これで満足のいく答えになりましたかな?』


「ええ。それともう一つ、お伺いしたい」


『どうぞ?』


「壊したい、とは思わないのですか?」


 …………へえ?

 ピタリ、と解体用のナイフを持っていた鎖が動きを止める。


『その心は?』


「美しい芸術品ほど、壊したくなると言います。ならば貴方がそれほど価値を置くアリシアお嬢様の壊れ姿は貴方にとって甘美なモノなのではないかと。そう思った次第です」


 なるほどなるほど、()()()()()()()()()

 人が絶望し、悲嘆に明け暮れ、死に逝く姿は確かに甘美なモノだ。

 それがお嬢のモノともなればどれほど甘いだろうか。

 あの普段着丈に振る舞い、しかしその内情は年頃の少女そのものであるいや、ともすればそれ以上に脆いお嬢が絶望し、世界を憎み、漫然と死を受け入れるそのシーンは、嗚呼、考えただけでも達しそうになる。

 口は弧を描くことをやめず、胸の高鳴りは治ることを知らない。


 しかし、しかしだ。


『確かにそれを見ることができたのなら、羽化登仙の心地どころの騒ぎではないでしょうが………俺は望みません』


「なぜ、とお聞きしても?」


 なに、簡単なことだ。


『確かにお嬢が死に逝く顔は、ええ確かに。この身を差し出してでも見たいと言わざるをえまんせん。けれど、それ以上にお嬢には生きていてほしいのですよ』


 それはそうだろう、だって。


『お嬢が死んで仕舞えば極上の笑顔も、最上の思案顔も、至上の悲嘆も見ることができなくなってしまうのですから。ただ一度の至高の死顔のためにそれら全てを投げ捨てるのは…………ええ、余りに()()()()()()()


 確かにたった一度のためにそれを行うのは、うん、結構悩みどころがないわけでもなくないかも知れなくもなくて………いや!うん!ないよ!無いったら無い!!

 まあ、それらを抜きにしてもお嬢にはやっぱり笑顔が似合う。

 あ、個人的には呆れつつもその日常を手放し難いと思いながら噛み締める微笑が一番です!


「なるほど、つまり」


『俺がお嬢に惹かれ続けている限り、俺がお嬢を裏切ることは有り得ませんよ。御母堂にもそう伝えて頂ければ』


「…………バレていましたか」


 それはだって、俺が羽化登仙の心地で〜〜〜のくだりで身体の中の魔力が暴れてたこと暴れてたこと。

 壊したいか聞いた時も、無意識か知らんけど手の形が手刀を作ってたもん。


「まあ、使命だけではありませんでしたが」


『ん?それはどういう………』


「アリシア様は幼い頃、それこそ生まれた時から面倒を見させて頂いた仲であるので。その方の傍に付くものがどのような方か見極めたかったという、完全な私情ですよ」


 ほーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーら!!!!!人間(お前)たちは直ぐそうやって俺を喜ばせるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

なんでウチの主人公はこんなになっちゃったんだろう………最初はぶっ飛んでて、かつヒロイン一筋な主人公を描きたかっただけなのに。主人公は人間大好きなので基本的にお嬢を裏切ることはないです。ここで絶対って言い切れないあたり主人公の業の深さを感じさせる。要するにコイツ一番好きな人間に味方するので。ちなみにお嬢に敵対する人間が四分の三を超えたら普通に寝返りますよコイツ


っつーわけで百話記念という口実に付け込んだ、考えたはいいけど本編では多分あんまり出てこない設定吐き出しコーナーです。今回はステータスについて


本作において、ステータスにおけるステータス値は対象の身体能力を数値化したもの………ではありません。本作におけるStrength(筋力値)、Vitality(耐久値)、Dexterity(器用値)、Agility(敏捷値)、Stamina(体力値)は対象個体への補正値を表すものです。そのため、VitよりもAgiのほうが高くてもタンクに向いているということはあり得ます。まあ、理論上あり得るだけで現実的には有り得ないんですけど。補正値はレベルに応じて上がり、どれだけ補正を行ったかを表すパラメータがLuck(幸運)です。Luck(幸運)の上限値は100で、上限値に達するとステータス表記が数値からMaxになります

レベルに関してですが、これは魂を構成するものが魂の核である霊格、魂全体を保護する外魂殻、この二つの間に位置する魔力炉であるというのが本作における魂の設定です(その内本編でも説明すると思います)。外魂殻は層状になっており、この層の数がレベルとなります。外魂殻は生物が死んだ時に大気に拡散され、近くにいたものがこれを吸収し、新しい層を重ねていくという仕組みです。つまりソウルイーター?それともモンハン?

魂は肉体に引っ張られ、逆もまた然りです。外魂殻の枚数を増やしていくことで魂の格が上がり、肉体もそれに引っ張られてステータス補正とは別に肉体も成長していきます。コレがステータス補正以外のレベルアップによる恩恵。レベルアップによってMPの分母が上がっていくのもレベルアップによる恩恵。本来、貯蔵魔力量は生まれたら年齢を重ねていくごとに増えていきますが、レベルアップシステムによってさらに上限値も拡張されていきます

HPに関してですが、これは生物の存在力(その生物が単純な体積としても、概念としても、霊的なものとしても、世界においてどれだけの規模であるかというもの)を数値化したものです。数値の定義としては、神代崩壊直後の一年間における0歳児の存在力の平均値(ステータス補正なし)を1としたときの存在力としています

MPは分母が魔力炉に貯蔵しておける魔力量(マナではない)の最大値。分子は現在魔力炉に貯蔵している魔力量です。数値の定義は体積1立方ミリメートルのマナに入る魔力量をMP1としています

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