76話 二人組
12月。読図講習会は少雨であったものの中止とはならなかった。日本の冬は西高東低型の気圧配置になり、乾燥した冷たい空気が日本を覆ってしまう為雨は降りにくい。どうせ降るならばしっかり振ってもらいたいものだ。
今回の日帰り登山では前日の17時発表、翌日の広島県南部6時〜12時の降水確率が40%以上である場合は中止となる予定だった。だが、前日の今日の広島県南部6時〜12時の予報は曇りで降水確率は30%だった。それ故に決行となった。今回は半週間後に『しまなみ海道縦断』がある為、昼前に解散する予定の短めの登山である。
これだけ文句を垂れているが、今回は前回と違い、俺も先輩が言っていた『予習』をきちんとこなして来た。流石に断面図などは作成していないが、尾根と谷だけは見せかけでマークしている。今日が雨で中止になると思っていただけに準備を慌てて行ったのだ。適当に予習をこなした理由も察しがつくだろう。今回の日帰り登山には薄荷先輩と山中先輩は参加しない。突然ミーティングにて決まったのだ。ドクターストップが解除される日があらかじめある程度予測が付いていたとは言え、復帰したばかりの二人が参加出来ないのも無理はないだろう。
登る予定だった山は広島県の東区に位置する山だ。今回のルートでは最高到達点も250メートル程度と雑言山と然程変わらない高さである。今回の日帰り登山は短めの日程だが、前回と違う点がある。今回の合宿の参加者は殆どが中学生である。前回と違い、読図講習はテスト方式だった。
前の様な大勢のチームでは無く、二人一組のペアとなって今回は読図講習を行うのである。人数が足りないところは三人班だが、基本的には二人班である。基本的な組み合わせは上級生と下級生のコンビだ。上級生が要点を教えながら一緒に読図を行う。マンツーマンの為逃げる事は出来ない上、適当なことも喋れない。ある意味逃げ道を塞がれた形での読図講習である。
今までが塾での集団授業だとしたならば今回は個別指導授業だ。一人一人の技術上達に繋がるのは確かであった。四年生の先輩達は基本的に先頭と最後尾に付いて俺達の安全を守ってくれる役でお手伝いに来てくれている。普段関わりが殆どない為、顔は分かっても名前などは分からない。夏合宿に行った人は高校生と同じ班で行動をした人も居る為、交流があるが、俺は無い。
今回の日帰り登山は少し今までには無い登山だった。まず初めに教員が先に行き、読図定点を設置する。そして、先導となる四年生の先輩が歩き始める。そして、その後ろを俺達が付いて行くと言う形の登山だ。
ここで一つ違う点がある。俺達の班はどこの班を追い抜かしても良い。と言う点だ。要するに登山ルートが正しければ自由行動なのである。読図が得意な人も居れば苦手な人もいる。それ故に顧問は今回班を編成させ、自由行動にさせたのだ。人によってどののポイントに時間をかけるかは人それぞれだ。そこも腕の見せ所なのである。顧問も伊達に教員をやっている訳では無い。生徒の教育の仕方が上手い。
ただし、最終目的地には11時までに到着しなければならない。これは最後尾を歩いてくれる四年生の先輩が時間管理をしてくれる為俺達で計算する必要はあまり無い。
今日日帰り登山には参加しているのは三年生が国背先輩、火柳先輩、佐救間先輩、池野先輩、倉尾先輩、松村先輩、渡図先輩、鬼登先輩の計7名。
二年生が凰来先輩、椿先輩、颯先輩、古岩先輩、青山先輩、葉川先輩、植木先輩、良芽先輩、戸山先輩の計9名
俺達一年生が今回は湖穴や、孤島も参加している為、計13名。
四年生三人。総計中学生29名14班編成の大編隊である。
今回応援に来てくれた四年生の先輩で先導を担当するのは船渡先輩。短めの直毛が前に向かって生えている先輩である。身長は高く、顔はイケメンの部類だ。身体は引き締まっているが、太もも周りの筋肉は大きく隆起していた。夏合宿に行った友達曰く、船渡先輩は俗に言うチャラい性格だそうだ。
最後尾を担当するのは大潮先輩だ。髪は巻き毛で前髪は目まで伸びており、顔もあまりパッとしない印象を受ける。見た目からは清潔感をあまり感じない先輩だ。身長は高い。友達の総評は絵が上手い先輩であまり口数は多くない。との事だ。これだけ聞いても謎に包まれた先輩である。
同じく最後尾を担当するのは井戸先輩。髪は全て剃っており、頭部はゆで卵を彷彿とさせるフォルムをしている。歯が前方にかなり出ており、目はつぶらな為、正面から見ると深海魚に見えなくも無い。俺は今相当失礼な事を言ったと思うが、これ以外に表現しようが無かった。ごめんなさい。俺は先輩の顔を見ながら心の中で頭を下げた。
身長は中位で、全体的に小太り体型である。友人達の印象はかなり丁寧に何事も教えてくれる先輩。だそうだ。
俺は第8班で戸山先輩と一緒の班だ。発表された当日はマジかよ……と俺の心の中の声が漏れそうになったがその時はギリギリ耐えた。基本的に一年生は中学三年生とペアになる事が多いのだが、三年生の人数が一年生の人数と比べて少ない為、二年生と組む人もそれなりに居た。
そして、俺が戸山先輩を嫌がった理由は他でも無い。
「今日は宜しく頼む。精々死なないようにな」
「あ、はい……」
戸山先輩は極度の厨二病。それ故に意思疎通がしにくい。その上、見た目で人を決めつけてはいけないが、何か物を人に教えるのが向いてなさそう。それ以前にこの人読図出来なさそう。そう思ったからであった。
ペア班での読図講習会は中々勉強になりますね。山岳会では定期的に読図講習会を行なっています。興味がある方は地域の山岳会などを調べてみてはいかがでしょうか?




