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66話 沢登り

 八月初頭。俺達は沢登りの日を迎えた。この日の天気予報は曇りであったが、雲は今にも雨を降らしそうな雰囲気を醸し出していた。乱層雲が遠くに見える。風は夏にしては少し肌寒かった。


 今日向かう場所は広島県の廿日市市に位置する赤ヌメラと言う渓流だ。国道186号線沿いに横切る様に流れているこの川は広島県でも有名な沢登りスポットであり、初心者から中級者まで幅広い人にも愛されている場所である。岩盤の赤っぽい花崗岩が特徴で、表面がヌメヌメしていて非常に滑りやすい。沢登りは登山と違って沢を登る行為だ。とても暑い夏には丁度いいだろう。


 沢登りをする際は沢足袋と言う裏にメッシュ生地の様な物が使われてヌメヌメした場所でも滑りにくく、なっている特殊な靴を使うが、tont-dellで販売されている足袋は七千円付近と値がかなり張る。沢登りなんて、人生で何回行くかも分からない。そんな物だけの為にそれを買うのは馬鹿馬鹿しい。俺はそう思っていた。


 実際に顧問もそれは思っていた様で、野原先生は夏休み前のミーティングでとある広告を俺達に配っていた。


 俺は手元にある広告を眺める。釣具屋の広告だ。そこに書いてあるのはフィッシング足袋の記事だった。釣具屋で買えるフィッシング足袋は値段の割に登山用品店に置いてあるのと遜色無いレベルの性能を持ち合わせていた。その為顧問はこれをオススメしたのだ。そうなのだ。別に登山じゃなくても渓流に行く人はいるのである。それこそ、渓流釣りだって立派なレジャーだ。フィッシング足袋の値段は約三千円。とても安価であった。


 それでも俺は買わなかった。山での登山で靴の重要性をあれだけ感じ取ったにも関わらず、俺はここでケチったのである。俺は釣具屋に行かずに近くのスポーツ用品店に行った。当然今は夏の海シーズン。マリンシューズなどが格安で販売されている。マリンシューズ。海などで砂や貝殻などで足を切らない様に保護する靴の事だ。


 裏は吸着性のゴムが付属しており、ゴムも千円以下の値段で買ったとは思えない程厚い。俺はこれで十分だと思った。このマリンシューズの靴底も陸上で履くのならば十分過ぎる程の吸着性を持ち合わせていたのだ。だが、この選択は間違っていた事に俺は後で気づく事になる。





  いつもの様に行きのバスに揺られながら俺達は赤ヌメラの近くにある道の駅を目指す。この道の駅はバイクで旅をする人などが良く立ち寄る駅ですっぽん鍋などが名物である。テレビでも紹介されるなど中々有名な場所だ。


  ザックは当然サブザックのみ。中身も当然二重完全防水である。携帯電話や財布、電車の定期券、弁当、着替えなどはその中でフリーザーバッグの中に更に二重にして収納する。沢登りは完全に水に浸かる事となる。その為、例え海にカバンを投げ込んだとしても中身が濡れないようにする必要があった。


  巨大なビニール袋をザックの中に入れ、貴重品を奥に押し込み、口をキツく縛る。これを二重にする。これだけでも中の物は濡れない。だが、念には念を入れて中の物はフリーザーバッグなどで二重防水しておく事を推奨している。


 因みにこれは防災などでも使える便利な知識だ。ビニール袋の口を縛り、ザックの中に空気を閉じ込める事で、これは浮きの役割も果たす。ザックを背負っているだけでこれは天然の救命胴衣になり得るのだ。完全防水をする意味は浸水を防ぐ意味以外でも、浮きとしての役割もあるのである。


 赤ヌメラの地図は防水のマップケースに入っているものの浸水の恐れがある。過信はしない方が良いだろう。沢登りをする時の服装も登山と同じで長ズボンは必須だ。特に登山以上に足元が悪く態勢などを崩しやすい上、流木などで足を切る可能性もある。プールと同じ感覚で行くと痛い目を見るのは間違いないだろう。


 同じ理由でフィッシング足袋のゴム生地はマリンシューズと比較にならない位分厚く、足首から膝までを覆うようにぶ厚めの布が靴下の様になっているのだが、現物を見た事の無い俺はそれを知る由は無かった。




 現地に着いた。現地に着いた時には更に天候が悪化しており、今にも雨が降りそうであった。川の増水が懸念される場合にはここで中止もあり得た。


「川の増水が懸念される為、今日は途中で切り上げる事にします」


  案の定、野原先生から指示が飛んだ。やはり、雨が川にもたらす影響は重大な様だ。本来行く予定だったルートを大幅にカットし、俺達は途中まで進んで道を引き返す事になった。今日のコースは本来進む筈だった距離の約半分にまで短縮された。


  行く前は楽しみだった沢登りだったが、雲が空を覆うに連れ気温は下がり、それと同時に俺達の士気も下がってしまった。道の駅のトイレで用を足した後、俺は天井に巣を作っているツバメを眺めた。


「雨かぁ」


  道の駅から赤ヌメラ渓流入り口までは約一キロ国道を歩く必要がある。俺はため息を吐いた。


「ららら〜さぁ〜輪になって踊ろう〜」


  茂木と材木は愉快にも某アイドルグループの懐かしい歌を肩組んだまま歌っていた。何で今この歌を……?


「さわ〜になってお〜どろう」

「ふっ」


  俺は思わずにやけた。沢とさぁ輪を掛けてるのか。非常にしょうもない。だが、俺はその元気な声を聞き笑顔になった。


「俺も歌って良い?」

「え?逆に何で許可何ているのさ、みんなで歌おうぜ」


  俺は楽しくなった。


「「ラ~ラ~ラ~」」


  俺達は赤ヌメラまでみんなで歌を歌いながら歩いた。それは愉快で楽しい時間であった。そして、俺は再び沢登りが楽しみになっていた。


沢登りをする際はちゃんとした装備で行く事を推奨します。次の話で悪い例として主人公を出しますがマリンシューズで行くと本当に悲惨なことになります(実体験)。


サワタビと言われる物が登山用品店で販売されてますが高いので釣具屋さんで販売されているフィッシング足袋と言うのを購入するのをオススメします。靴底のメッシュ素材は渓流のヌメヌメした岩盤にしっかり吸着し、分厚いゴム素材は岩などにぶつかっても衝撃が足の指などに来る事はありませんし、ちょっとやそっとでは破けません。


完全防水……最初の方の話で一回説明したので少し説明省きます。(18話)大きめの袋などでザックの中全体を覆う事で浸水を防げます。口は必ず縛りましょう。寧ろ縛らないと全く意味無いです。二重以上推奨。防災にも効果的で縛られた袋は浮きになるので、ザックが救命胴衣になります。浸水したりした際に必要な食料や水などを詰めて完全防水しておけば、生存確率は少しは上がるでしょう。以前西日本豪雨の際に少しお世話になりました。


登山関係ないですが補足


WAになって踊ろうの曲はV6さんのイメージが強かったです……。気分が落ち込みそうな時に仲間達と歌を歌ったりすると本当に些細な事で悩んでるのがバカらしくなるくらい楽しくなる時ってありますよね。これ結構大事でメンタルケアしないと身体的パフォーマンスが落ちたりします。ただ歌を外で歌う時は近所迷惑にならない程度の音量でやりましょう。周りに民家などがあった場合通報される事もあります。

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