32話 就寝
自分の食事を終えた俺達は他の班の食事も見て回った。二班の天咲、山猫の所のパエリア、濱内、湖穴の所のビビンバ、山田、速瀬の所の回鍋肉、材木、茂木の所の肉巻きおにぎりどれも個性が強い。
この中でビビンバと、回鍋肉は素がスーパーなどで市販されている物を使っている為失敗する事は殆どない上、料理も簡潔、そして、鍋もそこまで汚れないと言う素晴らしいメニューである。高校生の先輩達はそれを考慮して全員牛丼というメニューである。まるで牛丼屋だ。こうして、遊び心を持った料理が出来るのが中学生までと考えたら悲しくなってくる。
パエリアは料理過程で四苦八苦あった様子だったが、何とか物にはなったみたいだ。そして、問題は肉巻きおにぎりを作ったグループである。いや、元から彼らはやらかすと思っていた。
彼らの食事はマジで死んでいた。特に先輩の顔が。
茂木と材木が作ったおにぎりは一目見ておにぎりと言える物では無かった。いや、米とも言えないだろう。彼らのフライパンの上にあったのは正にダークマターと呼ぶに相応しい謎の物体であった。
そもそも米が上手く炊けていたとしても肉巻きおにぎりがフライパンで上手く作れるのかどうか定かでは無い。米は水分を飛ばすとパラパラ……いや、ガチガチになる。おにぎりの形を保ったまま登山に持っていける様な小さなフライパンで焼くのは困難を極める。それを無理やり焼こうとした結果がアレである。
もはや原型など無い。ただの肉が付着した炭だ。周囲にはキツイ焦げの匂いが広がり、少し離れた場所にいる俺達ですら眉を顰めてしまう。
それを奴らは食べた。馬鹿である。
ゴミを増やす訳には行かないのだ。とは言ってもここまでやってしまったのならば、勿体無いとも言えない為、捨ててしまっても問題は無いだろう。流石にあれを食べろと言う程先生も鬼では無い。ただゴミは当然自己責任で持ち帰りだ。
食事の共有をしなかったらほぼ間違いなく茂木達の班の先輩達の精神が死んでいてもおかしくは無かっただろうな。
食事を終えた俺達は炊事用シートなどを片付ける。いや、片付けられていた。俺が他の班に出張している間に。
「片付けてから行けよ。馬鹿。トイレと水汲みは今日の内に済ませとけよ」
「あ、すみません。分かりました」
鬼登先輩の叱責を食らった俺は、水筒に水を汲みに行った。トイレは馬野神社手前のトイレと比べて圧倒的に広く、市役所のトイレか!と言う程綺麗に整備されていた。県民の森管理センターが間近にある影響かめちゃくちゃ綺麗に管理されている。俺は純白の便器で用を足し、地面に張り巡らされている樹木や、テントの張り綱に注意しながら自班のテントへと戻った。
時は既に二十時過ぎ。あと一時間弱で寝る時間だ。テントには既に班員全員が集合していた。
「よし、揃ったな。もうトイレとか全部済ませたか?それが確認出来たらもう今日はテントから出るな。点呼が面倒だ」
「「……大丈夫です」」
鬼登先輩の問いかけに全員が頷いた。
全員トイレなどは済ませた様だ。
「よし、じゃあ寝る場所を決めるぞ。まず荷物を端に寄せろ。寝相が悪い奴といびきがうるさい奴は端に寝ろ」
四人班の場合、荷物を真ん中に固め卍の様な形で互い違いに寝るのが一番スペースが取れるのだが、生憎俺達は五人班だ。テントの広さ的に荷物を端に置いた場合足を伸ばせないのだが足を伸ばした場合は横並びに寝る位しか寝方は無かった。
そうした場合、エスパースよりかは若干広いダンロップとは言え、寝返りが打てない程の狭さになる。あと鬼登先輩曰く端は浸水しやすいらしい。
「寝る前に明日の準備だけしとけ、あとパッキングもついでに今の内に……ってお前何してんだ?」
「……空気入れてます」
「それスペース取るやろ」
「はい、すみません」
