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55話 天気図講習会 5

「それで前線と等圧線が触れる時は等圧線の向きが急角度で変わる様に描くのもポイントだ。この時に折り曲げる向きを間違えない様に。必ず前線が気圧の谷になる様に折り曲げるんだ。要するに気圧が高い所から低いところに向けて折り曲げるって事だね。原理としては前線自体が気圧や温度が異なる空気のぶつかり合いの境目な訳だから当然そこを通る気圧は必死に押し合って歪な形になるよね?それが原理だ。単純でしょ?それで全体を確認して空白が無いかチェックする。強い台風とかだと線が集中して汚くなるからそこは中心部分に限って10hPa毎に書いても良いよ」


  本当に最後だ。国背先輩は説明にラストスパートをかけた。それだけに説明の内容も中々ハードであった。


 地道且つ、終わりの無い作業だ。等圧線に正解など無い。いや、現実に近い正解は有るのだろう。ニュースなどで報道されているあの図が正解の図だ。山などと違って気圧は目に見えない為、意識し辛いし実数値の量も地点毎なので少ない。山の地図は実測値の地点の数は多いが、その地図を完成させるのに多大な時間を要している。そんな作業をしていたら40分で天気図など描けないだろう。それに山の地形と違って天気図は毎日時と共に変化する。同じ地図は二度と無いのだ。それ故にこの作業は困難を極める事くらい容易に分かった。


「仕上げは黒のサインペンか太めの鉛筆を使って10の倍数の等圧線を太く記入して数値を線の途中に記入する。多分普通に天気図描く分だとこれは20の倍数だった気がするよ。その時に他の情報を消してしまわない様に注意してね。君達にはこの先はまだ要らないかな?一応説明しとくけど」

「?」


  説明しなくて良いよ。とは流石に言えないので俺達は腹を括って最後の話を聞いた。やっと帰れる。俺は心の中でガッツポーズをした。時刻は既に五時半を回っていた。熱弁一時間以上である。


「予報についてだ。これは主に中学三年生について言う。一応一年生に分かる様には説明しようと思うから三年生は特に良く聞いていてくれ」


  国背先輩の口調が若干変わった。


「基本的に予報するのは次の日登山する予定の山域の予報だ。それを根拠と共に書かなくてはならない。明日は晴れると思う〜。とか言う適当な予報はダメだ。いつ、どの地域がどうしてどの様な天気になるのかちゃんと書く。これが大事だ」


  確かに天気予報が適当では困るもんな。


「とは言っても書き方が分からないと思うから一例を言ってみよう。冬場の気候で言えば現在西高東低の冬型の気圧配置により、日本海側の山間では雨や雪が降っていると言う解釈の上で、明日広島県ではモンゴルにある高気圧が近づきながら張り出してくる事が予想される為晴れる。だが、朝は放射冷却により冷える。こんな感じの予報が出来る」


  国背先輩は冬場に書いた物である自分の天気図用紙をプロジェクターで映しながら解説する。


「まずは根拠の例……つまり、『東シナ海の低気圧が東進してくるので』とか、『華北の高気圧が張り出しているので』とかをちゃんと示す事が、大事だ。例えば『日本海の低気圧から延びる寒冷前線が南下してくる為』ってのは寒冷前線は東または南に動く根拠の説明になるし、『四国沖に前線が停滞している為』って言うのは天気が変わらないときの根拠になる。これを示した上で予報を書くんだ。三年生は採点される立場になるのだからちゃんと文字でオレ分かってますよ。って伝える必要がある。予報も『明日の広島県は雨になるだろう』などと明確に『天気』を書かなくてはならない。間違っても天気が悪くなるでしょうとか、天気が不安定になるでしょうとか言う適当な事を書かない事」

「「はい」」


  中学三年生達は身に沁みたのか静かに返事をした。


「書いた天気図用紙は教員室持って行ったら野原先生や伯江先生が採点してくれるから練習したからったら幾らでもしたら良いよ。それで一年生?なんで日本付近の天気が西から東に推移するかは分かるよね?地球は西から東に自転している……それなのに何で地球と同じ向きに雲が動いているんだ?とかなってないよね?」

