道化師
全部食べるよ('Д')
観客席もなく、舞台もボロボロで塗装も剥げている。そんな場所に一人の道化師がいた。彼は誰もいない舞台で声高に笑う。次はいったいどんなおもちゃが来るのだろうかと楽しみに思いながら笑う。己が何者であったことすら忘れて、狂い続ける。
さあ、踊りあかそう。
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【暴食(暴走状態)】
己の欲望に従って全てを喰らう存在に堕ちる一歩手前の状態。
早急に自我を取り戻さなければあらゆるものを喰らった後、自らを喰らい死に絶える。
暴走している状態に限り、距離に関係なく喰らうことが可能になっている。
ただし、近づいて喰らった方が速く簡単なため近づいて喰らう事の方が多い。
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ハラが減った。
ナニカ食べるものは無いのか。
何でもいい。口に入れられるものなら何でも。
……ウマソウな匂いがする。
そこに居る男の魂から漂う嫉妬の匂いは、得も言われぬほどにウマそうだった。
だから、喰らう。一つ残さず喰らい尽くす。
「おやぁ?これはこれは壊れてしまった男が一人やってきたぞぉお?……あ゛?」
シルクハットをかぶったおかしな道化師が立って居た。そいつは、手に髑髏を象ったステッキを握っていた。
とにかく喰いたかったから、そこでにやにやと笑っている男の首を、刃がガタガタになった【リヴァ】で刎ね、その切り口に腕を突っ込み心臓を引き摺り出し、握り潰す。
握り潰した心臓から、出てきた魂を喰らい咀嚼する。力が湧いてくるが、味は美味しくない。
だが、腹は膨れた。
それでいい。
次に行こう。
「おやおやおやぁ~、どこへ行こうというのですかぁ?まだこの私は死んでいませんよおぉ」
この男は先程喰らった筈だが?まあ、いい。また出てくるのなら同じように喰らってやればいい。餌が増えたようなものだから。
「あらあら不思議!先程私は殺されたはずなのに、何故かこうして生き返っている!どうしてでしょうねぇ?不思議ですねぇ?知りたいでしょう?そんなに知りたいのなら教えてあげましょう!」
「これは、虚実魂魄人形と言いまして、私自身を複製する技でぇす!」
一人、また一人と道化師が増えていく。
「この技の最大の強みは何といっても、魂すら複製するのでこんな風に面白い事も出来るんですよぉ」
道化師は複製した自分をオレに向かわせてきた。こいつはいったい何がしたいんだ?【暴食】は疑問に思ったが餌が近付いて来てくれるのなら楽でいいと考えた。
「さあさあ!寄ってらっしゃい!見てらっしゃい!世にも不思議な人間爆弾!とくとご覧あれ!蝕魂爆塵!ボンッ!てね」
突っ込んできた道化師を【リヴァ】で縦に切り裂いた瞬間、まばゆい光を放ち大爆発を起こした。
煙が晴れるとそこは爆発の熱で地面が溶け、端が見えないほど広大なクレータになっていた。
「わあぉ、ド派手にイったねえ。何度見てもこの光景は最高だよ!」
「そうだねそうだね、本当に最高だよ!」
爆心地で、馬鹿みたいに笑っている道化師達の不意を突いて、【リヴァ】を心臓に突き立てる。即座に剣を離し、もう一匹の頭をぶん殴って首の骨を砕く。
「あれぇ?どうやってあの爆発から生き残ったんだい?まあでも、一撃じゃ死なないなら、死ぬまで爆発するだぁけだけどねぇえええ!」
取り敢えずうるさいから喰らって黙らせる。魂を爆発させる技のため、こいつの魂を喰らってしまえば爆発の危険はなくなる。もっとも、爆発されたところで“すべて喰らえば”問題無い。
どれくらいの威力があるのか試してみたが“大したことない”から良かった。流石に何度もあると体に傷がつくから次からは喰らうけどね。
「私の魂を喰らったところで、複製し続けているすべての私を倒さない限りは、私たちを殺すことは出来ませんよぉ?どうするんですかぁ?アハハハハ」
もう飽きた。こいつは美味しくないからとっとと全部喰って次に行こう。【暴食】がそう決めた瞬間、【リヴァ】を地面に突き立てる。
「すべて喰らう……【※※※】」
【リヴァ】を通して【暴食】の体からあふれ出た黒い瘴気が“世界そのものを”喰らう。この瘴気に触れた全ての物を喰らっていく。それは無機物も有機物も関係なく、等しく全てを喰らっていく。
「なん……だって?これは、いったいどういう事なんですかぁあああ!?」
「余さず残さず全部喰らう」
「ヒッ!来るな来るな来るなああああああ!!!」
「お願いです!何でもしますから助けてください!」
道化師達が何か叫んでいるが、どうでもいい。腹が減っているんだ。空腹は嫌いだ。“主”の為にもいっぱい食べないといけない。次はもっとおいしいといいな。
全てを喰らい終わった【暴食】は進む。
次の餌を求めて。
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名を失った道化師
・保有概念「複製」
※ 本来は自分以外のものでも寸分違わず複製することが可能だが、この道化師はなにをトチ狂ったか自分しか複製せず、複製した自分を爆弾にするというイカレタ使い方をした。しかし、自らを複製し手軽な爆弾にした結果、手に負えないモンスターと化した。
・武装 「呪骨杖バベルボルグ」
※ 凄惨な殺され方をした聖職者の骨を使用した、最悪の杖。傷を付けた相手に呪いをかけ癒えない傷を与える。爆発と同時に骨片と化し、相手に突き刺さる。その傷は癒えず、例え爆発に耐えられたとしても、付けられた傷によって命を落とす。
・装備 「道化師のシルクハット」
※ 小綺麗でごくありふれたシルクハットだが、何か言い知れない狂気が潜んでいる。
「道化師の服」
※ シルクハットと同様に小綺麗でありふれているが、やはりどこか歪んだ狂気が潜んでいる。
・戦技
【虚実魂魄人形】これは自らを複製し、己として存在する技である。本来ならば自己と同一の存在など相容れない筈だが、この男は可能だった。クローンではなくオリジナルを増やす為可能なのだろうか?すべては彼のみぞ知る。
【蝕魂爆塵】魂を爆弾に変え爆発させる。エネルギーの塊である魂を爆発させるため異常なまでに破壊力がある。ただの人間でも爆発させれば、一つの都市くらいならば吹き飛ばせる。最悪なことに彼は英雄クラスと同じか、それ以上の魂を保有していたため、軽く大陸を消し飛ばすほどの威力を有している。
※ 彼はもともと人を殺すことを楽しむ快楽殺人者だったが、ある日逃走に失敗し殺された。その際にある神と契約を交わした。その契約を履行するために生き返り、ある能力をもらった。その能力は【複製】。能力を使用し現世で世界を滅ぼし、能力を授けた神をも殺した。その男の悪行はさらに加速するかに思えたが、ある存在に“生きたまま”この“牢堕の獄”へと連れてこられた。ここでも、無敗であったが無謀にも【暴食】と戦い、生きたまま貪り喰らわれた。
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美味しくいただきピエロさん('ω')ノ