俺が寝袋と寝袋のカバーの間に入れるエアークッションを膨らませていると鬼登先輩は不機嫌そうに呟いた。その顔は邪魔だからやめろとでも言いたそうな顔だった。いや、と言うより口に出てしまっている。
「いや、もういい。そのままで良い」
それを察した俺が袋を萎ませ様とするが、鬼登先輩はそれを止めた。空気音がうるさいから止めろと。寝袋の裏全体を覆う事もあってこれを膨らますにはかなりの空気が必要だ。それに鬼登先輩が言うように寝袋単体と比べると二倍近くスペースを取るのだ。重要な横幅も1.5倍程に膨らむ。そうなると、狭いテントの中では死活問題なのである。
あとここで言うのも悪いが……完全に膨らませてもエアークッションの硬さが中途半端な為、上で寝てたら腰を痛めそうだ。エアークッションを推奨してくれた大叔父さんには悪いが、正直雑魚寝の方が良かったかも知れない。邪魔になるし、空気を入れるのもしんどいし、次からは持っていかない。俺は心の中でそう決めた。
「ええと、何回も言う様だが、明日の炊事の道具を出したら直ぐにでも登山が出来る様にカバンの中を調整しとけよ。それで今から靴をテントの中にしまう」
「え、靴をですか?」
「ああ、靴をちゃんと中にしまっていないと霜が降りてビショビショになってしまう」
鬼登先輩は五人の靴をビニール袋に纏めて入れ、端に寄せているザックの上に置いた。
「あ、一年生。お前らはちゃんとメインザックに預ける荷物とか区別しとけよ?」
「「分かりました」」
一通りの指示を終えた鬼登先輩は溜息を吐いた。時刻は二十時四十分。就寝時刻まで後少しだ。基本的にキャンプ場では夜は騒がしくしてはいけない。ここに来ているのは自分達だけでは無いのだ。
当然他の登山団体の方や、キャンプに来た子連れの親子だっている。他の人の安眠を妨げてはいけない。山の夜は早く、朝が早い為、夜九時位には静かにするのが鉄則なのである。鬼登先輩はケータイのアラームと時計のアラームをセットして寝袋の中に潜り込んだ。もちろんケータイのアラーム音は音が大きい為イヤホン着用である。
「九時になったらライト切って寝ろよ。おやすみ」
「あ、おやすみなさい」
かなりマイペースである。俺達も特に話す話も無かった為、うとうとし始めた。今はフリースを着ている状態で寝袋に入っている為、若干暑いくらいの状態だが、鬼登先輩曰く、脱いだら絶対に夜中に寒さで目が覚める。との事なので俺はその言いつけを守り、フリースを着ている。
中々寝付け無いと思っていたが、案外寝付ける物だ。俺は虚ろな視界のままヘッドライトを消灯させ、メガネを上にズラした。メガネをかけたまま寝ている理由としては、床に置いていると紛失したり潰れたりする可能性があるからだ。これだけ人が密集しているとカバンに入れていてもメガネが潰れかねない。
メガネをズラした俺は寝袋のチャックを上まで閉める。意識が少しずつ遠くなっていく。羊が一匹、二匹……。おかしい。眠いのに眠れない。
外から聞こえてくる虫の鳴き声、窮屈で性能の悪いマットの様なエアークッション……。そして、隣から響いてくる鬼登先輩のいびき。寝る環境が違うだけで、これだけ寝れないものなのか……。
結局俺は寝付くまで二時間かかった。
他にも寝ている方もいらっしゃるのでキャンプで夜騒ぐ時は静かにしましょう。マナーは大事です。
エアークッション……合う人には合います。私は初めて使った時合いませんでした笑
テント。ここまで窮屈なのは志道学園の登山部の予算の関係もありますが、四人班が基本ってのも理由の一つです。普通はもう少しスペースあると思います。
準備……前日の内に次の日の全ての準備を済ませておく事が望ましいです。
山は気温の日較差が激しいので、夜は少し暑くても厚着をした方が良いかもしれません。あとその温度差の関係で朝は霜が降ります。靴などは盗難防止の意味も込めて中に入れておきましょう。




