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序列主義の異能学院  作者: 丹野海里
第2章 華麗なる生徒会、学院存亡の危機編
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第50話 形勢逆転の一手

―1—


 放課後の教室に残り続けること1時間。

 テストに対して不安を漏らしていた生徒や、ショッピングモールで遊ぶ約束をしていた生徒もとっくの前に下校しており、この教室にはオレを除くとテスト勉強をしている女子4人組の1グループしかいない。


「そろそろだな」


 オレはスマホの画面に表示された送信済みメッセージを一読すると、画面を消して鞄を背負った。

 教室を出て、昇降口ではなく2階へと続く階段を上がる。目的地はこの上だ。


 誰ともすれ違わないままさらに階段を上がっていくと、2階と3階の踊り場でスマホに目を落とす土浦つちうらの姿があった。

 土浦はオレに気がつき、スマホをポケットにしまう。


神楽坂かぐらざか、人を呼びつけておいておせぇーんだよ」


 土浦が手をポケットに突っ込んだまま鋭い視線を向けてくる。

 そう、オレが今日の朝メッセージを送信した相手がこの土浦なのだ。


 オレが抱えている疑問を解決できるであろう人物の1人。

 いや、上級生との接点が少ないオレにとっては唯一の人物と言ってもいいだろう。


「待たせてしまったことは謝る」


「ったく、こっちは馬場ばばからペナルティーを受けた関係で後輩との接触は目立つんだよ」


 それを考慮した上でこの時間にしたのだが。

 まあ、これ以上何を言ったところで火に油を注ぐだけか。


「そういえば、馬場会長はソロ序列戦が終わったらペナルティーを与えるって言ってたな。どんな内容だったんだ?」


 下剋上システム以降、大人しくなった土浦の様子を見ればペナルティーが重かったことが窺える。


「チッ、隠したってどうせわかるからな。全バトルポイントの没収。それが俺に課されたペナルティーだ。序列24位だった俺も今じゃあ最下位だ」


 あまりにも重いペナルティー。

 しかし、被害者の千代田ちよだやその他の生徒のことも考えると妥当な判断か。

 退学になっていないだけ馬場会長の優しさとも取れる。


 だが、ここにきて新たな引っ掛かりが生まれた。


「生徒会にバトルポイントを没収する権限なんてあるのか?」


「さあな、それは俺にもわからねぇー。だが、馬場にペナルティーを言い渡されたその日の内に俺のバトルポイントが0になったことは確かだ」


 土浦がスマホを取り出し、操作を始めた。


「見てみろ」


 こちらに画面を向けたままぐっと手を伸ばす土浦。

 そのままでは見えないため、画面が見える位置まで近づき確認する。間違いなくバトルポイントの欄には0ポイントと表示されていた。


 生徒会にバトルポイントの没収権があるとするなら、学院はそれだけ生徒会を信頼しているということになる。


 それか、馬場が学院側に事実を報告したことで、動かざるを得なかったのか。

 考えられるとしたらその2通りくらいだろう。


「俺の話はいいんだ。神楽坂、わざわざメッセージまで送ってオレを呼びつけた理由は何だ? お互いいつまでもここで話してるわけにはいかねーだろ」


 土浦は周囲を警戒する素振りを見せながら早く本題に入れと急かしてきた。

 オレとしてもあまり時間をかけたくなかったのでちょうどいい。


「ソロ序列戦が終わった今、1年生の半数が退学の危機にさらされている。救済措置として前期中間考査の上位30人にライフポイントのボーナスが支給されるようだが、それも一時凌ぎにしかならない」


「そういえばそんな時期だったな」


 自分も経験したかのような口振り。

 今ので確信した。オレの予想は正しい。


「退学を巡って複数の派閥が生まれた。退学阻止を目的とした序列下位者の派閥、退学者が出ても仕方がないという序列上位者の派閥。この2つの派閥の間に大きな溝ができている」


 テスト範囲が公開されたあの日、西城さいじょう明智あけち浮谷うきやの意見はそれぞれ異なっていた。

 人間だから異なった考えを持つのは当然のこと。


 しかし、その考えを大勢の前で発信することはなかなかできたことではない。


 だからこそあの議論を耳にした生徒の中に心を動かされた者が出てきた。その者たちは自分が支持する生徒と行動を共にするようになったのだ。


 今では1学年の生徒が西城派、明智派、浮谷派、傍観することを決めた無派閥でわかれている。


「なるほど、対立するのは自然な流れだろうな。おてて繋いでみんな仲良くってのは脳が足りない奴らがやることだ。その点、1年はまだマシな方だろ」


 土浦は脳が足りない奴などと貶しているが、この方法こそ1年生が取らなくてはならない方法だとオレは考えている。


 このことにいち早く気がつき、いいや本人は気がついていないようだったが、彼の信念が結果として1年生を救うたった一つの希望となっている。


 多くの生徒に批判的な声を浴びせられながら、誰も退学者を出さない方法を西城は、今この瞬間も模索し続けている。


「風の噂で耳にしたんだが、1年生の序列戦は毎年同じものが採用されているらしいな。これは事実か?」


「そうだな、ルールとか細かいところは変わったりするが、ざっくりとした中身は同じはずだ」


「ということは、今の3年生もこのピンチを乗り越えたということになるよな?」


「まあ、そうなるな」


 初めてのソロ序列戦の後の前期中間考査。

 2年生と3年生にもオレたちと同様のピンチが訪れたことになる。


 テスト範囲が公開された日の夜、オレは問題解決の糸口を探るために学院のウェブサイトを眺めていた。


 そこで偶然、他学年の在籍者数を目にした。

 2年生が148人、3年生が161人とどの学年も退学者をほとんど出していない。


 2年生も3年生も最下位の生徒を見捨てなかったということだ。

 見捨てれば自分が優位な立場にいられるのに。

 なぜだ?


 しばらく考えた末、オレはこう結論付けた。


「退学者を出さないことにメリットがあるんじゃないか?」


「ふっ、これは驚いた。戦闘に限らず頭もこれだけキレるとはな。そうだな。神楽坂の言うようにメリットはある」


 土浦を呼び出した理由がここにある。

 退学者を出さないメリットを聞き出すことができれば、偏った派閥の形勢逆転も難しくはない。


「だが、ただで話すわけにはいかねぇーな」


「土浦、自分の立場がわかってるのか?」


「ああ、わかってるさ。だからこそだ。神楽坂、今後学院でオレに関わるな。教えるのはそれが条件だ」


「わかった。学院にいるときは声を掛けない」


 間を置かずにオレは答えた。

 そんなことで貴重な情報が聞き出せるのなら安いものだ。


「決まりだ」


 土浦がニヤリと右の口角を上げる。

 そして、退学者を出さないメリットについて話し出した。


「今年も例年通りだとすれば、学年末に行われる最後の序列戦で他学年対抗序列戦というものが開催されるはずだ。その序列戦では学年が1つになって他学年に立ち向かわなくてはならない。つまり、人が多いほど有利って話だ」


「学年が束になって戦う序列戦か。確かに上級生を倒すとなると人数が必要になってきそうだ」


 1学年の序列上位者がいくら頑張ったところで人数と言う壁を超えることは厳しい。

 ましてや上級生が相手となれば経験差も出てくる。1年生は総合力で確実に劣るだろう。


 やはり、こんなところで退学者を出している場合ではないな。


「聞きたいことはこれで終わりか?」


「ああ、助かった」


 オレの言葉を聞き、土浦が階段を下り始める。


「何が助かっただ。これでお前と話すことはないな」


 背中しか見えなかったが、なぜか土浦が笑っているような気がした。

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