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貪喰

ああ、寒いよぉ('Д')

 

 暗い暗い闇の中、何かに導かれるように闇の底を目指して沈み続ける。沈んでいく途中に誰かの記憶が混じっているのを見かける。


 ……救えなくてごめん……何もできなくてごめん……お前のせいで……こうするしかなかったんだ、許せ……


 ここにある記憶のすべては、後悔や懺悔、憎しみや怒り、悲しみや苦しみ……そんな絶望が此処には漂い続けている。

 終わったことを悔やみ続け、記憶が体を縛り付けて闇の中に引きずり込む。そんな、終わらない連鎖が続いている。

 こんなにも苦しくてつらい想いを背負っている奴を、さっさと解放してやろうと意気込むと、周囲に漂っていた記憶達が纏わりついてきた。暴れることなく受け入れると、俺はどこかに立って居た。


 ここはどこだ、持ち主の記憶の中か?


 恐らく俺は今、何処かの誰かの記憶を追体験しているみたいだ。何故なら、辺りは廃墟ばかりで銃器やら兵器やら死体やらが散乱している。きっと何か戦いが起きて、ここら一帯が戦場になったと簡単に推測できる。


 発砲する音や悲鳴が聞こえないあたり、ここはもう終わった後なのか、それとも今は休戦状態なのだろうか?ここでは戦況を知ることは出来ないから、何とも言えない。


 だが、それにしたって音がしなさすぎる。結構、歩き回りながら人を探しているのだが、死体や兵器の残骸はあっても生存者が見つからない。記憶が何を見せたいのかは知らんが、生きている人間を見つけられないとすると、この風景の悲惨さを目に焼き付けろと言う事なのだろうか?


 生存者を探すのにも飽き始めていたその時、声が聞こえた。

 声のする方へと走っていくと、黒焦げになった死体を抱いた傷だらけの男がいた。


「※※※※、なんで……なんで……誰も助けてくれなかったんだ。どうして、俺たちを見捨てたんだ。お前がいなきゃ……生きる意味がねぇんだよ」


「ああ……よく分かった。世界が手を差し伸べてくれないのならば、こんな世界……俺が、滅ぼしちまえばイインダ」


 男は、狂気を浮かべて笑い続ける。男が抱いているのはきっと、男の家族や恋人、友人といった何にも代えがたい存在だったのだろう。


 確かに、悲しいお話だ。同情を禁じ得ない。同じような経験をしたことがあるからこそ、その気持ちが多少は分かる。胸が張り裂けるように苦しいのだろう、希望は絶望へと変化しすべてを憎んで破壊したくなるのだろう。それが、他人の手で行われているのならば尚更だろう。


 だが、それと俺に何の関係がある?この記憶は俺に同情してほしいのだろうか?これを見せることによって、俺の命を助けてくれないかとでも言っているつもりなのだろうか?そうだとするなら甚だ可笑しい。


 つまらん同情で、場を濁すくらいなら潔く戦って死んだ方がマシだろうに、本当につまらん。


「黙れぇええええ!!!お前に何が分かる!この俺の、この苦しみの何が分かるってんだ!!」


 男は喚きながら、拳銃を俺に向けて発砲した。実弾ではなくレーザーが出たのは驚きだが、今更対人間用の兵器ごときでは俺に傷をつけることは出来ないし、何よりも弾が遅すぎる。


「お前のことなど知るか、どうでもいいわそんなこと。逆に聞くがお前は俺の何を知っている?俺の何が分かる?答えられんことをいちいち聞くなボケナスが」


 レーザーを避け、一足で男のもとへたどり着き、頭を握りつぶす。それでお終いだ。ボロボロと世界が崩れ落ち、元の闇の中へ戻って来た。その後も何度か、陰鬱な話を見させられ、その話の核になっている人物を殺害し戻ってくる作業を繰り返した。


 色々な世界の悲劇を見てきた。ある時は子を失った親の話や、その逆の話。また、ある時は恋人や妻、夫を失った話。その他にも……数えきれないほどの憎悪や怒り、悲しみといったものを体験してきた。


 核戦争や、殺人事件、世界の終わりや災害。そういった物の話も中にはあった。確かに辛く、苦しく、悲しい話ではあるが、言ってしまえば俺には何も関わりが無い人間達なのだ。そんな俺に対して、悲しみを強要しないでほしい。


 随分と、長い間此処に居る気がする。それも、これで終わりだろう。なにせ、纏わりついてくる記憶の断片たちの数が今までで一番多く、なんとなくだがこれで終わりのような気がするのだ。


