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序列主義の異能学院  作者: 丹野海里
第1章 異能力者育成学院、ソロ序列戦編
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第12話 氷堂真冬は待ち伏せる

—1—


 腹を満たしたオレは真っ直ぐ寮に帰ってきた。

 ショッピングモール内を散策したいところではあったが、遊びに誘われていないオレが明智あけちたちと鉢合わせになったら気まずい。


 いや勘違いしないでほしい。決してオレ自身が気まずいというわけではなくて、明智たちの方が気まずいだろうという意味だ。

 自分で言うのもなんだが、意外とそういうところには気を配れる方だ。


 というわけで、寮に帰ってきたのだが、ここで1つ問題が発生した。


「やっと戻ってきた」


 エレベーター前のロビーで本を読んでいた銀髪碧眼の少女、氷堂真冬ひょうどうまふゆがパタンと本を閉じ、顔を上げた。


「ロビーで読書とはよっぽどの本好きなんだな」


「本は私の知らない世界をたくさん見せてくれるわ。でもダメね。ここは人の出入りが激しくて集中できない」


 そう思うなら自分の部屋で読めばいいのにと内心思ったが、どうやら氷堂はオレを待っていたみたいなので口には出さない。


「それで、集中できない読書までしてオレを待っていた理由は何だ?」


「誰も神楽坂かぐらざかくんを待っていただなんて言ってないわ」


 ムッとした顔で氷堂が本を持つ手に力を入れる。

 そのまま投げつけられたりでもしたらたまったもんじゃない。いつでも防御できるように氷堂の手に意識を向けておこう。


「なによその顔は。わかった。信じてないって顔ね。いい? この本の主人公が未来から現代にタイムリープして仲間の元に戻ってきた場面を読んで、《《やっと戻ってきた》》って言ったの。しばらく主人公不在で物語が進んでいたからどうなることかと不安だったのよ」


 氷堂が本の表紙をばんばんと叩き、ストーリーの一部を熱く語る。

 その姿は正真正銘の読書家だ。


「なるほど、どうやらオレの勘違いだったみたいだな」


「そうよ。なんで私が神楽坂くんを待たないといけないのよ」


 総当たり戦のときに見せた鋭い眼光をオレに向ける。


「じゃあ、オレは帰るぞ」


 オレに用が無いとわかった今、ここに長居する理由はない。


「あっ、ちょっと待って。この後少し時間ある? よかったら私の部屋に来ない?」


 辺りを見回して人が来ないことを確認してから小さな声で氷堂がそう言った。


「オレはいいけど氷堂はいいのか? 誰かに見られたら勘違いされるかもしれないぞ」


 今日は休日。氷堂も言っていたが人の出入りも多い。

 男を部屋に招き入れているところを誰かに見られでもしたら、もしかしてあの2人って付き合ってるんじゃないかと疑われる可能性がある。

 高校生はそういうのに敏感だと聞いたことがある。


「私は別に気にしないわ。そういうのにも慣れてるから」


「そうか」


 氷堂は性格が少々キツイところもあるが、外見は人形のように可愛い。

 雪のような白い肌に肩まで伸びた銀髪。ぱっちりとした目は青く透き通っている。

 これだけ可愛ければそういう噂も散々されてきたのだろう。


「8階よ」


 エレベーターに乗り込んだオレは氷堂に言われて8階のボタンを押す。

 確か千代田ちよだも8階だったな。今日は何をしているのだろうか。明智たちと一緒にショッピングモールにでも行ったのだろうか。それとも人見知りをする千代田のことだから家でゆっくりしているのかもしれない。


