暴食
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何度も何度も燃やして、灰にして、痛め続けた。それなのに“キリツグ”と名乗った男は死ぬ度に学習し、こちらの動きに適応していった。
常人なら既に、絶望し痛みと灰になる感覚で諦めてもおかしくは無いのに、彼は立ち上がり続ける。
ただ、瞳に狂喜を潜めながらひたすらに戦い続ける。
ああ、最高だ。
強くなればなるほど相手はその上をいく。“アグナ”の強さの源泉はなんだ?どうやったらここまで強くなれる?自分の能力を自在に扱えれば強くなるのか?それとも技術を高めれば強くなるのか?
常時、百倍強化し、リミッターを解除してなお身体能力で負けている。
別にそのことは気にしていない、身体能力で勝っていた所で勝てる見込みは薄いだろうからな。
ただ、少しずつ動きに適応できるようになってきた。嫌になるほど燃やされて灰になったが、“アグナ”の使う拳法も捌けるようになった。
それでもなお、相手には傷一つ付けられていない。
「これだけわたしの炎を受けて、魂が形を保てていることに驚きだわ」
ここに至るまでに積み重ねてきた歴史があるのだろう
「だけど、もう少しで魂も灰になるでしょうね」
何か理由があってこんなに強くなったのだろう
「だから、最後はこれで終わらせてあげるわ……焔神破邪!」
太陽の如き輝きでこちらに迫る灼熱の拳。
ああ、いいなぁ。ほしいなぁ。努力も才能も何もかも全部欲しい。
〈エラー。対象を喰らうことは出来ません。格が違いすぎます。〉
〈この状況を打破するには、渇望が必要です。〉
渇望?なんだそれ?意味が分からない。ただひたすらに力を欲すればいいのか?
それなら、常にしているのだがそれじゃダメなのか?
〈僅かな渇望を得ました。一時的に“暴食”が使用可能になりました。〉
〈使用しますか?〉
勿論。それしかできないなら使うしかないだろう。
〈承認しました。“暴食”を使用します。使用可能時間残り十秒〉
“暴食”を使用した瞬間、目の前が真っ赤に変化し欲望に支配されかける。
ああ、喰いたい喰いたい。そんな欲望に支配されそうになるが、その欲望を気合で捻じ伏せ眼前に迫った拳を片手で受け止める。
「……えっ、どうやって受け止めたの!?」
受け止めた拳から熱を喰らい、衝撃を喰らい、力を喰らう。
膨大な量の力が流れ込んできて、体の内側を暴れまわる。
強大な力によって肉体が破裂しそうになるが、歯を食いしばって耐える。
「あら、わたしの力を奪っているのね。でも、その様子だとわたしの力に耐えきれていないようね」
「だからもっとあげるわ、どこまで耐えられるかしら」
「ぐっ、ぐぅああああ」
ただでさえ膨大な力を喰らっていたのに、さらに大きな力を送られる。
このままでは、力の奔流に体を引き裂かれる。
だが、手を放そうとしても腕を掴まれているため離れられない。
「ふふふ、早く奪うのをやめないと貴方、魂ごとバラバラになっちゃうわよ?」
耐えろ、耐えるんだ。このままでは意味もなく力に引き裂かれて死ぬだけだ。
だから、耐えるんだ。
骨が軋み肉が裂け、血が噴き出る。とっくに十秒なんて過ぎているはずなのに“暴食”は止まらない、止められない。
全てを呑み込み破壊せんと、はけ口を求めて奪った力が暴れている。
もう、ここで諦めてもいいのかもしれない。こんなにも辛い思いをし続けるのは馬鹿のすることだろう。
だから、もうここで…………。
耐えることを止めて受け入れるように体の力を抜くと、力の吸収がさらに上がる。
「これ以上はあげないわ、離しなさい」
離す?お前が俺の腕を掴んでいる以上、離れたくても離れられないだろうが。
そう考えて、顔を上げるとアグナは既に俺の腕を離していた。
なら、俺が掴んでいるのか?こんなにも苦しいのに俺はアグナの腕を掴んでいた。
「離さないのなら、強制的に離してもらうわ」
アグナは腕を振り上げ、そのまま掴んでいる俺の腕に振り下ろした。
すると、何の抵抗も無しに腕が“落ちた”。
「あれ?腕が無い」
落とされた腕を呆然と見ながら、喰らった力を受け入れ続けた。
胸の中心が熱くなり今にも飛び出してきそうだが、抑えつけずに解放する。
すると、体のまわりに火の粉が舞い散る。
「ふーん、耐えきれたんだ。でも、フラフラのようね。そんな状態で、わたしに勝つことなんてできるかしら」
〈“暴食”の制御に成功しました。これより、“喰らうもの”は“暴食”へと変化します〉
