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序列主義の異能学院  作者: 丹野海里
第2章 華麗なる生徒会、学院存亡の危機編
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第60話 神楽坂vs黒きドラゴン・ガイン

―1—


 オレたちは、黒きドラゴン——ガインの立つ校舎前に向かって走っていた。

 視界には、ガインが吐き出した火炎砲により激しく燃え上がる校舎が映っている。地獄絵図とはまさにこのことだ。


 これまで、生徒会では学院や学院に通う生徒を守るために緻密な作戦を練ってきたが、たった一撃でこの有様とは。

 あれを止められる人間がこの世に存在するのだろうか。


「凄いサイレンだな」


 火災を感知した校内からけたたましいサイレンが鳴り響く。


「緋鉄、炎を飲み込め!」


 オレの前を走る千炎寺せんえんじが緋鉄に自身の炎を纏わせ、緋炎に変化させた。

 緋炎は火野の魔剣・紅翼剣フェニックスとも互角に渡り合ったことがあるかなり強力な刀だ。


「か、神楽坂くん、本当にあのドラゴンと戦うんですか?」


 千代田が不安そうな表情を浮かべる。

 無理もない。力の差は誰の目から見ても明らか。

 オレたちがガインの前に立ち塞がったとしても立ち塞がったことにすらならないかもしれない。


「誰かがやらないと確実に学院が滅びてしまうからな」


「学院が壊されたらまた新しく建て直せばいいじゃないですか。神楽坂くんにもしものことがあったらどうするんですか?」


「生徒会の皆がこの学院を守るために行動してきたんだ。オレにできることがあるなら全力でやるだけだ。それに千代田はオレが負けると思っているのか?」


 ここで弱音を吐くわけにはいかない。

 1度敵の反撃を許してしまえば、例え学院を建て直したとしても2度、3度と繰り返される。

 次ではなく、今敵を追い返す必要があるのだ。


「怖いならついて来なくてもいいのよ。足手纏いになるだけだから」


「氷堂さん、そういう言い方しなくてもいいんじゃないかな?」


 明智が千代田を庇う。

 だが、氷堂の言い分も間違ってはいない。

 あのレベルの相手といざ戦闘となってしまえば他人に気を配っている余裕なんてないだろうからな。


「明智さん、あなたにも言ったつもりだったんだけど」


 容赦のない冷たい言葉が明智を襲う。

 明智はソロ序列戦で氷堂に敗れている。だからこそ氷堂との実力差は明智が1番わかっているはずだ。


「心配してくれてありがとう。氷堂さんって優しいんだねっ」


「何を」


 明智から思いもしない返しがきて、氷堂が言葉に詰まった。

 今回は明智が一枚上手だったみたいだ。


 会話ができていたのもここまで。

 ドラゴンの姿を目の前に捉えると、自然と表情が引き締まった。とてつもないプレッシャーが無意識に体を震わせる。


凍てつく花弁(フリーズンペタル)!」


 氷堂が校舎の壁に氷の花弁を展開させ、火を鎮火させる。

 その動きに反応して視線をこちらに向けるドラゴンことガイン。


 敵は4人と聞いていたが、ここにはガインの姿しか見当たらない。


「初めから全力で行くぞ! 炎焔十字架剣フレイミングバスタード!」


 仕掛けられる前に仕掛ける。

 後手に回っていては勝ち目がないと判断した千炎寺が炎に包まれた緋炎を上空へ投げ放つ。


 ガインの頭上まで飛んで行った緋炎は、ぷすぷすと音を立てながら巨大化する。

 体が大きいことは一見するとアドバンテージになり得るが、的になりやすいというデメリットもある。

 この図体では俊敏性もそれほど無いだろう。


「食らえッ!」


 千炎寺が両手を振り下ろす。

 正真正銘、千炎寺の全力技。緋炎の先端を纏っている炎が輝きを増す。


 一方のガインは迫り来る緋炎に照準を合わせるかのように静止した。

 そして、口を開ける。


龍の火炎砲(ドラゴン・キャノン)


