EP1-3
何度でも初投稿です
結局、探索メンバー全員の報告はダルクと変わりなかった。
さすがにここまで見つからないとなると、メアの能力による報告を疑う声があがりそうなものだが、彼女を加えているパーティが最も危険な場所を長時間探しているという事実があり、今もまだびしょ濡れのまま床にへばっているメアの姿を見たメンバーは、誰一人として疑うことができなかった。
「『ネクター』総出で探してこの結果ですか…こんなことは二度目ですよ」
かすかに震える手でオーウェンは眼鏡の位置を調整する。
「確かに、全員が手当たり次第で探して、このままの結果では捜索専門の名折れですけど…まだ禁止区域は残っていますし、まだ震えるほどショックを受けるのは早いのでは?」
異様な様子を見せるオーウェンに、最近加入したばかりの探索メンバーの一人が心配するように声をかけた。
「杞憂であって欲しかったのですが…いよいよ、嫌な予感が現実味を帯び始めましたね」
「嫌な予感、ですか?」
オーウェンは地図に杖をかざし、今までの捜索でつけた印を取り除く。
「全員がこの臨時拠点を出発した後の、モンスターの遭遇数と遭遇した場所、及び討伐数を教えてください」
「…捜索とは関係がない情報だと思いますが、確かに多かったですね」
別のメンバーが羊皮紙を取り出し、オーウェンに手渡しながら報告する。
「この二日で目撃数が十二件、討伐数は二十三匹、こちらの被害は軽度です。いずれも、火山に生息するファイアーベアー等の生物がモンスター化したものでした。それぞれの場所を記しますね」
そういったメンバーの一人が杖を構え、簡略化した地図を更新する。モンスターと遭遇した場所が×で記されると、オーウェンの顔が青ざめる。
「これは…いや、しかし『奴』はここに滞在していないはず。徘徊ルートでもありません」
杖を構えていたメンバーがそう呟く。地図にはこの拠点から2km東の地点、溶岩が流れる谷のような地形になっている場所を中心に、ほとんどの×が記される。
「…撤退準備を」
「え?」
「急ぎ町へ戻り報告します。確定したわけではありませんが、モンスターの大量出現、ギルド一団の失踪のことを考えると、高確率で『奴』がここにいます。もし遭遇してしまえば、私たちの装備ではまず太刀打ちできません。時間稼ぎがやっとでしょう」
オーウェンは椅子から立ち上がり、テントに集まっている全員が聞こえるように言う。
「『飢える者』の存在が予想されます!よって捜索依頼を中断、直ちに下山します!各員警戒を怠らず、迅速に行動を開始してください!」
「えっ、帰るの?」
休憩の間に熱を冷まし、すっかり元気を取り戻したメアが素っ頓狂な表情と声で返事をする。よく見ると、いつの間にかメアが着ていた防具と服が乾いている。エナジーを消費する行動は控えるよう言ったので、他の誰かがメアの身体を乾かすためだけに、風魔法を使ってくれたのだろう。
「そうだ、分かったらとっとと動け」
妙に慌てた様子でダルクは設営したテントを片付ける。
「あのぅ、何かあったのですか?先ほど班長だけを集めて報告会があったようですけど…」
そんな様子を見て、ララが恐る恐る尋ねた。その間もダルクは手を止めず、慣れた手つきで荷物をまとめる。
「町に戻りながら説明するから、まずは自分の荷物をまとめろ。でないと防具であれ下着であれ、全部置いていくことになるぞ」
ダルクは自分の分をまとめ終わると、槍を持ってオーウェンの所へ向かった。メアとララは顔を見合わせると、慌てて自分の荷物を背負い始める。
「せっかく魔法使いの人が乾かしてくれたのに…何で中断するのかな?」
「うーん…後で話すって言っていたし、考えるのは後にしよう?」
不思議そうに首を傾げながらも、荷物をまとめて始める。しかし、水筒を手に取ったメアの動きが急に止まった。
「えっと、杖と水筒は必須だから、…?メアちゃん?」
ララが背負ったもの以外の必要な物を集めながら、突如動きを止めたメアを見る。
「どうしたの?水を飲みすぎて気分でも悪くなっちゃった?」
心配そうなララが、メアの近くまで歩み寄る。
「…る」
「え?ごめん、聞こえなかった。もう一回言って?」
目を見開きながら、自分の身体の震えを抑えるように腕で自分を抱きながら、メアは呟いた。
「何か…変な感じのが…き、きてる…!こっちにくる…!」
「お、落ち着いて。ほら、周りをよくみて?何もないよ?」
「ち、違う…上…!」
突然の友人の変化に、ララはどうすればいいかわからず、ゲイルを呼ぼうとしたその時――
――空気が震えた。