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自己に潜む欲望を制御しました。
これにより「貪食」の概念をより深く扱えるようになりました。
現在の解放段階 二
(上限値 三)
使用可能概念
段階 二 「暴食」
※ 「喰らうもの」の上位にあたる概念。敵を喰らい技を喰らいその存在をも喰らい、魂すらも喰らう禁じられた概念。
使用者は己の欲望と戦い打ち勝つことでしか、使用することが出来ない。
任意での使用や止めることが可能になり、「喰らうもの」よりも使い勝手が良くなっている。
段階解放条件 己を※※※事
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落ちている腕を拾って、圧着する。それだけで十分に動かせるようになった。これで戦える。
同じように落ちている【リヴァ】を拾い上げて構える。
顔の近くまで【リヴァ】を持ち上げ、右足を半歩後ろへさげ腰を軽くひねる。【リヴァ】の切っ先をアグナに向けて集中する。
「一点集中、この攻撃でお前の命をもらう」
「ふふふ、面白いことを言うわね貴方。出来るものならやってみなさい“炎帝”」
アグナは全身に炎を纏い拳を構える。
熱気が頬を撫でる。
「死になさい炎帝浄滅破!!」
纏った炎を拳に集めて突き出す。それに対して俺は【リヴァ】を全力で突き出す。拳と剣がぶつかり合い、一方的に押し勝つ。
何せ俺は“暴食”を全力で使っているから押し勝つのも納得だろう。すべてを喰らいながらアグナの拳を貫く。そのまま腹に蹴りを入れて【リヴァ】を引き抜き、流れで首を刎ねる。
……はずだった。
アグナの首を刎ねようとしたその瞬間、アグナの全身から炎が噴き出し俺は吹き飛ばされた。
地面を無様に転がりながら、体を起こして【リヴァ】を構える。
「ふぅ、危なかった。貴方ほんとに強いわね、だからわたしも全力で戦ってあげるわね」
「もう、手加減はしないわ焔神殲火」
世界が、溶ける。目の前の空間そのものが、ドロドロと溶け出すその景色を見るだけで、危険である事が分かる。
地面も同様に溶け、灰が舞う。
ここまで温度が高ければ灰すら消えるはずだが、何故か灰が舞っている。
「ここから先はわたし、止められないから先に謝っておくわね、ごめんなさい」
拳に焔が巻き付き、武具と化した。それは、紅く美しくそして周囲を威圧する神聖さを纏っていた。
灰が巻き上がる。
紅すぎる世界の中で、舞っている灰は美しかった。
さあ、ここからはどちらかが死ぬまで止まらない。
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焔神 アグナ
保有概念 「焔」
・全てを焼き尽くし灰に帰す滅びの焔。ひとたび火が付けば、患部を切り落とそうが何をしようが消えずただ無情に燃やし尽くすのみ。ただし、この焔は使用者に絶大な加護を与える。身体能力の強化や、再生能力といったものを与える。これは終わりであり始まりでもある概念なのだ。
・焔神器 「*****」
※
※
・装備 「深紅のドレス 焔界」
※ 炎を纏いその熱で敵を焼き尽くす攻防一体の防具。この防具は、アグナが着た最後の服でもある。
※
・戦技 【炎掌浄破】 手のひらに膨大な熱量を宿し敵を打ち抜く技。
【炎槍】 炎を槍へと変え敵を滅すだけの極めて簡単な技。それ故に強力な技でもある。
【炎帝】 アグナが本気で戦う際に使用する炎を纏う技。これはありとあらゆる能力が強化され、ただ纏っているだけで敵を灰にする絶対的な技。
【焔神破邪】 “焔”の概念を用いた滅びの正拳。ただ愚直に修練を積んだその一撃は、確実に敵を貫く一撃と化す。
【炎帝浄滅破】 使用している【炎帝】の全てを込めて拳を突き出す奥義。全てを込めた一撃である為、威力は他の技と比べて群を抜くほどに高いが、その分隙が大きくその上、使用中の【炎帝】も効果を失ってしまう。
【焔神殲火】 終わりの焔を纏い敵を殲滅する。全てを灰に変え、世界を終わらせる焔。【炎帝】を超えた力を与える超常の神技。
・今はただすべてを灰にすることしか、考えることが出来ない。それほどまでに彼女は燃やされてしまったのだ。そして、彼女は優しく強く美しかった、だがそれも世界のために死ぬ前まではの話だったが。
残り再生数 一
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そろそろアグナ戦は佳境に差し掛かります、お楽しみに。(*'ω'*)