EP1-8
今更投稿することに躊躇いが生じてきたので初投稿です
「俺は見ての通り一人で行動している。その方が好都合だからだ」
暫く沈黙が続いた後、男が話し始める。
「悪いが、お前を連れて行動したくない。真剣に『飢える者』の研究をしたいのなら王国騎士団に入団するか、そういったギルドに入れ。そっちの方が…」
「騎士団の研究は『色騎士』達が消極的なせいで、あまり進んでないでしょ?そのせいで、『飢える者』の知識はギルドの集会所と同じくらいのはずよね。それに、『飢える者』を主点に置いたギルドは、殆ど諦めて解散してる」
「だったら…」
他の事を言われる前に、メアはたたみ込むように続ける。
「『赤騎士』だけは一年前から新しい人が就任されて、その人だけは今も積極的に動いているのは知ってる。でも、全く新しい情報を得られてないでしょ。でもあなたは違う。私見たし聞いたもん。飛行型と会話してたでしょ。奴らと話せることは誰も知らない情報よ」
しまった、と聞こえてきそうな表情を浮かべて、男は黙り込んでしまう。
「少なくとも、あの飛行型と言葉を交わせるのね?」
「…まぁ、な」
メアの言葉を、男は肯定した。
「だが、俺は話せるだけだ。正直奴らは独り言を繰り返すばかりで、明確な意思の疎通は無理だ。偶に戦いになって死にかけながら逃げることだってある。だから弱点なんてものも見つけられてない。そういう意味では騎士団やギルドと一緒だ」
「でも」
メアは真剣な顔を男に向ける。
「でも、騎士団やギルドの集会所よりも、あなたは知ってる。飛行型が徘徊ルートから外れてオルト火山に向かったことを、集会所や私たちは気づかなかった。緊急連絡がなかったってことは多分騎士団も気づいてない。でもあなたは私を助けてくれたあの時、間に合わなくて済まなかったって、そう言ってた」
「…」
男はメアの顔から視線を逸らすが、回り込んで再び前に立つ。
「気づいていたんでしょ?」
徘徊ルートとは全く関係ないオルト火山で、『飢える者』の研究者を名乗る者が、たまたまあそこに居合わせるなんてことは考えにくい。そうなると有力な答えは一つ。
「あなたは事前にこの異常を察知して、『飛行型』の移動先に先回りした」
飛行型のあの飛行スピードを考えると、徘徊ルートから外れるのを見てから追いかけてきたのであれば、メアは助からなかったはずだ。あの飛行型の徘徊ルートからオルト火山までの道は少なく、今の時期のルートから、最短距離でも地竜を使っておよそ七日はかかる。
もし未来を予知できるような能力を持っているのであれば説明できるが、先ほどモンスターと間違えて射抜こうとしたことを考えると、その線は薄い。
この男は、何らかの方法で飛行型が火山に行くことを事前に知り、ここまで来たのだ。
焚き木から聞こえたバチッという木の破裂音が辺りに響く。
「鋭いな、ついさっき阿呆なことを言っていたやつとは思えない」
「え?私変なこと言ったっけ?」
「2+10は?」
「んん?12?」
「なんだ、ちゃんと計算できるじゃないか」
「???」
何を言っているのかよくわかっていないメアは不思議そうな顔をするが、すぐに真剣な表情に戻る。
「とにかく、私の近くで『飢える者』を一番理解できているのはあなたよ。だから、私はあなたの研究を手伝いたいの」
「ハァ…」
男は露骨に嫌そうに、そして何かを諦めたかのような顔をしながらため息をついた。
「断っても私は全力で食い下がるからね。だって私には…」
「『過去への変遷』があるから、絶対に逃げられないって言いたいんだろ?」
メアの言葉を遮って男は言った。
「もう好きにしてくれ。邪魔はすんなよ」
その言葉を聞いたメアは、目を大きく開け、そして初めて笑顔を浮かべる。
「うん!」
「お前、名前は?」
「あ、自己紹介してなかったね。私はメア。メア・レミントン」
「メア、ついてくるなら幾つか約束をしてもらうぞ」
男は焚き木の方へ戻り座り込むと、言葉を続ける。
「まず、俺が『飢える者』の言葉が分かることを吹聴するな。あまり目立ちたくないからな。次に俺といる間は騎士団の連中と関わるのはできるだけ避けろ。それと、俺が逃げろと言ったときは迷わず逃げろ。何があってもな」
「騎士団にできるだけ関わるなって、何で?それに、研究者なら言葉が分かることを…」
「聞くな」
「…分かった」
納得していないが、文句を言っても仕方がない。今の約束を守れなかったら、今一番『飢える者』の討伐に至れる可能性を潰してしまうかもしれないのだ。
男に続き、焚き木の近くにメアは座る。
「よし。少し聞きたいことがある。『黒騎士』について知らないか?」
「『黒騎士』?『色騎士』の一人よね。滅茶苦茶強いって噂だけど?」
「それだけか?」
「いつからか忘れたけど、今も行方不明だって聞いたよ」
そうか、と男が言うと再び質問してくる。
「そういえばペンダントがどう、とか言っていたな?」
「え?あぁ、多分飛行型にペンダントを取り込まれちゃったの。あれは私にとって、命の次に大事な物だから、出来れば取り戻したいの」
「色のついた石がついているか?」
「いいえ?透明な石ならついてるけど」
「なら普通の代物だな。まぁ、そうだよな」
男は小さく呟く。どうしてペンダントのことを聞いたのか気になるが、それ以上に気になることがある。
「そうだ。あなたの名前をまだ聞いてなかったわ。なんて言うの?」
「ヴァンだ」
「そっか。よろしくね、ヴァンダ!」
「いや違う。ヴァン、だ」
「???」
「●●●●●●●●●…」
何を呟いたのか分からないが、とにかく呆れていることだけは分かった。