 ガインが口を大きく開けた瞬間、物凄い出量の火炎砲が発射された。

 恐らく校舎を一瞬で火の海に変えた攻撃と同じものだろう。


 その火炎砲が巨大化した千炎寺の緋炎とぶつかり、あっという間に飲み込んだ。火炎砲の勢いは衰えることを知らず、そのまま空を覆っていた雲まで切り裂いた。


「ハ、ハハッ、嘘だろ」


 千炎寺が力なく笑う。

 たった一撃でこれだけの力の差を見せつけられたのだ。戦意喪失するのには十分だ。


「千炎寺くん!」


 しかし、この戦場では一瞬の気の緩みが命取りになる。

 明智の悲鳴にも似た叫びが千炎寺の名前を呼ぶ。


 目の前の千炎寺に向かってガインの右手が振り下ろされたのだ。


殻破りの大竜巻ブレイクシエル・トルネード!」


大光線メガ・レーザー!」


 それを見ていた千代田が竜巻を、明智が光線を放つ。


龍の鉤爪(ドラゴンクロ―)


 強靭なドラゴンの爪が竜巻を切り裂き、レーザーをも弾き飛ばした。

 だが、全く意味がなかったわけではない。

 2人の攻撃は、僅かにガインの攻撃の軌道を逸らすことに成功していた。


 が、


「キャーーーーーーー―ーー!!!!」


 直撃は免れたもののガインが地面を抉るように切り裂いたため、千炎寺、千代田、明智がそれぞれ後方に吹き飛ばされた。


 氷堂はいつの間にか生成していた氷剣を地面に刺して風圧に耐えている。

 オレもなんとか地面に這いつくばることで吹き飛ばされずに済んだ。


「大丈夫か!」


 風が収まり、後ろに吹き飛ばされた3人の安否を確認する。

 しかし、返答がない。

 姿が見えないことから窓を突き破って校舎の中まで吹き飛ばされた可能性がある。


 明智と千代田はともかく、幼い頃から刀の鍛錬を積んできた千炎寺が子供のように扱われてしまうなんて。


 それだけガインの攻撃力が高すぎるのだ。


「氷堂、どうする?」


「私が氷剣で斬り込むわ。神楽坂くんも体力を温存している場合ではないと思うけど」


「そうだな。オレも氷堂の動きに合わせて攻撃を仕掛ける」


 氷堂が頷き、氷剣を振り上げる。

 周囲に浮かび上がる複数の氷柱つらら


氷柱吹雪アイシクルストーム


 吹雪を追い風にして数十もの氷柱が一斉に放たれる。

 ガインの左足に向けられた氷柱は、次々と直撃していく。

 しかし、ガインが痛がる様子がない。


「効いていないのか?」


 氷堂の後を追いかけるようにして走り出していたオレは異変に気がついた。

 ガインの体を覆っている黒の鱗が氷柱を弾き砕いていたのだ。


「待て氷堂!」


氷華連牙アイスファング!」


 氷堂は氷柱で攻撃した場所目掛けて剣撃を繰り出す。

 回転しながらの2連撃。


 氷堂の剣がガインの左足とぶつかる度に氷の結晶が宙を舞う。氷剣が欠けているのだ。

 次の瞬間、ガインが氷堂を蹴り上げた。

 一瞬、氷の盾のようなものが見えたような気もしたが、氷堂は校舎の3階の壁を突き破り、視界から消えて行ってしまった。


 残されたのはオレ1人。

 これまでの戦闘を見るにオレがガインに勝つ確率は五分を下回る。

 攻撃力、防御力は間違いなく相手の方が上だ。


「さて、どうしたものか」


 オレはゆっくりとガインの下に足を進め、視線を合わせるために顔を上げる。


「1つ聞きたい。お前たちの目的は何だ?」


 千炎寺にしても氷堂にしてもこちらから攻撃を仕掛けていた。力で来られたら力で返すしかない。

 だからオレは別の切り口から、対話を試みることにした。


「GIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!」


「落ち着け。オレは戦わなくて済むのなら無理に戦いたくはない」


