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 幾度となくぶつかり合い何度も殺した。ひたすらに殴って殴って殴り倒した。何度も戦っているうちにより効率的な戦い方を習得していった。俺が成長していくたびに同じように奴も強くなっていく。それが楽しくて楽しくてより一層戦いに没頭していった。そうして俺はこの永遠の戦いを楽しんでいると、これまで黙っていた奴が急に喋り出した。


「はぁ、はぁ、いつまで続けるつもりなんだ?」


「もうへばったのか?俺の心を写したものなんだろう?なんでそんなに疲れているんだ?楽しもうぜ」


「お前のココロを写している俺が言うのもなんだが、ホントにイカレてるよ」


「やっぱり完璧に写しているといっても温いな。どんな人間でも持っている心の汚い部分、お前はまだそこに気付けていない」


「何を言っている!俺はお前のココロそのものだぞ!お前のことはすべて知っているはずだ!」


「いや?何を言っている俺の心ならわかるはずだ。無意識に隠した醜い欲望が」


「そんな訳……なんだこれ、なんなんだよこれはあああああ!!!」


 ようやく気付けたみたいだな、長かったよこれでようやく楽しい戦いが始められる。俺のココロが発狂しているみたいだが、別に特殊な思いがあったわけじゃない。人間の誰しもが一度は必ず思うものだ。


 それは他人を殺したいと思うこと。遊びで言ったり、本気で言ったりと様々あるが俺はどうやらこの部分が普通ではなかったようなのだ。人を見るたびにコワしてみたいと感じたり、殺してみたいと感じてしまうのだ。


 息をするように自然に思ってしまうのだ。


 それが異常だと感じながら普通を演じ続ける。狂いそうだと思ったことは幾度もあるが全てを飲み込んでしまいこんだ。ニュースや新聞で人が殺されたと毎日のように報道されているが、それを見るたびにああ、こいつらは自分の衝動に“耐えきれなかったのか”と思ってしまう。


 そうやって普通に生きて、楽しいこともなくなったから自分で自分を殺した。いじめがあった訳でもなければ、家庭環境が終わっているわけでもない。ただつまらなかったから死んだだけなのだ。


 そうして地獄に行って一方的に殺され続ける。そんなことを思っていたのに俺は今ここにいて自分のココロなんてものを殺し続けている。だからこそ、今まで必死に抑え込んできた殺意が、狂気が、破壊衝動が、目を覚ましてしまった。


「さてと、飽きるまで付き合ってもらうぞ俺のココロよ」


「コロスコロスコロス!、コワスコワスコワス!!」


 どうせ狂ったフリをしているだけだろうがそれでも楽しめればそれでいい。

心が満たされていくのを感じる、今この瞬間俺は最高の気分だ!これこそが俺の求めていたセカ……


「本当にそれでいいのか?守夜桐継このままではお前は鬼に堕ちるぞ?」


 こいつ、どこから現れやがった?気配も何もないところから突然現れやがった。まあ、そんなことはいいか。それよりも気になることがある。


「それは、どういう事だ?」


「そのままの意味だ、このまま己を殺し続ければそのうち、ただ何かを殺すだけの鬼となる。まあ、もともとその素質はあったようだがな。ここが最後の分岐点になる。よく考えるんだな」


 まるで脅すように夜叉は言葉を投げかけてきた。だが、気になることがある。いったい何のために忠告しに来たのだろうか?前に期待されてるとかなんとか言ってた気がするがその関係か?まあ、よくわからんから聞いてみるか。


「何のために忠告しに来たんだ?俺はここで永遠に近い時を、自分を殺すことで贖罪をする。そのためにいるんじゃないのか?」


「それは、自分と向き合うことを放棄しているだけに過ぎない。俺が此処に来たのは、閻魔様に期待をかけられたお前がこのまま俺に切られることが、ほんの少しだけもったいないと思ったからだ。」


「へぇー、このまま鬼になると、俺はあんたに切られんのか?」


「ああ、そうだ。鬼に堕ちた者を切ることが俺の仕事の一つだ。精々、気張れよ」


 なるほどなこのまま鬼になると夜叉に殺されるらしい。なんだよそれ、そんなの普通ならココロに向き合う方法を変えるしかないだろうが!


 ……なんて、つまんねえ考えはしない。俺はイカレてるみたいだからな、イカレてるやつらしく鬼に堕ちてみるか、そっちの方が面白そうだし。


「それじゃあ、鬼に堕ちた後か向き合い終わったらまた来る」


 そう言って夜叉はどこかへと消えていった。取り敢えず目の前にいる“俺だったもの”と向き合った。俺のココロだったものは、今や異形と化しその姿はまさしく“鬼”だった。


「これが俺の本当の姿か……いいね面白くなってきた」


「ォオオオオオ!!」


 こちらは相手を倒す為の武器もなく、身体を守る鎧もない。まさしく絶体絶命だ、それに対して鬼と化したココロは、強靭な肉体と金属でできた棍棒を持っている。普通に考えて圧倒的にこちらが不利だし、もしこれがゲームだとしてもクソゲーの誹りを受けるのは確定だろう。


 そもそも、こちらは武器を持たなきゃ傷すら付けられないのに対して、相手は拳の一振りで俺をミンチに出来る。ホントにやってられないな。これだけ理不尽だと笑いがこみあげてくる。まあでも、やるしかないのだからできうる限りのことをやるだけだ。


 そう気合を入れて俺はまずひき肉にジョブチェンジした。





 ……はぁ、取り敢えず百回ほどすり潰されてからどうやって鬼を殺すか考えている。一応死んだあとは鬼から約200メートルほど離れて生き返らされる。


 こちらに気付くのに一秒。発見からこちらにたどり着くのに最大で約八秒かかる。そうすると大体九秒ほど時間があるわけだが、これだけしか時間がないとまともに対抗策を考えることもできない。ということで今現在対抗策を考えるために、鬼の攻撃をひたすら避け続けている。