 さて、最後の記憶だと願って潜るとしよう。




 ……僕には愛すべき家族がいた。かけがえのない友人がいた。愛していた恋人がいた。世界は優しく、僕らを照らしていた。


 ……()()()()()()()()()。今も脳裏にこびり付いて離れない、あの地獄。

 あの時、僕は世界を憎んだ。この世界を終わることのない地獄へと叩きこむ事を決めた。


 ()()()()()()()


 少年は故郷を、人間によって破壊され、戦争によって友人と恋人を失った。亡骸を抱いて涙を流し、声を涸らせて運命を呪う。敵を憎み、守れなかった自分に怒り、やがて世界を憎悪した。


 少年は戦った。家族を殺した敵を抹殺し、友人を殺した敵を滅ぼし、恋人を殺した敵を殲滅した。復讐はこれで終わったはずなのに、少年は止まらなかった。

 ()()()()()()()()


 少年は自分の憎悪に呑み込まれ、敵を殺し、失ったものを欲し、()()()()()()()


 自我を失い、希望を失い、全てを失った少年は【暴食】へ至った。

 あらゆる世界を意のままに喰らい尽くした。神も、人間も、善も悪も何もかもを喰らい尽くした。


 喰らって、喰らって、喰らい尽くした後、少年は自分を取り戻した。

 喰らい尽くした世界を思い出して、何度もなんどもナンドモ発狂したが、それもいつしか慣れた。


 少年だったモノは、考える。僕のような犠牲者を増やさないためにはどうしたら良いのだろうか?

 そこで、考えついた。不幸や、悪意や、絶望を全部食べたら、きっと幸せな世界が出来ると考えついた。

 そうして出来た世界は、夢と理想にあふれ平和に、幸せに出来ていた。


 だが、他世界を喰らった罪は重く、彼の作り上げた理想郷は、神や世界の存続を司る者達によって破壊された。


 そして少年だったモノは、人間であることを止めた。


 破壊しに来た者たちを全て平らげた後、僅かに残った自我で自分自身を喰らった。

 そうすることによって、被害を最小限に留められる様にした。

 いつか自分を殺してくれる存在が来てくれる事を、願いながら……眠りについた。






 記憶がほどけて、闇へと消える。

 顔を上げれば、そこには膝を抱えた男の子が居た。こいつが、今さっき見ていた記憶の持ち主だろう。


「よお、少年。望み通り殺しに来てやったぞ」


「………………」


 反応がない。ただの屍のようだ。

 なんて、表現できるほどに何の反応もしない。


「君が辛い経験をしたのは今さっき理解した。その上で君に言おう」


「心底どうでもいい、記憶だったと」


 さて、これで何か反応するかな?


「あなたには、何一つ理解できないですよ。僕のことなんて」


「ようやく喋ったと思ったらまたそれか、そんなこと当たり前だろ?俺はお前と同じ経験をした訳じゃ無いし、君と同じ人間でも無い。つまり、君の事など理解しようが無い」


「ああ、確かにそうだね。ボクもあなたじゃ無いから分からないや」


「それで?最後に何か言う事はあるか?」


「ううん、無いよ。だって、あなたじゃ僕を殺すことは出来ないから」


 体育座りしていた少年がいきなり振り向いて、俺の心臓を貫いた。


「ほらね?これでもう、お兄さんはお終いだよ。【暴食】を持つ僕に勝てる存在は“僕”だけなんだから、こんな風にね」


 少年は空いている左腕で【リヴァ】を掴むと、瞬く間に()()してしまった。

 こうして俺は、メインウェポンを失った上に心臓も潰されている状況。普通の俺だったら、諦める所だが今の俺は一味違う。


 俺の心臓を貫いている腕を右手で掴む。


「あれ?僕の手に触ってどうするつもりなの?」


「これで最後だ、終わりを告げる言葉はそれで良いか?」


「何言ってるの?この状況でどうやって僕を倒すっていうんだい……?あれ……からだが……」


 彼が持っているのは俺と同じ【暴食】だ。同じ【暴食】を持つものが戦えば、より強い方が勝つのは自然だろう。しかし、完全なまでに使いこなした【暴食】と俺が持っている中途半端な【暴食】では、万が一に勝ったとしても、【暴食】に精神を侵されてバッドエンドだろう。


 だから俺は、()()()()()()


 人間の持つ可能性の極致。人のままでは到達しえない場所。その場所に足を踏み入れ全てを喰らう。

 際限なく、存在する全てを喰らい尽くし、己が欲望を満たす為、世界を終わらせる。欲望は渇望へと変化し、やがて絶望へとたどり着く。膨れ上がった欲は、もはや制御できず並行世界のどこかへと流れ続ける。


