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44話 伊邪那美命

 煮干山を降りた俺達は、木場山御陵へと向かっていた。煮干山と木場山御陵の丁度中間地点辺りの鞍部には分岐を示す看板があり少し進んだ先にはスカイランの宣伝の看板が設置してある。木場山御陵直前の坂道の途中の道は大きな切り株や、巨大な岩が多く鎮座している様子が見受けられ、植生も資料にあったブナの純林が姿を見せた。


  御陵手前だというのに既に周囲は神聖な雰囲気に包まれている。特に御陵手前の登山道を跨ぐように配置された二つの巨大岩は意図的な何かを感じた。その岩二つの隙間に位置する登山道の隙間の広さは人1.5人分しかない。偶然にも渡図先輩の下の名前が岩斗、俺達と同学年の弟の名前が岩男のだった為、この二つの岩は俺達の中で岩王と言われる事となった。


  岩の王様……岩キングと岩と岩の中央を通る岩央、渡図先輩の名前を取っている。更なる偶然にもソ◯ドアートオンラインのとあるキャラの名前がこの山の名前と一致しており、語呂も似ているがキバ◯ウとは全く関係は無い。青ルとか、岩王、パイ◯ン山とか苔の極みベンチとか何かと変な名前付けるの好きだな……この人達。俺は心の中で少しにやけた。


  御陵手前。


『↓水ノ段2.0キロメートル』


  分岐を示す看板だ。登山道の右側には御陵の歴史について書かれた看板が複数あった。分岐を左に真っ直ぐ進めばもう御陵は目前だ。



 木場山御陵。そこには直ぐに到着した。だが、墓と言うにはそれはあまりに粗末な物だった。ブナの純林に囲まれた登山道の真横……ロープで囲まれた円丘の中にそれはあった。


  九十本は在ろうかと言う栂の木に囲まれた苔むした大岩。その大岩は二本の巨大な栂の木に抱かれる様にして静かに眠っていた。この二本の栂の木……要するにイチイの木が樹齢二千年を超えると言われる古木である。この互いに対になって巨石を抱いて茂っているイチイの古木が門戸を形作っている事からこのイチイの木は門栂と呼ばれている。


  木場山御陵から周囲の景色は殆ど見えない。山頂から見えるのは風に靡いて揺れるブナの葉と静かなさざめきだけだ。この緑に囲まれ、静かな空間はこの場所の神聖さをより増す要因になっていた。悪く言えば無骨。良く言えばシンプルな作り。だが、それで良い。この場所に騒めきなど不要であった。一瞬の静寂がこの場を包んだ。


  俺達は長居はしなかった。だが、何かしらの感銘を得る事が出来たのでは無いか?と俺は個人的に思っている。イザナミの墳墓を囲っているロープに沿って道を進むと再び分岐だ。


『管理センター3.2キロメートル』


  当然正面に進む。左側にはスカイランの看板があった。御陵を過ぎ、先に進んだ俺達は後ろを振り返る。


「成る程な」

「?」


  先輩達は後ろを振り返って地図と何かを見比べるとほくそ笑んだ。恐らくは読図だろう。木場山御陵付近は木々が多くて地形が読み取り辛い。その上、御陵の中心地はロープによる規制線が張られている為、中に立ち入る事も出来ない。そんな中読図のポイントと言ったら地形を大きく見る位しか無い。案外、戻ってもう一度地形を見てみると言うのも読図においては重要だったりするのである。


「読図ですか?」

「ああ、大体そんな所だ」


  俺が先輩に尋ねると、先輩は良くわかったな?とでも言いた気な顔で俺の顔を見て笑った。流石に意図無しで後ろを確認するとは思わないだろう。登山行動中に後ろを振り返ると言うのはそれなりのリスクを含むのだから。


  鞍部を超え、道が傾斜変化に差しかかった所で景色は鮮明になった。周囲の植物はまだ大量に生い茂っているものの登山道から地形が見える程度には視界は鮮明だ。苛立山から煮干山までのルートの景色とは一変、自然を見下ろすと言った感じの景色である。


  現在地から見て右側には大きな谷があり、左側には七ノ原の方まで繋がっていると思われる大きな尾根の姿が見えた。


 しばらく道を下ると石柱が地面に埋まっているのが確認出来た。これは水準点だろうか……?いや、だが数値は何も書いていないな。これは木場山御陵にロープを張る際に測量などをしていた印だろうか?ちょっと俺には分からない。


 傾斜が終わりある程度道が平らになった所には再び看板が姿を見せる。


『立煮干駐車場2.0キロメートル』


  もう、そんな所まで来たのか。俺は驚いた。立煮干駐車場と言えば昨日俺達が訪れた場所だ。同じ山の連峰の為繋がっているのは分かっていたが、こう実感できると中々嬉しい物があるな。悦原越へと向かう山道ではユキザサや、オオカニコウモリ、ツルニンジン、オタカラコウ、ミゾソバ、アケボノシュスランなどの植物が見受けられた。ユキザサ以外は秋に花を咲かせる植物の為、当然花はまだ付けていない。そして、未だに完全に融解していない雪と共に姿を見せたのは一箇所に群生しているモミジガサだった。


  悦原越手前の尾根からでも見える程大きなモミジ型の深緑色の葉と下に積もっている雪はまたシラカバとは違った色の対比を見せていた。このモミジガサも秋になったら花を付ける。今の時期はどちかと言うと鑑賞用と言うよりかは食用だ。この時期は山菜としても採取される事が多い植物である。


  悦原越から水ノ原方面へと向かえば、トリカブトや、イヨフウロ、チゴユリ、アサギマダラ、マツムシソウ、イワショウブなどの植物も見れるのだが、季節違いな上に今回はそっち方面には俺達は向かわない。さっき確認出来た植物はサワウツギやヤマイチゴ位だろうか?他にも沢山植物は有るのだろうが、俺の知識量だと何が何だか分からない。サワウツギはピンクの花が目立つ為見つけやすい。ガイドブックなどの資料を見る限り春はピンク系、秋は紫系の花が多い印象である。強ち世間の季節の花イメージは間違っていないのだ。


「雪を踏み抜く時は一度軽く踏んでから踏み抜け。じゃないと穴に落ちるぞ」

「分かりました」


  俺達は様々な植物を目にしながらも、足場に気を付けて下山を開始した。ここで転んで怪我をしてしまったら全てが台無しになってしまう。俺は再び気を引き締めた。


沢山植物が出て来るのでそこは割愛します。


ユキザサ、サワウツギ、山いちご以外は季節の花では無いので……。ユキザサはササと名前にあるもののササでは無い。広葉樹林帯の林床に生え、硬いワカメみたいな形の葉をして茎から小さな白い花を複数付けます。


サワウツギは名前の通り湿地帯などに分布しており、ピンク色の花をつける植物です。


山いちごはバラ科の植物で世間で野イチゴとかと言われている物の仲間です。


草本植物だけでなくミズナラなどの植物も近いうちに出す予定です。と言うより出ます。

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