枷
予想以上に話が伸びてしまいました。おかしいな、この話で黒邪鬼の話を終わりにするはずだったんだけどなぁ。(;´・ω・)
「私の愛刀、禍津日封刀の斬撃を受けてここまで持ちこたえるとは……ここに来た当初と比べて本当に強くなりましたねぇ」
話をする余裕はない。奴の一挙手一投足を見極めて、次の手を考え続けなければ……簡単に殺られる。ここまでで出してきた技はたったの二つ。一つは、振るった場所全てを切り裂く、距離を無視した不可視の居合。もう一つは、腰を落とし、刀を顔の高さまで引き上げた状態からの突進型突き攻撃。居合を避けた瞬間、突き攻撃が飛んでくるため、避ける事が困難な非常に厄介な連撃と化している。
「この刀は、相手の持つ罪業の大きさによって強く、鋭くなる性質がありまして、今のあなたにはめっぽう効くのではないでしょうか?」
だが、真に恐ろしいのはそこではない。この二つの連撃には、技の起こりが全くないのだ。いや、その表現は正しくないだろう。恐らく、対峙している俺には極限まで認識させないようにしている為、技の起こりが分からず、一方的に攻撃をされている状態なのだろう。この絡繰りを見つけなければ、いつまで経っても防戦一方だ。何か、打開策はないものか。
「まあ、それ以外にも色々と能力が……おや?その顔は何かお困りの様子ですねぇ。よろしければ何か一つお答えしましょうか?」
クソ、このままじゃ埒が明かない。ここは、恥を忍んで技の絡繰りを聞くしかなさそうだ。
「なら、教えてもらおうじゃねぇか。その瞬間移動じみた技はいったいどんな仕組みだ?」
「なんだ、そんな事でしたか。この技は隙流と言う歩法の応用です。この技は、人の無意識の内のほんの僅かな隙に、流れるように滑り込むのがこの技の正体です。たとえ、人知の及ばぬ怪物だろうとそこに存在し、意識があるのならば相手の隙に入ることは可能です。ほとんど、自前の技術で入り込んでは、いるのですがそれでも完璧とはいきません。ですので、少々力は借りているのですよ、こいつのね」
そう言って持っている刀を指さす。それも、能力のうちの一つってことか。厄介だな。
「まあ、簡単に言えば階段を下りていて一段見落として、ヒヤッとしたことや、何気なく歩いてるときに石とかに躓くことがあるでしょう?で、躓いたり引っ掛かったりしたときにようやく、その存在に気が付く。まさしくその状況を、人為的に引き起こしているだけですよ」
なるほど、意識の隙を突くってそういう事か。なら、もっと集中していたらきっと攻撃を行う黒邪鬼を、認識できるようになるはずだ。
「とは言っても、全てを断ち切るはずの絶断や、貫き通す心貫を受けて、もはや傷つかなくなるのは少々異常ですよ、桐継さん」
「いやぁ、そこはほら、慣れですよ慣れ。人間何とかなるものですから」
「えぇー、そういう問題ではないのですが……まあ、いいでしょう。それにこれで、技の絡繰りが理解できたようですから、遠慮なく全力で使っていきますよっ」
―――っ!また消えた!確実に黒邪鬼を補足していたはずなのに、目の前から消え去ってしまった。上を見上げても、周りを見回してもどこにもいない。
不意に、首のあたりに違和感を覚えて咄嗟に体を捻り、腕をあげて回避と防御を行う。
すると、ギイィィン!まるで腕に刀がぶつかった音とは思えない音が響き渡る。鋭い痛みと巨大な何かがぶつかって来たかのような、衝撃を堪えて裏拳を繰り出す。だが、その時には既に黒邪鬼はおらず無駄に空振りしただけだった。
それにしても、我ながらおかしな体になったものだと、今しがた切られたばかりの腕を見る。皮が切れ、血が出ているがそれだけだ。普通の人間ではなくても、あれだけの勢いがついた斬撃を喰らえば、腕ごと首を刎ねられても不思議ではないのに、この程度の傷で済んでいるのは流石に異常であると理解できる。
「神葬一刀流 隙流絶断・重」
