表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/27

地獄へ


「ん?ここは?」


川の流れる音が聞こえて目を覚ました。見回すとあたり一面に彼岸花が咲いており近くには大きな川が流れていた。


「俺は確か、屋上から飛び降りて死んだはず」


不思議に思っていると何かが川を渡ってくる音がした。立ち上がり何が来ても問題ないように身構えた。すると、木の船に乗った一人の人間らしきものがこちらに向かってくるのが見えた。なぜ人間らしきものだと思ったか?それは、舟をこいでる船頭が影で出来ていたからだ。そんなことを考えているうちに、舟はこちら側の岸にたどり着いた。その船頭はこちらを確認すると話しかけてきた。


「お前さん死人(しびと)だな?そんならこの船に乗んなさい。連れて行ってやるから」


そういって影で出来た船頭は手招きした。正直、ここにいても何もすることがないし乗ってもいいかなと思ったが流石に、“はいそうですか”と言ってついていくわけにもいかないだろう。


「なあ、お前さん。考えたってすでに死んでんだ此岸(しがん)には帰れないし、このまま此処にいたってなーんもすることはない。だから、この船に乗って彼岸に連れてってやるよ。なに、お代はいらんよ」


確かにその通りだな、よし!そうと決まればさっさと乗るか!そうして、少し不安定な木船に乗って川を渡る。


「ああ、そういえば言い忘れてたがお前さん老衰でもないし、誰かに殺されたわけでもないみたいだな」


「ええ、そうですがなんでわかったんですか?」


「なに、数えきれないほどの人間を運んだからわかるようになったんだよ」


「へー、そうなんですか。それで、言い忘れたことって?」


「お前さん自殺したんだろう?しかも、親を残して。お前さんと同じ“線”を持った奴はまだ案内してないからな」


「ええ、自殺しましたし、親も健在ですがなにか問題が?」


「問題も何もここでは、自殺と親より先に死ぬことは最上の罪に当たるんだぞ」


確かに生きていた頃に聞いたことがあったが、迷信だと思っていた。だが、“罪”ってのはなんだ?船頭さんの話しぶりから地獄に落ちることは確定しているんだろうが、“罪”の部分がよく分からない。


「船頭さん、質問なんですがその“罪”ってのはなんですか?」


「ああ、それはな……っと、もう着いちまったからこの話の続きは地獄で聞きな」


船から降ろされた先には暗く底が見えない穴があった。ここを飛び降りれば地獄につくのだろう。


「船頭さん、ここまでありがとうございました。お元気で」


「おう!お前さんも達者でな」


船頭さんは船を漕いで消えていった。


「さてと、いきますか」


そう独り言ちて飛んだ“あの時と同じように”


数十秒間紐なしバンジーを体験すると、穴の底にたどり着いた。そして、顔を上げるとそこには数え切れないほどに人が並んでいた。何よりも、地面は赤黒くひび割れており、空は血をぶちまけたかのように赤く紅かった。ここは間違いなく地獄なのだと認めることができた。


ただ突っ立っていても何も始まらないと思い、長すぎる列に並んだ。列の周りには子供ぐらいの大きさの鬼がいたり、大人よりもはるかに大きい鬼もいた。その鬼たちが列の周りで何をしているのか気になった俺は列に並びながら観察することにした。


 じっと観察していると列を追い抜こうとした人間に注意?をしたり、これから起きることに恐怖したのか逃げ出した人間を捕まえる役割があるようなのだ。また、遠く離れた先頭は巨大な鬼?人?(おそらく閻魔様だろう)と話をした後人間の方は近くに居る鬼にどこかへ連れていかれていた。連れて行かれる最中に怒鳴り声をあげていたが何もできずにただ運ばれていた。


 きっと俺もあの人間と同じように連れていかれるのだろう。そのことに恐怖を感じたが、致し方のないことだと自分に言い聞かせて順番が来るまで待った。


 ……どれだけ待っただろうか?俺の番がようやく来た。とりあえず今、目の前にいる鬼らしきものは、閻魔様であることが分かった。これから俺の審判が始まる。


「次は……、守夜桐継(もりやきりつぐ)。お前で合っているか?」


 物凄く低く威厳のある声で俺の名前を呼んだ。正直この声だけでビビっていたが、何か返事をしなくてはと思い声を出した。


「はい、合っています」


「ふむ、お前の“罪”は自殺と、親よりも早く死んだことか。なるほどな」


「そうだな……よし、夜叉!こいつを浄己(じょうき)の間に連れていけ」


「ハッ!承知いたしました!」


「もしこいつが耐えきり、使い物になるようなら報告しろ。次を呼べ」


 閻魔様は近くに居た鬼に指示を出した後、俺を一瞥して悪そうな笑みを浮かべていた。


「ハッ!承知致しました!、おいお前!ついてこい」


 夜叉と呼ばれた鬼についていかなければおそらく、いや確実に閻魔様に存在ごと消されそうだったのでついていくことにした。


「えっ?はい分かりました」


 “浄己の間”なんて聞いたこともなかったためそこがどんな地獄かなんてわかるはずもなかったが、この時の俺はまだ軽い方の地獄かな?と思っていた。だが、この“浄己の間”から本当の地獄が始まるなんて知る由もなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