 尽きぬ欲望、終わらぬ渇望、そして絶望すらも喰らう。


 恐ろしすぎるその存在に世界は名を付けた。


 ()()と……。


 ソレへと至る可能性があるものは、徹底的に排除され、よしんばソレに至ることが出来ても殆ど全ての使用者が狂い果てて自滅した。これを扱うには普通でも、異常でもなく、理性w残した化物たちだけなのだ。


 ()()()()()()()()()()


 これで、終わりだ。


 掴んだ少年の腕が、パラパラと塵に変わっていく。()()()()()()()()()()()()

 後は勝手に、喰らって俺の一部に還るだけだ。


「どういうことだよ……?なんで僕の【暴食】が発動しないんだよ?どうして僕が食われてるんだよ!?」


「それが、最後の言葉で良いな?……お疲れ様。あとは全部俺が背負ってやるからな、ゆっくり休めよ」


「待てよ……まってよ!……これは、僕が背負わなきゃいけないモノだ!知りもしない人に背負わせちゃいけないモノなんだ!だから……」


 少年は必至な顔をして俺に叫ぶ。もはや、自分が消えて無くなることは分かっているだろうに。それでも叫んだ。だから、俺は優しく言ってやる。


「何かを喰らうことは、そのナニカの想いを背負ってやらないといけない。だから、何の気兼ねも無く俺に任せると良い」


 少年は、まだ何か言いたそうだったが、やがて諦めたのか無理やり笑顔を作って言った。


「あぁ……消えていく……ボクの全部が……あぁ、これでようやく……みんなのところに行ける。……ありがとう」


 〈『成れの果て』を喰らいました〉


 〈守夜桐継の【暴食】はこれより【貪喰】に変化します〉

_____________________________________

【貪喰】


 対象を捕食する能力【喰らうもの】の最終状態。

 能力はいたってシンプル。ただ、目視した存在の全てを貪り喰らう事。

 自身の皮膚の下に捕食の瘴気を流しているため、物理攻撃や遠距離攻撃などが体に当たったところで、その瘴気によって攻撃そのものが捕食される。それ故にあらゆる攻撃が、皮膚の下を通り抜けて肉へと届くことがない状態になっている。


 また、敵を喰らうことによって自身を永久的に強化し、対象の記憶を追体験することで技術を獲得することが出来る。


_____________________________________


 少年を喰らい尽くした後、気が付いたら元の場所へ戻っていた。目の前には、塵と化した不気味な卵だったものが落ちていることからも、戻って来た事が分かる。


 さてと、本題はここからだ。今まで喰らってきた魂の罪を全部喰らって、白紙に戻す。そうして、ようやくここから出られるようになる。魂を白紙に戻すことは、そう難しい話ではない。それと同時に、追体験して技術を継承するほうが大変なくらいだからな。


 まあ、何はともあれさっさとやりますかねぇ。






 ……あれから、結構な時間が経ったが迎えが来ない。次の階層は無く、進もうにも戻ろうにもどうしようもない状況だ。いっそのこと、全部喰ったら出られるんじゃないかと思い始めて、さっそく行動しようとしたその時、気配がした。


「いやぁ、お久しぶりですねぇ桐継サン。元気にしてましたか?」


「元気だよ黒邪鬼サン、もう少し遅かったら全部喰って会いに行くところでしたよ」


「それはそれは、間に合ってよかったですよ。なんせ壊されると少々面倒なものですからねぇ、ここは」


「それで?あんたが此処に来たってことは、俺の仕事はこれで終わりってことで良いか?」


「ええ、これで構いません。むしろ、よくやってくれましたよ」


「ですので、次のお仕事です」


「次の仕事?それは、なんですか?」


「仕事の説明の前に、約束をしていたでしょう?」


 ああ、そういえばそんなこともあったっけなぁ、懐かしい。


「せっかくなので、ここで戦いましょう?そんなに長引かせませんし、やりましょうよ」


 そんなこと言われたらこういうしかないでしょう?


「別に勝ってもいいんだよなぁ?」


「あっはっはっは、本当に人間とは面白いものですねぇ」


「まあ、出来るものならやってみなさい」


 黒邪鬼は、それだけ言うと表情を消し、腰の刀に手を掛ける。静かな殺気が周囲を覆う。

 恐ろしいほどの手練れだ。だが、それでこそ張り合いがあるってものだ。

 これから起こることに対して、笑みを隠せず笑う。


 ああ、これこそ俺が求めて居たものだ。



皆は風邪ひかないように温めて寝ろよ('ω')ノ

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