またもや何処かから攻撃が飛んでくる。直接斬りにくる場合や、遠距離から斬撃が飛んでくるなど様々あるが、やはり消えた黒邪鬼を見つけることが出来ない。どれだけ集中しても、どれだけ攻撃の瞬間を捉えようとしても、無駄だった。刀が俺の体に当たった瞬間や、その前後に違和感を覚えることはあっても、その違和感を捉えることが出来ない。
この違和感を何とかして、捉えることが出来たら、こちらから黒邪鬼に攻撃をすることが出来るはずだ。少しずつ傷が大きく、深くなっているのを感じる。最初は皮膚すらまともに斬れず、【貪喰】に喰われていたのに、今では【貪喰】で喰うことが出来ず体を削られている状況だ。
黒邪鬼の持つあの刀の能力だろうが、俺の【貪喰】の力が抑え込まれている、もしくは封じ込まれているようだ。だから、黒邪鬼の攻撃が効くようになっているのだろう。
「ほらほら、どうしたのですか?早く私を見つけなければ、死にますよ?」
そんな事は分かっている。だが、見つけられないのだ。
……確か、無意識に入り込んで攻撃していると言っていたが、いくら集中しても見つけられないのなら、集中しなければいいのではないか?息を吸い込み、心を落ち着かせて耳を澄ます。ここには風も無く、生き物もいない。つまり、俺と黒邪鬼以外が出す音は存在しない。
「ふむ、音を頼りに私を探し出す作戦ですか……見つけられるものなら見つけてみなさい」
肩の力を抜いて呼吸を整える。痛いほどの無音が耳に響く。聞こえてくるのはただ、自分の呼吸の音だけ。空気の揺らぎを感じたその瞬間には、斬撃が体を捉える。そこから更に一撃、二撃と体に当たり続ける。体を貫くその痛みと衝撃に耐え、攻撃の出所を探り続ける。
だが、いくら待っても窮地の主人公のように隠された力が発動する気配も無く、天啓が下りてきて気配の察知を習得できる気配も無い。その事に段々イライラしてきた。
―――ああ、鬱陶しい。
―――ここには、俺と黒邪鬼以外は存在していない。その上、ここを破壊しても大して問題は無いのだろう?
―――なら、俺が加減してやる必要なんてないじゃないか。
抑え込まれた力は、外に出たくて体の内を暴れまわっている。早く敵を貪れ、喰らい尽くせと暴れまわっている。もしこの場所が、他の生物が生息している場所ならこの選択は出来なかっただろう。
だが、ここでは抑える必要はない。最も、抑える必要があってもここまでイラついてるのだから、そんな考えは【貪喰】にでも喰わせておいただろう。
【貪喰】を抑え込んでいる刀の力を、喰い尽くす。外に溢れ出るのを抑え付けていた意思も外す。さあ、思うままに喰らってやろう。
「全てを喰らう、【貪喰】」
体のまわりに黒い何かが纏わりついたのち、世界へと広がって行く。その黒い何かはゆっくりと、だが確実に世界を侵蝕し喰らって行く。俺の足元以外は、空気であろうが何であろうが関係なく呑み込んで行く。周りの空気が無くなることで減った場所に空気が流れ込み、それを更に喰らうことでより多くの空気を喰らい、それに伴って世界の侵蝕もより大きく早くなる。喰らったものをエネルギーに変換し、空気も食べ物も要らない体に変えて行く。
「な、何てことしてるんですかぁっ!ちょ、早く止めてください!!」
知ったことか、こんなにも面倒くさい戦いにしてくれたんだ。全部喰ってやらないと気が済まない。
「ここを破壊されるのは困るのです!神葬一刀流奥義・神葬!」
黒邪鬼は焦りながらも、大上段に構えた状態から刀を思いきり振り下ろした。刀を振り下ろしたその先を一切合切、斬り裂きながら俺へと進んでくる。
目に見えないが全てを斬り裂き飛んでくるその斬撃そのものを、両手で挟み込み喰ってやる。
甲高い音が響き渡り、受け止めた衝撃で地面が裂け、捲れ上がり、砂へと変わりそれすらも【貪喰】で喰らい尽くして、無に帰す。
ここから先は、俺のターンだ。
ブックマーク六人!ありがとうございます。('ω')ノ