「……」


  俺達は一瞬黙った。すぐに考えたら分かる問題であっただろう。だが、長い話で疲れていた俺達はすぐに偏西風と言う言葉が出てこなかった。自転車などで右側に進むと風は左向きに吹いているように感じる。その原理で考えてしまったのだ。それが吹いているのは地球の中心付近のみ。貿易風である。


「まぁ、小学校の時に塾で習ったと思うから少し省略して話すよ。赤道付近は空気が暖かいよね?すると空気は上空に上がるよね?これが序盤で説明した低気圧による上昇気流さ。だけど北や宇宙に空気が近づくにつれて温度は下がるよね?そうなるとその空気が高気圧による下降気流さ。冷たくなった空気は再び地上に降りるんだけど、再び地上で空気は暖められて上に上がる訳だ。これで赤道付近を循環している空気が中緯度まで上昇して下降する際に自転の影響によってズレて東寄りの風の貿易風ってなってる訳。これをハドレー循環って言うんだけど覚えなくて良いよ。逆も然りで、高緯度地帯では極偏東風って言う東寄りの風が生まれるんだ。ここ付近の循環を極循環って言う。そこでまた今日学んだ知識が生きるね」


 どこで生きるんだよ。俺はまた関係なさそうな話をし始めた国背先輩に呆れた表情を向けた。俺はそんなに察しは良くないし、一度の話で理解できる程頭は良くない。正直要らない情報は本当に要らないのだ。


「オレ達が今いる地域の辺り……つまり中緯度付近。ここはハドレー循環と極循環に挟まれている地域なんだ。中緯度まで昇った空気は冷えて高気圧になって下降気流を起こすって話はさっきしたね?その際に慣性の法則などが働いて空気は大きく蛇行して西寄りの強い風が吹く。これが偏西風って奴だ。地球の自転速度は相当なもので、それ故に風の速度が変化するんだ。それで、蛇行して一部の空気は低緯度まで下降して貿易風となってハドレー循環に取り込まれるって訳だ。そこで偏西風って言うのは低緯度から来た暖かい空気が急激に冷やされて起こるもの……それでそれを冷やす高気圧ってのが極偏東風。もう分かるね?寒冷前線が出来るね。日本はこの二つの南北の下降する高気圧地帯に挟まれているんだ。だから四季の気候とかもちょっと厄介なんだ」


  へー。以外の感想が出てこない。そもそも興味が無いのだ。こんなに沢山情報を言われても分かる筈が無いのである。


「よし、良く話を聞いてくれた。本当はここから天気図を実際にラジオを聞いて描いてみよう!って言いたいところなんだけど生憎ラジオの調子が悪くてね……。ちょっとこれは次に回す事にしたよ」


  よっしゃ!俺は心の中でガッツポーズをした。ラジオ神かよ。この天気図講習会は気まぐれで火曜日と木曜日に開くらしい。結局この日は六時手前でお開きとなった。


 


等圧線は前線と触れると急角度で気圧の低い方に曲がります。仕上げは普通は20hPaずつ太く記入し値を記入。


予報……根拠と共に書く。


放射冷却……雲がない状態だと逆に地面から熱が逃げて夜冷える現象の事。


ハドレー循環共々の話……コリオリの力などが働いて偏西風や貿易風などを生む。その風の影響で雲が動きます。その為必ず西から東に雲が動く訳では無いです。


天気図描き方まとめ


準備するもの→黒、赤、青、紫ペン。黒鉛筆。黒の極細ペン。消しゴム。ラジオ。天気図記録用紙。


手順


情報の時刻記入

各地点の天気や船舶の報告を書く

漁業気象。低気圧、高気圧、前線などを書く

予報円を書く

等圧線を記入する

仕上げをして完成。

予報は任せます。


予報まで全部書き切る目安は40分。等圧線書くまでの工程は放送中(20分間)に全て仕上げておきたい所です。


作者は天気図講習会には参加した事がありますが、あくまで素人の書いた事です。本気で学ぶ方はちゃんとした本などを購入して書く事をオススメします。何か間違っていても私は保障できません。



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