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50話 隠れんぼの天才

「……お、ここはいいな」


  缶蹴りが始まってから数十秒。俺はいい隠れ場所を見つけた。逃げていい範囲は公園付近の道路を含む公園内。その範囲ギリギリの場所にその茂みはあった。


  小学生時代隠れんぼの天才と言われた俺にとっては絶好の隠れ場所であった。自称だが。小学生の休憩時間に鬼ごっこをした際に身長が高かった俺は倉庫の屋根の上によじ登り、その上で隠れていた。


  そして、時は来た。休憩時間の終わりを告げるチャイムが鳴ったのだ。その時俺が倉庫の屋根の上から学校の校庭を覗くが俺の視界に映ったのは静寂に包まれた学校の校庭と、誰一人として残っていないグラウンドの映像だった。そう。俺は存在そのものを忘れられていたのである。別に悲しくなんか無いんだからね!


  今回はそうであって欲しくない。俺はそう願いながら茂みの奥へと匍匐前進で進む。枝などが身体に突き刺さるが俺は気にしない。ここなら絶対に見つからないだろう。俺はその自信があった。


「くっさ!」


  だが、茂みの中は猫のフンが大量にあった為か非常に臭く、俺は思わず顔を歪めた。缶蹴りと言う隠れんぼまがいのゲームなのにも関わらず、俺は今回はあの時と違って見つかって欲しい。そんな矛盾した思いを抱えていた。流石に見つからないってのはいろんな意味で悲しい。それに、放置して帰られたりしたらもう最悪だ。


  三十分が経過した。地形が複雑な事や、前述の名前を先輩が覚えていない原因が絡まって俺は愚か、他の人ですら全員捕まる事は無かった。


  全滅しなければ幾らでも缶を蹴って脱出が出来るのだ。そりゃ、ゲームは長引くだろう。その結果鬼は五人に増えていた。その時だった。


「お前、山川それは流石に笑うわ」


  後ろから声がした。青空である。


「そこに俺も隠れようとしたんだけど、無理やったわ。山川良く入ったな。虫刺されにはは気をつけろよ」


  青空は笑顔で茂みを捲ると直ぐに何処かへと去って行った。やばいな。そうか。奥には入られなくても捲られたらバレるのか。


  俺は危機感を感じて茂みから出ようと茂みを掻き分けた。その時だった。上の階段から誰かが走ってくる音が聞こえた。あれは、材木か?アイツ裏の道で鬼に見つかったから、階段の曲がり角で鬼を巻くつもりか?


  俺が隠れている茂みは公園から続く階段から直行だ。缶が置いてある場所から階段方面には大きな石碑があって視界が隠れている。そして、階段を突っ切った端には今俺が隠れている茂みがある。この茂みの目の前の通路は二つに分かれており、鬼の目を撒くのには一番適している場所である。


  鬼は大抵そこまで追いかけたらどちらの道へ逃げたのかと考える。だから俺のいる場所……つまり目の前の茂みに隠れているとは思わないだろ……ってアイツどこに向かって走ってるんだ!?バカ!こっち来んな!


  材木は左右の道など見ていなかった。え、こっちに来ないよね?


 え?


 来るの?


  材木は茂みに近づくにつれて流石に速度は緩めたものの茂みの手前で手をすぼめ、飛び込みの姿勢に入ると茂みの木々の隙間に向かってダイブした。


「馬鹿やろぉぉお!?」

「えええ!」


  材木は飛び込もうとして俺の声に反応して止まろうとするが、既に遅し。材木は茂みの中に突き刺さった。いや、お前……絶対痛いだろ。あと公園の草木を勝手に破壊するな。これアウトやぞ。



 当然、速度を緩めて入った為か材木の身体は頭しか茂みに突き刺さっていない。寧ろそれで正解だったと思う。速度が出ていたら材木も大きな怪我に繋がるだろうし、公園の樹木をバッキバッキに折るのはアウトだ。流石に頭のネジがぶっ飛んでいる材木でもそれくらいの常識は分かっている様だった。


「くっさ」


  いや、くっさじゃねえよ!早くそこ退け!広がった樹木のせいで俺の場所バレるだろうが!どちかと言えば草だわ。……何でもない。


「材木!見つけた!って何やってんだ?」


  古岩先輩だ。ヤバい。こっちに近づいてくる!俺は茂みの中を後ろに移動する。間に合え!


  缶蹴りのルールで名前を呼んで缶を踏む場合は逃走者が視界に入ってないといけないと言ったが、それだけだとこの公園では明らかに安置が存在する。その為、鬼がタッチした場合は視界に入っていなくても確保出来るルールに設定してある。


  材木は小枝などで付いた傷だらけの顔を抑えながら立ち上がるが既に古岩先輩の餌食である。


「材木確保。……山川も何してんだ」


  流石に茂みの中までは先輩の手は届かない。


  だが、こんなズルをしてまで俺は勝ちたいと思わない。その為俺は自主し、牢屋へと入った。今回見つかったのは材木全部お前のせいだからな?この原因のせいで俺は見つかっても素直に喜べなかった。


「それにしても山川本当にくっせえな」

「やめろ」



  結局俺は牢屋の中で友達に臭い弄りをされ続けた。猫のフンが沢山ある理由としてはこの山には猫に何年も毎日餌をやっているおじさんがいるらしく、そのせいで猫が住み着いてしまっているのだと言う。通称猫おじさんである。絡んだ事がある先輩もいるみたいだがそこそこヤバい人らしいので、挨拶だけに留めておくのが無難だ。



  その後五時半位まで缶蹴りをしてから俺達は志道学園に帰った。志道学園に着いたのは身体の疲れからか六時過ぎであった。肘山には短縮ルートの階段がある為降りる時は楽なのだが、登る時は当然先輩達の許可が出ない為使用は出来ない。


 後で聞いた話によると先輩達にとってこの山はトレーニングには緩いらしく秋ごろになって俺達が慣れてくると上まで行った上で外周を一周回り、再び山頂に戻り、山頂の裏の高低差70メートルの急な坂を三往復したりするらしい。特に中学三年生はタイムレースの練習も兼ねて12キログラムの重りを背負ってそのトレーニングを行う。正直信じられない。


  肘山が部活のトレーニングで緩いって事はもっとヤバい山に部活の時間に走って登る事があるのだろうか?俺はそんな嫌な予感がしていた。




  明日は間違いなく筋肉痛だな。俺は痛む足をさすりながら電車の椅子で眠りについた。それと同時にジャグリングの道具を手に握り、隣で寝ている近藤と近藤の手に出来ている豆を交互に見た。


野良猫に餌やるのは禁止の場所が多いです。駅でハトに餌やってるのと同じ感じですね。


主人公の部活の掛け持ち故の苦悩。これは後に徐々に大きくなって行きます。

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