 休日の過ごし方も人それぞれだ。

 予定が空白だったオレが女子の部屋に行くことになるなんて想像もしていなかったが。


—2—


「何してるの? 上がっていいわよ」


「あ、ああ」


 同じ寮に住んでいるのだから部屋の間取りは同じ。

 しかし、ほのかに良い匂いがするのは気のせいだろうか。何と言っていいかわからないが女子の部屋って感じだ。

 思い返せば他人の部屋に入ったのは生まれて初めてかもしれない。


「今お茶を出すから適当に座って待ってて」


 氷堂がキッチンへお湯を沸かしに行った。

 その間に部屋の中を見回す。家具は白色で統一されていて明るく清潔感がある。物もそれほど多くなく、クローゼットにソファー、テーブル、時計などセンス良く配置されていた。


 その中でも特に目を引いたのはぎっしりと本が並べられた本棚だ。

 シリーズものから1冊で完結するものなど様々で、ジャンルも幅広い。中にはオレが知っているタイトルもあった。


「気になる本でもあった?」


「いくつか興味を惹かれるタイトルはあるな。それと凄い量だなと思ってな」


「これでもごく一部よ。あまりに多すぎるからお気に入りのものだけ持って来て、残りは実家に置いてきたの。はいお茶」


 差し出されたお茶に口をつける。

 うん、体の内側から温まる。


「それで、場所を変えたのには理由があるんだろ?」


 お茶を飲み、一息ついたオレはそう切り出した。


「ええ、他の人に聞かれるとお互い面倒なことになりそうだったからね」


 大体の予想はつく。

 2日前に行われた総当たり戦。2戦目に氷堂と戦ったオレは後少しのところでカウンターを食らい敗れた。


 バトルの後、氷堂がオレに何か言いかけていたが鞘師先生の声に掻き消されて聞き取ることが出来なかった。おそらくそのことだろう。


「総当たり戦のとき、神楽坂くんは私に『手を抜かれたバトルほどつまらないものは無いからな』と挑発的なことを言っていたわ。でもあなたは最後の最後に手を抜いた」


「なんのことだ? あれは完全に氷堂の勝ちだっただろ。オレの実力は特待生レベルに届いていなかった。それだけのことだ」


「とぼけなくていいわ。ここには私と神楽坂くんしかいないのだから。これじゃあ、わざわざ場所を変えた意味がないわ」


 あのバトルを傍から見ていた人であれば気付くことは無かっただろう。

 現に学校では友人の少ないオレの所にでさえ「さすがは氷堂真冬。特待生は違う」などという声が入ってくる。


 しかし、戦っていた本人、特待生レベルともなるとその違和感を感じ取ったみたいだ。

 オレが最後の最後に手を抜いたのではないかという違和感を。


 確かに氷堂の決め技、氷拳打破フリーズンブレイクは強烈だった。氷の剣を持っていながら逆の拳でとどめを刺しに来るというフェイントにも驚かされた。

 だが、オレもその気になればいくらでも防ぐことはできた。


 それならばなぜそうしなかったのか。氷堂はその答えが知りたいのだろう。


「1つ言っておくが、オレは決して手を抜いていない。氷堂の拘束する氷を殴って砕いたのも、盾に防がれたが懐に飛び込んで一撃を入れたのもオレの全力だ。その上でカウンターを食らった」


「あなたなら防げたはず」


「受けてみたくなったんだ。勝利への執念に燃えるあの眼を見たらなぜだかわからないが、直接自分の肌で受けてみたくなったんだ」


「何よそれ。やっぱり神楽坂くんは変な人ね」


「変な人か……そうかもしれないな。オレはまだ表舞台に出る気はない。まだ高校生活は始まったばかりだ。マラソンでもそうだろ。初めの内から飛ばしていたら終盤にばてて追い抜かされてしまう」


「だから今は体力を温存していると?」


「まあ、そんなところだ」


 オレに一撃を入れた拳を見つめ納得していない表情を浮かべる氷堂。

 オレが今話せるのはこれくらいが精一杯だ。近い未来、敵になるかもしれない相手に全てを話すわけにはいかないからな。


 オレがこの学校に来た目的を果たすその日まで、オレはオレのやり方で序列という壁を駆け上がる。

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