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序列主義の異能学院  作者: 丹野海里
第1章 異能力者育成学院、ソロ序列戦編
17/193

第17話 赤髪の少女

—1—


 翌日、金曜日の昼休み。

 オレは勉強道具を持って図書室に向かっていた。


 ここ最近、1学年の生徒の間では総当たり戦や下剋上システム、ソロ序列戦など、戦闘に関する話題が多く上がっていた。

 もちろんこの学院では序列が絡んでくるため、バトルも大切な要素の1つなのだが、忘れてはならないのはオレたちはあくまで学生ということだ。


 では、学生がやらなくてはならないことといえば何か?

 答えは簡単。勉強だ。


 来週の日曜日、4月26日から始まるソロ序列戦が終わればすぐに前期中間テストがやってくる。

 出題範囲は入学してから5月中旬までの間に学んだ項目とかなり絞られてはいるが、大会後からテスト勉強を始めていたのではとても間に合わないだろう。

 それに範囲が狭い分、内容の濃い問題が出題されることは容易に想像できる。


 1度見ただけで見たもの全てを記憶できるという『完全記憶能力』などを持つイレギュラーな人物を除き、勉強はコツコツ積み重ねていくものだとオレは思う。


 中には一夜漬けで乗り越えようとしている者もいるみたいだが、果たしてどうなることやら。

 どちらにせよオレがどうこう言う話ではない。人それぞれ自分に合った勉強スタイルがあるのだろう。


 オレのこれまでの経験上、突発的に行動して良い結果が出たことは少ない。良い結果を出すためには前もって準備が必要なのだ。

 ある程度の準備さえしておけば大きく躓くことは無い。例え悪い方向に転んでも被害を最小限に食い止めることができる。

 これは勉強だけでなく、戦闘にも同じことが言えるはずだ。


 テスト1カ月前のこの時期から始めておけば心にも多少の余裕が生まれるだろう。

 後で後でと先延ばしにしていては、いざその瞬間になったとき何があるかわからないからな。

 何においてもできるときにやるべきなのだ。


 とまあ、そんな訳でオレは静かな場所を求めて図書室へとやって来たのだった。


「意外と広いな」


 それが図書室に入って第一に感じた素直な感想だった。

 教室やグラウンドも初めて見たときはかなりの広さに驚かされたが、まさか図書室までもこんなに広いとは。


 ジャンル問わず月に4~5冊程度の本を読むオレからしたらここは楽園に近い。

 読書好きの氷堂ひょうどうが知ったらさぞ喜ぶだろうな。


「そうだ。勉強をしに来たんだった」


 無意識に本棚と本棚の間を歩き回っていたオレは当初の目的を思い出した。

 奥に進むと日当たりの良いテーブル席がいくつかあった。昼休みで昼食を取っている生徒が多いからか席も空いている。


 オレは太陽に背を向けるよう席に着き、持ってきた教科書とノートを開いた。

 時間をかけて解く数学や国語は家でやるとして、学校では暗記科目を中心に解いていく。


 ただひたすらに問題をノートに解きまくる。それを数日に分けて行う。反復して問題を解くことで頭にも残りやすくなるのだ。


「んにゃむ……にゃ、も、もう、食べられませんってば……んにゃ、んっ」


 問題を解き始めて数分。

 自分の腕を抱えるようにしてテーブルに突っ伏していた少女が、むにゃむにゃと寝言を声に出した。

 周りにも人はいたが、とても小さな声だったので斜め向かいの席に座るオレにしか聞こえていなかったようだ。


 よく見ると、その少女は同じ1年の浅香あさかちゆだった。

 1回目の総当たり戦で保健室に行くと言った岩渕周いわぶちあまねの付き添いに立候補した少女だ。


 活発なタイプで人当たりもいい。

 岩渕のような癖のある人間も浅香とはコミュニケーションを取っているようだ。


 女子の中で学年の中心人物は誰かとアンケートを取ったら浅香あさか明智あけちに票が集まるだろう。


 その浅香の薄紫の髪に日の光が当たっている。

 手にシャープペンが握られていることから勉強の途中で眠気に耐え切れずテーブルに吸い寄せられたのだろう。

 気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てている。


「やっぱりまたここで寝てた。ちゆ発見」


 浅香の友人と思われる人物が近づいてきた。

 問題を解く手を止めて顔を上げると、そこには昨日異能力者育成学院ドームスペードでオレの隣にいた赤髪の少女がいた。


 馬場ばばが使っていた剣のことを《《魔剣》》と言っていた彼女に機会があれば話し掛けてみようと思っていたが、まさかこんな早くにその機会がやってくるとは。


「ちゆ、起きて。授業始まる」


 赤髪の少女が浅香のことを揺する。


「んっ? あっ、いのりんおはよう」


「よだれ垂れてる」


「にゃ! 恥ずかしっ」


 赤髪の少女に指摘され、浅香が慌てて口元を拭った。

 そして、浅香の視線がゆっくりと斜め向かいの席に座っていたオレに向く。


「ねえねえ君、もしかして見た?」


「な、なにをだ?」


「あーその反応は絶対見た人の反応だ! うー、誰にも言わないでよっ」


 人差し指を突き付けて頬を赤らめる浅香。


「ちゆ、図書室では静かに。他の人に迷惑」


 図書室を利用している人が少ないとはいえ、今の浅香のボリュームは少し大きかった。


「もう、君のせいでいのりんにも怒られたじゃん。名前は? 名前教えてっ」


神楽坂春斗かぐらざかはるとだけど」


「神楽坂くんね。私は浅香ちゆ。んで、こっちが私の親友の火野ひのいのり、いのりん」


「えっ、なんで私まで……」


 何の前触れなく自分のことを紹介されて火野が困惑した表情を浮かべる。


「それでいのりん、何だっけ?」


「うん、授業始まるから探しに来た」


 火野はなぜ自分のことまで紹介されたのかわからないまま浅香を起こした理由を話した。


「もうそんな時間か。ごめんねいのりん。じゃあ行こっか。神楽坂くん、誰にも言わないでよ。約束だからねっ」


 浅香が席を立ち、勉強道具を抱えて火野と共に去って行った。

 浅香が目を覚ましてから立ち去るまでの時間はほんの僅かの時間だったが、なぜだかどっと疲れた気がする。


「あっ、結局魔剣については何も訊けなかったな」


 終始浅香のペースだったため、火野と会話をする隙も無かった。

 まあ、初対面でいきなりするような話でもないか。

 今回は名前を知れただけよしとするか。高校生活はまだ長いしな。

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