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序列主義の異能学院  作者: 丹野海里
第3章 殺人ギルド血影編
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第76話 子供たちとラーメンと

—1—


 人通りが少ないいわゆる裏道と呼ばれる細道を歩き続けること十数分。

 住宅街の外れにひっそりと佇む白い屋敷が目の前に現れた。

 屋敷の周りは背の高い木々で覆われていて、正面にはどっしりとした重厚感のある黒い門が構えられている。 


 まるで外部からの侵入者を警戒しているかのようにも思える造り。

 よく言えばセキュリティーがしっかりしていそうと言ったところか。


 屋敷の外観を一通り観察してそんな感想を抱いていると、種蒔たねまきさんが門を開いてこちらを見ていることに気がついた。

 いけないいけない。私としたことが屋敷に圧倒されてしまった。


「さぁ、入っていいわよ」


「すいません、今行きます」


 早足で種蒔さんの後に続く。


「あっ! マザーだ!!」


「みんな、マザーが帰ってきたよー!!!」


 屋敷の庭で遊んでいた子供たちが種蒔さんに気が付き嬉しそうに駆け寄ってきた。

 男子が4人に女子が3人。歳は5歳から7、8歳くらいだろうか。

 種蒔さんに勢いよく飛びついたり、工作で作ったロボットのような物を見せたりと、それぞれが思い思いに甘えている。


 この光景を見ただけで種蒔さんが心から信頼されている人物だということがわかる。

 種蒔さんは「何らかの理由で行き場のなくなった子供たち」と言っていたが、私が見る限りそういった風には見えない。


 それも種蒔さんが母親代わりとなって子供たちに愛情を注いだ結果なのだろう。


「ねぇマザー、この子は?」


 恥ずかしがり屋なのか、種蒔さんの影に隠れていた水色髪の少女が私の顔を見ながら聞いてきた。


「ほらっ、この間話してた玲於奈れおなちゃんだよ。新しくみんなの仲間になるからスイも先輩として色々教えてあげてね」


「先輩、か……」


 先輩という響きが気に入ったのかわかりやすく目を輝かせる少女。

 そんなスイの様子を種蒔さん越しに見ていると、こちらの出方を窺うようにゆっくりと手を伸ばしてきた。


「よ、よろしくね玲於奈ちゃん」


「よろしくお願いします」


 可愛らしい小さな手を優しく握る。

 同年代の子との久し振りの会話に加えて握手まで。心の内側がぽかぽかと温かくなっていくのを感じる。


「えへへっ」


 私と手が触れたことで緊張気味だったスイが笑みを溢した。


「あー! スイばっかりずるいぞ! 俺はスコップ、マザーパラダイスの穴掘り名人とは俺のことだ!!」


 迷彩柄のキャップを被った男子が誇らしげに自分の胸に拳を叩きつけた。


「誰もそんなこと聞いてないでしょ。ごめんねスコップが変なこと言って」


「おいキララ押すなってば!」


 栗色の髪の少女がスコップのことを押し除けた。


「私はキララ。今日からよろしくね玲於奈ちゃん」


「よろしくお願いします。その、キララちゃんは随分と大人っぽいのね。何歳なの?」


「6歳だよ。外がどうなのかがわからないけど、ここで暮らしてると自然としっかりしなきゃって思うんだよね。スコップみたいにバカなのがいると余計にね」


 キララが呆れたような目をスコップに向ける。

 キララは年相応の体つきでまだ幼いけれど、話し方や雰囲気は私よりも全然大人っぽい。


「玲於奈ちゃんは何歳?」


「9歳」


「じゃあ、ウシオと同じだ!」


「ウシオ?」


 また新しい名前が出てきた。

 新しい環境に赴いたら覚えることが多いのは当然のことだが、そろそろ頭がパンクしそうだ。


「うん、ウシオはここのリーダーなんだよ。あっ、噂をすれば帰ってきた!」


 黒いフードを深く被った3人の男女が門を潜って中に入ってきた。

 誰かに説明をされるまでもなく、その中心を歩く少女がウシオなのだと直感でわかった。


「お疲れ様、ウシオ、コグマ、キノコ」


 種蒔さんが3人のことを強く抱きしめた。

 遊びから帰ってきたにしては大袈裟な出迎えのようにも思える。


 だとしたらこの3人はどこから帰ってきたのだろうか?