 ガインは、オレの話に耳を傾けるどころか凶暴さを増していく。

 窓ガラスを全て割った咆哮がボロボロになった校舎を震わせる。


 話に応じる気が無いのなら力で抑え込むしかない。

 非常に不本意だが、オレの仲間を傷つけたことも事実。

 やれるだけのことはやっておこう。


「来い、ドラゴン」


 手招きをしてガインを挑発すると、ガインはオレを踏み潰すべく右足を踏み込んできた。

 オレは身体強化の異能力を使い、難なく回避する。


 ガインが1歩踏み込むだけで、地面が大きく揺れる。まるで歩く地震装置だな。


「行くぞ」


 右拳に力を込める。

 次に使うのは橋場先輩の肉体強化だ。怪我が治ってから早朝や夜を使って自主練習を重ねてきたが、肉体強化の異能力を実戦で使うのはこれが初めてだ。

 筋肉を増幅させるイメージを頭に描く。


 踏み出してきたガインの右足に向かって渾身の一撃を振り抜く。


全力正拳突き(フルパワーナックル)!」


 くっ、なんて硬さだ。

 鱗1枚1枚が強固な盾の役割を果たしている。


 ミシリと音が鳴ったのは、オレの拳の方。

 いくら肉体を強化したと言っても対象の防御力がオレの攻撃力を上回っていれば傷つくのはオレの肉体だ。


 橋場先輩のような爆発的な威力が出ない。まだオレのイメージが足りないということだろう。後は単純な筋肉量の違いもあるか。


 なんとか腕を押し込んだが、得られた成果は鱗にヒビを入れたことだけ。


 1度距離を取り、態勢を立て直す。


龍の火炎砲(ドラゴンキャノン)


 ガインから距離を取った刹那、火炎砲が放たれた。

 近づけば爪が、離れれば火炎砲が。近距離も遠距離もカバーできるとか万能すぎるだろ。


 もしあれに直撃したら骨も残らないだろうな。

 目の前に赤い塊が迫る。


影吸収シャドー・アブソーブ


 オレは暗空の影の異能力を発動させ、ガインの影を両手に集めた。


漆黒の影が覆う世界(シャドー・ワールド)


 すかさず集めた影を自身の前に広げて盾を作る。

 ガインの影ということもあってかなり大きい。


 目の前に迫っていた火炎砲は、音を立てることなく闇の中に吸い込まれていった。

 攻撃を防ぐことはできた。


 しかし、こちらの攻撃が通らないのでは意味がない。

 火力の差で押されるのは目に見えている。


「!?」


 激しい衝撃がオレの体を襲う。

 頭の中で作戦を組み立てていると、ガインの尻尾が鞭のようにしてオレの体を吹き飛ばしたのだ。

 まるで空中に止まっているボールを思い切り弾き飛ばしたかのようにオレの体は校舎に一直線に飛んでいく。


 今まで見せたことの無い動き。

 あれだけ俊敏に動けるとは思わなかった。


「すみません、遅くなりました」


 オレの背中を小さな手が押した。

 聞き覚えのある声。


「暗空、助かった」


「遅れは取り返します。状況を教えて下さい」


 暗空の助けで無事地面に着地することができた。


「敵はガイン1人。氷堂や千炎寺たちも一緒に戦っていたが、残ったのはオレだけだ」


 暗空が変わり果てた校舎に目を向ける。

 ここで何が起きたかは大体把握したようだ。


「そう。馬場会長が未来を変えたことで敵の襲撃日が前倒しされた。そんなところですかね」


 暗空がそう言って影で自身の分身を作り出す。


「先輩たちもこちらに向かっているはずです。もう少しだけ私たちで持ち堪えましょう」


「ああ、教師たちもそのうち駆けつけてくれるはずだ」


 オレと暗空vsガインの第2ラウンドが始まる。

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