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序列主義の異能学院  作者: 丹野海里
第3章 殺人ギルド血影編
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第77話 朝の健康チェック

 マザーパラダイスで暮らす子供たちの年齢と性別をまとめます。


・年齢

9歳、ウシオ、暗空玲於奈。

8歳、コグマ、キノコ、スイ。

6歳、キララ、スコップ、ロープ、カズ。

5歳、ハッチ、アイラ。


・性別

男(キノコ、スコップ、ロープ、カズ、ハッチ)

女(ウシオ、暗空玲於奈、コグマ、スイ、キララ、アイラ)

—1—


 マザーパラダイスの朝は早い。

 6時30分に起床して屋敷の周りを軽く散歩した後、朝食を食べてから庭で育てている野菜の手入れに入る。


 この時期はトマトやきゅうり、ナスが旬らしい。

 私たちの主な仕事は水やりと雑草抜き。


 スコップやキララたち6歳以下のチームが雑草抜きの担当で、ウシオ、コグマ、キノコ、スイの8、9歳チームが水やりを担当しているとのことだった。

 私もウシオと同い年ということで水やり担当になった。


 バケツに水を汲み、ジョウロで野菜に水をあげていく。

 夏場は特に水分を欲するので、朝、昼、夕方の3回水をあげなくてはならない。


 野菜も生き物。

 生き物を育てるということはそれだけ手間が掛かるのだ。


玲於奈れおなちゃん、あのね、葉っぱの方に水をかけてもあんまり意味ないよ。こうやって土の方にかけてあげないと」


 私の水やりの様子を見兼ねたスイが手のひらから霧状の水を噴出させ、お手本を見せてくれた。


「そうなんだ。ありがとう」


 スイにお礼を言うとスイはぶんぶんと首を横に振り、恥ずかしそうに笑った。

 同性の私から見ても可愛らしい笑顔だ。


「ねぇ、スイの異能力って水を操る能力なの?」


 手のひらから水を出していたことからそう推測する。


「う、うん。体の水分を使うから限界はあるんだけどね。水やりくらいだったら後で水を飲むだけで大丈夫だから」


「凄い異能力だね」


「そ、そうかな?」


「生き物にとって水は切っても切り離せない存在だから。それを操ることができるスイは凄いよ」


「あ、ありがとう。そんな風に言われたのは初めてだったからなんか嬉しいな」


 褒められ慣れていないのかスイが私から視線を逸らした。照れ隠しかな。


「おーい! 次、玲於奈ちゃんの番だよー!」


 屋敷から出てきたキララがこちらに手招きしていた。


「?」


「朝の健康チェックだよ。毎日マザーと1対1でお話しするの。困っていることはないか、悩んでいることはないか、とかね」


 私が首を傾げていると、スイがそう教えてくれた。


「そうなんだ。種蒔たねまきさん優しいんだね」


「うん」


 スイが力強く頷いた。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 ジョウロを地面に置いて種蒔さんが待つ屋敷に向かう。


 朝の健康チェック。

 普通の家庭ではない特殊な環境だから悩みを抱えている子供もいるかもしれない。

 みんな健康体そのものって感じだけど、外から見える姿と内面とでは必ずしも一致しているとは限らない。


 種蒔さんはそういった心のケアを行なっているのだろう。


「失礼します」


「次は玲於奈ちゃんだね」


 屋敷に入ると種蒔さんが椅子に腰掛けていた。

 私も用意された椅子に座り、種蒔さんと向き合う。


「まだ1日だけどここでの生活はどう? やっていけそう?」


「はい、みんな優しくてどこの誰かも知らない私のことをすぐに受け入れてくれました。特にスイにはマザーパラダイスのことから野菜の水やりのことまで教えてもらって本当有難いです」


「スイは少し人見知りなところもあるけど面倒見がいいからね。歳の近い玲於奈ちゃんが来て嬉しかったのかもね。これからも仲良くしてあげてね」


「もちろんです」


 スイ以外にもキララとスコップとは何気ない会話をするようになったけれど、まだ他の子と会話をするときにはぎこちなさが残る。

 まあ、それも時間が解決してくれるだろう。


「あの子たちも今ではあんなに元気百倍って感じだけど、ここに来たばかりの頃は暗くて、大人しくて、塞ぎ込んでいたのよ。人によって複雑な事情を抱えていたりもするからね」