「うーん、殴っても効いてないしかといってここには石も木もないからなー……おっとあぶね!」


 考え続けているがやはりいい案は出てこない。どうしたもんかと考えていると避け損ねて頭を“棍棒”でカチ割られた。やっぱりこれしかないか。ようやく条件がそろったわけだしなやるか。



 復活し、今までの一方的な戦いを振り返る。まず奴はこちらを発見すると咆哮をあげながら突進し、その後必ず棍棒を振り上げ叩きつける。この攻撃を避けられるようになるのに百は死んだ。追尾性高すぎるんだよなー、っとそこはどうでもよくて、この攻撃を行った後めり込んだ棍棒を引き抜くのに一秒ほどかかるためこの攻撃が最初で最後のチャンスだ。


 棍棒を引き抜いた後は滅茶苦茶に振り回したり、拳で攻撃してくるため避けることはある程度は可能だが、攻撃を入れることは不可能だ。


「さあ来い!」


 唸りをあげる棍棒に対してギリギリまで引き付け、一歩前へ踏み込み半身になって避ける。そこから、鬼は全身を使って振り下ろすため頭が手の届く範囲まで下りてくる。そこにすかさず勢いを乗せた全力の掌底を顎に打ち込む。


 意識を飛ばすことは不可能だが、一瞬だけ全身が弛緩する。その瞬間に手首を思いっきり殴る。全身が弛緩している状況なら俺の貧弱な攻撃でも棍棒を手放させることは可能だ。案の定棍棒を手放し、すかさずそれを持ち上げようとしたが、重すぎて持ち上げることは出来なかった。

そしてそのまま、振り下ろされた拳に俺は、頭を潰されて死んだ。




「はぁ、持ち上がらないことは想定してなかったなぁどうするかー」


 こうなってくるともうできることは一つだけだ。

 今一度覚悟を決めて戦いに挑む。

 こうやって考えながら戦うのはやはり楽しいものだな。


「さて、やることはさっきと同じだ。まず攻撃を避ける」


 声に出して精神を落ち着かせる。頭に振り下ろされる棍棒を避け、掌底を打ち込み今度は跳ね上がった頭によじ登って両目を指で抉った。


「ウガァアアアア!!!」


 両目を破壊された鬼は堪らず声をあげ、首につかまっていた俺の服を掴みぶん投げた。投げ飛ばされることはもう慣れていたため、ダメージの少ない体勢に変えて着地した。


「さーてと、こっからどうするかな?」


 唯一潰せる目をやった後は、他に攻撃できる部位は存在していない……待てよ?壊された地面は今どうなっている?死んで復活した後は何もなかったかのように壊れていた部分は綺麗に直っていたが、今はまだ俺は死んでおらず地面は砕けたまま。と言う事は、壊れた地面から石を採る事が出来るかもしれない。


 それに何より、あれ程強烈に叩き付けているのなら“鋭い石”があるはずだ、それを使えば殺すことは可能だろう。ただ、一つ問題がある。それは、壊れた地面が奴の近くにあるということだ。まるで竜巻のように棍棒をぶん回している中、石を採るのは非常に危険であると言えるだろう。ヘタを打たなくてもすり潰されてまた同じことをしなくちゃいけなくなる。


 だから、全力で走りながら、これ以上無いって程に集中して突っ込んだ。暴れまわる棍棒を紙一重で避け続けながら、やっとの思いで石を拾い上げた。そのまま、奴の体に向けて尖った石を思いっきりぶつける!ぶつけた場所は、運よく棍棒を持つ右腕に突き刺さった。


 突き刺さった痛みで、棍棒は落としたが、それと同時に左腕で殴り飛ばされた。咄嗟に右腕でガードしたおかげで、行動不能になるのは防げたが、右腕はもはや使い物にならない程にぐちゃぐちゃになった。


 ぶっ飛んで地面を滑ったが何とか生きている。生きているなら戦える。鬼は放り投げてしまった棍棒を探しているが、奴のすぐ近くに落ちているため早く取りにいかなければ勝機は潰えてしまうだろう。俺は、すぐさま棍棒を拾いに向かった。


 激痛に顔を顰めながら()()()棍棒を持ち上げる。すると、走る音と気配を察知してほんの数センチ横の地面を殴った。あれが当たっていたら死んでいたが、当たっていないなら何も問題はない。それに拳を振り下ろしてくれたお陰で、攻撃する隙ができた。


 左腕で持ち上げた棍棒を、体全体を使いながら思いっきり横に振った。流石に顔面には当たらなかったが傷つけた右腕に当てることは出来た。ボキッ!、と鈍い音がして鬼はバランスを崩して倒れこんだ。

倒れた鬼に対して、今度は潰れた右腕を添えながら振り上げる、痛みでどうにかなりそうだったがようやく殺せると思うと嬉しくて溜まらなかった。


「それじゃあな、また会おう」


 鬼はこの時、恐怖を顔に浮かべたまま自らの棍棒で頭をカチ割られた

あたりに水を含んだ物体が潰れる音が響いた


「ようやく、殺せた!やったぞ!アハハハハ」


鬼を殺せた喜びで狂ったように笑っていた所に男の声がした


「おめでとうございます、守夜桐継さん」


「いえ、こう言った方が良いですかね?……ようこそ己を殺した狂人さん」


「歓迎しますよ」


 額に一本の角を生やした細身の鬼はそう言った。


皆さんはつまらないからと言って簡単に死なないようにね('ω')

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