 新参者の私にはわかるはずもない。


—2—


 太陽が西の方角に傾くと、木々が光を遮ってしまうので庭も屋敷の中も薄暗くなる。

 とはいえ、完全に太陽を隠してしまうわけではないので真っ暗というほどではない。


 あの後、屋敷の大広間に案内された私はみんなから質問攻めにあっていた。

 まるで転校生がやって来た初日に見られるような人気者状態だ。


 両親に捨てられ、家を失ってからは人と話す機会そのものが減っていたため、こうやって人と直接話すことが嬉しい反面、想像以上にエネルギーを使うのだと改めて思い知らされた。


 ただ、エネルギーを削りながらもマザーパラダイスの過ごし方について色々と聞くことができた。


 まず、日中は屋敷の掃除や庭で育てている野菜の手入れを行い、それが終われば庭で遊んだり屋敷の中で絵を描いたりと日によってまちまちのようだ。


 小学生組はそれとは別に種蒔さんから勉強を教わる時間も設けられているとか。


 その他にも種蒔さんから個別で仕事を頼まれることがあるみたいだ。


「あー、今日の晩ご飯は何かなー?」


「スコップ、良い子だからもう少し待っててね」


 種蒔さんのいる台所から良い匂いが漂ってくる。


「新しい子が来たってことはあれじゃない?」


 ソファーに腰掛けていたキララには献立の予想ができているみたいだ。

 新入りが来たとき限定のメニューでもあるのだろうか。

 まあ、私にとっては温かい食べ物というだけでご馳走なのだけれど。


「あっ、あれか!」


 キララの発言でスコップの頭の中にも何かが浮かんだらしい。

 晩ご飯のメニューで盛り上がっている2人には申し訳ないのだが、私には気になっていることがあった。


 それは、私たちより後に屋敷に帰ってきたウシオ、コグマ、キノコの3人の姿が見えないことだ。

 他の部屋で話をしているのか、はたまた屋敷の外にいるのかはわからないがその3人だけ大広間に姿を見せていない。


 と、そんなことを考えていると、


「ふぁーよく寝た。マザーご飯まだー? もうあたしお腹ぺこぺこだよ」


 お腹をさすりながら部屋に入ってきたのは、コグマと呼ばれていた少女だ。

 くるんと丸まった癖っ毛が特徴的で女子にしてはそこそこ体格が良い。


「いつも言ってるだろ。声に出すと空腹が増すから我慢しろって」


 コグマの後に入ってきたキノコ頭の男子がコグマの背中を軽く2回叩いた。

 キノコ頭でキノコだから覚えやすい。とか口に出したら怒られそうだな。


「キノコもそう言ってやるな。今日のコグマの働き具合に免じて許してやれ」


「まあ、ウシオがそう言うなら今日は許してやるか」


 最後に入ってきた少女——ウシオがコグマを擁護した。


「マザー、出来たのがあったら持っていくよ」


「ありがとうウシオ」


 ウシオが種蒔さんから器を受け取った。

 背中まで伸びた黒髪に切長の目。その赤い双眸はどんな人生を歩めばそれほど冷たくなるのかというほど冷めている。


 そして目を引くのが両手首に巻かれている包帯だ。

 怪我の治療中で巻いている物なのか、彼女の異能力に影響しているのか。

 ウシオと話したことがない私にはわかり得ないことだが、見ていて痛々しい。


「どうかした?」


「いえ、何も」


「そう」


 これが私とウシオが初めて交わした会話だった。


「さあ、みんなの分できたから持っていって」


「やった! マザー特製のスペシャルラーメンだ!!」


 種蒔さんから器を受け取るなりスコップが喜びの声を上げる。

 トッピングは細切りのネギと煮卵とメンマにチャーシュー。味噌の良い香りが食欲をそそる。


 ラーメンなんて一体いつ以来だろう。


 テーブルに人数分のラーメンが揃う。

 みんな定位置が決まっているようで次々と自分の席に腰掛けていく。私の席はウシオの正面だった。

 ちなみに種蒔さんは全員の顔が見える誕生日席だ。


「みなさん手を合わせてください。いただきます!」


『「いただきます!!」』


 スコップの掛け声にみんなが合わせた。

 この掛け声にもこれから慣れていくのだろう。


 レンゲでスープをすくい、口に運ぶ。


「美味しい。あれっ?」


「あっ、玲於奈が泣いてるー!」


「コラッ、スコップはすぐデリカシーのないこと言うんだから」


 キララがすかさずスコップの頭にチョップを繰り出す。


「玲於奈ちゃん大丈夫?」


「うん、ごめんなさい。あまりにも美味しくて、こうやって大勢でご飯を食べるのが久し振りだったから嬉しかったのとホッとしたのが同時に込み上げてきちゃった」


 そうだ。

 私は1人でいる間、人の温かさを欲していた。

 あんなことがあって人を信じられなくなっていたけれど、純粋なスコップやキララたちと話したことで安心したんだろうな。


 まだ出会ってから数時間しか経っていないけど、心の氷が溶かされていくような感覚を覚えていた。


 私は1人じゃない。

 これからはここにいるみんながいる。


「種蒔さん、みんな、これからよろしくお願いします」


 涙を拭い、顔を上げる。

 私は今日食べたこのラーメンの味を一生忘れないだろう。

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