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K.nightmare-ナイトメア-  作者: RIKI
8/112

EP1-7

思っていた以上に文章が少ないと思い、本来の1-7と1-8を統一してしまったので初投稿です

 ゆっくりとだが、メアは火山で起こった出来事を報告した。すべてを話し終えると、メアは女性に問いかけた。


「さっきの、私を助けてくれたあのフードの男は、何者なの?」


「彼は自分のことを『飢える者』の研究者、としか言わなかったわ」


「研究者?」


「えぇ。名乗りはしなかったし、メアさんをここに連れてきた時に『飢える者』が出たということと、あなたを回収したことを報告しただけ。そのあとはメアさんも見ましたよね」


『飢える者』の研究という危険な行為は、王国騎士団の『色騎士』か、大部隊で揃えられたギルドくらいである。そのため、メアはフードの男がたった一人だけで動いていたことに疑問を持つ。


「騎士団の人だったの?」


「いいえ。王国騎士団の証である紋章付きの武器と防具を持っていませんでした。恐らく、どこかのギルドに所属している方と思います」


 ため息をつき、メアの報告書をまとめ終わった女性は立ち上がる。


「とにかく、ご協力ありがとうございました。メアさん、今日はもうゆっくり休んでくださいね」


 どことなく、いつもよりも慌ただしいオルトの町中をメアは歩く。あまりにも衝撃的な出来事が一度に起こりすぎたので、精神的にも肉体的にも辛かった。


「ララちゃん…」


 ふと立ち止まり、今のギルドに誘ってくれた友人の名前を口にする。彼女がいなければ、今でも安心できる居場所を作ることができなかっただろう。


「ダルク…」


 今は消えかかっている首筋についた傷をなぞる。最後の最後まで自分を守ってくれたあの人は、新人である自分に優しくもあり厳しくもあった。一緒にいた時間は短かったが、とても信頼できる人だった。


「『飢える者』…!」


 全てを奪い去った元凶を口にし、憎しみが生まれ、今すぐにでも殺してやりたい気持ちが溢れる。だが、今の自分の力ではどうすることもできない。


 大勢が往来する道中でメアは何かを決意した表情をすると、今まで歩いてきた道を走って戻る。集会所の扉の前まで戻ると、メアは息を整え静かに目を閉じた。






 思っていた以上に道が整備されていなかったため、思うように歩みを進めることが出来ず、仕方なく野営の準備をしている内にすっかり暗くなっていた。


 少しだけ辛そうな表情を浮かべ、焚き木の近くに座り込むと、深いため息をつく。被っていたフードを脱ぎ、短髪の黒い髪を外気にさらす。火山から離れたからか、少しだけ涼しく感じられる風が吹いている。


 外套で隠している、自分の腰につけた三つのポーチの内、一つに優しく触れる。


(ごめん、エリザ。また俺はお前の物を勝手に…)


 何かが近づいてくる気配を感じ、素早く弓矢を構える。耳を澄ますと町に続く道から足音が徐々に大きくなることが分かる。射線の通っていない場所から飛び出てきた瞬間を静かに狙い定める。そして、狙い通りの場所に人影が飛び出してきた所で、弓矢に力を入れていた手を放そうとする。


 …人影?


 咄嗟に弓の持ち手を上に動かし、射線から逸らす。


「見つけ…きゃっ!?」


 頭上を通り過ぎ、近くの木に突き刺さった矢に驚いて、思わずメアは尻餅をついた。


「●●●●!?す、スマン!モンスターだと思ったんだ、大丈夫か!?」


「な、何で見もしないでモンスターだって決めつけたの!?危ないじゃない!?」


 男が慌てて近寄ると、尻餅をつきながらもこちらを指さし怒っているのは、さっき町まで背負って運んだ女性であることに気づく。


「お前、さっきの?何故ここに?」


 男は手を差し伸べながら質問した。その手を取って立ち上がると、少し不機嫌そうに答える。


「追いかけてきたの、あなたを」


「追いかけて?何でここにいると分かった?」


 フフン、といわんばかりにメアは得意げな顔で胸を張る。


「私、何かを探すのは得意なの。まぁ、おかげでエナジーが殆どなくなっちゃったけどね」


「エナジー?人探しの魔法なんて聞いたことが…いや、まさか能力持ちか?」


「そう!私能力持ちなの!『過去への変遷』って、友達が勝手に名付けちゃったわ!」


 勝手に名付けられちゃったのか、と男は呟いたが、メアは気にせず、まるで自分を売り込むように話を続ける。


「その場所で起こった出来事を自由に見ることができるの。だから私が過去に飛んで、あなたが集会所を出てからの行動を早送りで見たわ。範囲外に行ったら解除してまた飛んで、それを繰り返してやっと追いついたの」


「何だと?」


 今の説明を聞いて、男は少し真剣な顔をメアに向ける。


「その能力、誰かを連れて今からごね…いや、今から約二年前の光景を見ることは可能なのか?」


「に、二年はちょっと。その、最大でせいぜい八日前を二回程度かな?一人は同伴できるけど、それだと日数に関わらず、ほぼ一発でエナジーが無くなっちゃうわ」


「そうか…」


 今の言葉を聞き、残念そうな顔を男は浮かべた。その表情を見たメアは焦りながら言葉を続ける。


「で、でも私のエナジー消費効率とエナジー許容量が成長すれば、八日よりももっと遠くに飛べられるわ!多分あと十年頑張ったら、二年くらい飛べられるようになってる…かも?」


「十年経ったら、十二年前に飛んでもらわないと困るんだが」


「ん?あれ?」


 成長には時間がかかるし、その時間が経つにつれ過去は遠くなるのは当然。男の言った二年前に飛ぶためには、突如として異常な急成長するか、莫大なエナジーを供給できるものを用意するかだ。


 少なくとも、現時点では無理だ。


「いや、もういい。忘れてくれ。それで本題に入るが、わざわざ能力を使ってまでここに来たってことは、俺に何か用があるんだろ?」


「そ、そうそれ!あなたに用!」


 メアはビシッと指を男に向けて指しながら言うと、今度は頭を下げた。頭の先にあったアホ毛がよく見える。


「私を助けてくれてありがとう。お礼、言いそびれちゃったから」


「お、おう…どう、いたしまして?」


「それと!」


 メアは、がばっと勢いよく頭を上げ、今度は自分の胸に手を当てる。一つ一つの動きが突然すぎて男は困惑の表情を浮かべる。


「『飢える者』の研究、私にもやらせて!」


「研究?●、●●●…」


 メアの言葉で、男は何かを思い出したような顔をするが、気にすることなく言葉を続ける。


「私、『ネクター』で生き残った最後の一人として、あの飛行型をどうしても討伐したいの。ペンダントだって回収したいし…研究を続けられれば、弱点を見つけられるかもしれないじゃない。だからお願い、手伝わせて!」


 メアは再び頭を下げる。その姿を見た後、男は視線を少し逸らす。


「討伐、ね」


 少し、悲しみが宿った声でそう呟いたのが微かに聞こえた。


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