断片:堤防
少女の散歩のはなし
少女が白いワンピースを着て、麦わら帽子を被っている。
うだるような、夏の日差しの中で、彼女はてくてくと歩いていく。
アスファルトが太陽の熱に照らされて、溶けるように、その表面の空気を揺らめかせている。
少女は、ふと、道端の塀に登るとその上を、バランスをとるように、両手を広げて、綱渡りのように歩いていく。
塀はずんずん高くなり、もう、地上は遥か下に小さく見える。
少女は恐れを知らないように、しかし、覚束ない足取りで、塀の上を進んでいく。
塀の下は気づけば川になっている。
塀は、塀ではなくなり、それは堤防になっている。
堤防の両側が川になっており、どちらの川に対しての堤防なのかはよく分からない。
二つの川を、細い堤防が区切ってい る。
向こうには別の堤防も見える。
その向こうには小さな川が流れており、氾濫元には畑も作られている。
じりじりした日差しが少女の広げた腕の肌を焦がす。
強い風が吹いてくる。
風に煽られて、麦わら帽子のつばが風を受けて、綿毛のように、少女は飛ばされる。
その下には群青色の、渦を巻いた濁流が流れている。
少女は腕を広げて、風をいっぱいに受けるようにして、ふわふわと、濁流の上を流される。
彼女の腕は日に焼けて、赤くなって、皮がむけ始めている。
そのまま、腕をひろげていると、腕はどんどん日に焼けて、どんどん皮がむけて、やがて少女の腕は、みんな日焼けの皮になって、むけて、風に飛ばされて消えてしまう。
腕を失った少女は、麦わら帽子で風を受けてふわふわ飛び続ける。
やがて、風がなくなって、凪になって、少女はふわふわゆっくり降りて、群青色の渦に飲まれて消えた。
群青色の波間に少女の帽子が、しばらくの間、踊っていた。
そしてそれも間も無く消えた。