 窓の外を眺める種蒔さんの目には楽しそうに雑草抜きをする6歳以下のチームと、水やりをするウシオたちの姿が映っていた。

 その姿はまるで子供たちを遠くで見守る優しい母親のようだ。


 いや、血は繋がっていなくても種蒔さんはマザーパラダイスで暮らす子供たちにとって立派な母親だ。


「複雑な事情ですか」


「ええ、家庭間でのトラブルが多いけどみんな等しく辛い思いをしてきてるわ。でも、だからこそ玲於奈ちゃんのこともすぐに受け入れられたんじゃないかな」


 ここにやって来る子供は似たような環境で育った傾向にある。

 だからその子の気持ちがわかるということか。


「玲於奈ちゃんも何か困ったことがあったら遠慮せずに言ってね」


「はい」


「それじゃあ最後に心臓の音を聞かせてもらってもいいかな?」


「は、はい?」


「あ、ごめんね。みんなの心臓の音を聞くことで私が安心したいの。心臓の音を聞くと今日もみんな元気だ。頑張ろうって思えるんだよね。玲於奈ちゃんが嫌だったら無理にとは言わないけど」


 心臓の音を聞かせてと言われてちょっと戸惑ったけど、理由を聞いて少し納得した。

 一定に刻まれる心臓の鼓動を感じることでどこか落ち着いた気持ちになるのは理解できる。


「わかりました。いいですよ」


「ありがとう」


 種蒔さんは手を伸ばし、服の上から私の心臓に手を当てた。

 種蒔さんが心臓に触れていた時間は僅か5秒ほどだったが、その間不思議と体の内側が暖かくなった。


「これで今日の健康チェックはおしまい。私もみんなの様子を見に行こうかな」


 健康チェックが終わった私と種蒔さんは再び庭に向かうのだった。


—2—


「こらスコップ、こんなに庭をボコボコにして。すぐに直しなさい」


 屋敷から外に出ると、地面の至る所に穴が掘られていた。

 そして、絶賛穴掘り中だったスコップに向かって種蒔さんが注意する。


 どうやら雑草抜きに飽きて鬼ごっこが始まったみたいだ。

 庭の穴はスコップが鬼から逃げるために掘ったものらしい。


「マザーごめんなさい。今埋めるから——」


「はいスコップタッチ!!」


 スコップが迷彩柄のキャップを外して謝ろうとした瞬間、空気の読めない少年が手にしていたロープでスコップの腕を素早く拘束した。


「ロープももう鬼ごっこはおしまい。スコップと一緒に穴埋め手伝ってね」


「えー、なんで俺も」


 そう言いながらも足を使って近くの穴に土を落としていくロープ。

 ロープはスコップと同い年ということで仲が良いみたいだ。


「これだから男子は」


 一連の様子を見ていたキララが雑草の山をバケツに入れながらそう呟いた。

 こんな日常が繰り返されているのなら6歳のキララが大人っぽくなるのも頷ける。


「あっ、おかえり玲於奈ちゃん」


「ただいま、もう水やりは終わり?」


 持ち場に戻るとスイが後片付けをしていた。


「うん、後は中に戻って勉強かな」


「なるほど、ウシオちゃんたちも?」


「どうだろう? 何もなければ多分来るとは思うけど」


 そんな自由参加みたいな感じでいいのだろうか?

 まあ、ここの決まりなら私がどうこう言う立場にはないけれど。


「2人とも、小休憩の後で勉強会始めるからね」


 種蒔さんが野菜の成長を見に来た足で声を掛けてきた。


「玲於奈ちゃん、マザーのこと見てて」


 スイに肩をツンツンされて耳元でそう囁かれた。

 私はスイに言われるがまま種蒔さんに目を向ける。


 種蒔さんはトマトに向かって手をかざすと何やらぶつぶつと呟いていた。


「大きくなーれ、大きくなーれ」


 すると、驚くことにトマトの実が目に見えてわかるくらい膨らんだ。

 そのまま隣のトマトの実へと手をスライドさせていく。


「よしっ、スイたちが水をあげてくれたから育つのが早いわね」


 種蒔さんは手をパンっと鳴らして立ち上がると、私とスイの頭を優しく撫でてくれた。


「中で待ってるから片付けが終わったら来てね」


 そう言って屋敷に向かって歩いて行った。


「ねぇ、スイちゃん、今のって種蒔さんの異能力だよね?」


「うん、初めて見るとビックリするよね。私、あれ見るの好きなんだー」


 確かに野菜と向き合う種蒔さんの表情は優しかった。


「成長促進系の異能力なのかな?」


「私がマザーに聞いたときは成長するのを手助けしてるって言ってた」


「そうなんだ」


 種蒔さんの柔らかくて温かいあの手にそんな素敵な力があるなんて。


 しかし、力は使いよう。

 私はすぐに知ることになる。


 マザーパラダイスで暮らす子供たちの、種蒔さんの異常さを。

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