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虚構都市  作者: 虚構建築設計
8/11

断片:塀

果てしなく続く無数の塀のはなし

塀は幾重にも、幾重にも続いていく。

白亜の塀が地表を覆いつくしていた。

僅かな塀の隙間には、家々があり、街路が走っている。

塀は高く、そして、常にどこかで建設が続いてる。

町の人々のほとんどは、建設業者で、そのほとんどが塀を建設し続けている。

塀と塀のすき間があれば、そこに新しい塀の建設が始まる。

そこにあった家々は、塀の中に飲み込まれる。

そして、そこに住んでいた人は、塀の中に住まうことになる。

塀はあまりにも、幾重にも重なっているために、どちらが塀の内側で、どちらが塀の外側か、分かっているものはほとんどいなかった。

塀が何枚つくられているのかも、そして、塀がどこまで続いているのかも、皆、知らなかった。

ただ、どこまで行っても塀で囲われた、小さな空間が続いていた。

塀の上に登れば、きっと、その果ても見えるのかも知れない。

そう思って、塀に登ってみるが、見えるのは今いる塀よりも、更に高い塀が広がっている光景だった。

その更に高い塀へ登ってみても、そこから見えるのは、更に更に高い塀が広がっている光景だった。

そのあたりで、皆、あきらめて、自分の家へ戻る。

塀はそれぞれ、かなり高くて、二つの塀に登って下りてしまえば、もう日は暮れて、へとへとになってしまっていた。

そんな高い塀に囲われた家はさぞかし暗いのかといえば、そうでもなく、塀に塗られた白亜の塗料が日の光を反射して地上まで届けていた。

幾度も塀にぶつかって、反射してから地上に届いた光は、ぼんやりとしていて、まるで塀が日の光から現実感を奪い去っているようだった。

塀の底の舗装も白い石が敷き詰められており、塀から落ちてくるぼんやしとした光も相まって、現実ではない現実のような、異様な雰囲気があった。

その白い世界の中を、黒い服を着た人々が行き交っている。

彼らは皆、頭の先から足の先まで、真っ黒な服装をしていた。

彼らは白い服を着ないように気をつけているのだ。

なぜなら、白い服を着てしまうと、塀に現実感を吸い取られて、消えてしまうのだった。

この間も、少年が迂闊にも、白いシャツを羽織ってしまったために、消えてしまったばかりだった。

このときは、彼が黒いズボンを履いていたために、下半身だけが、消えずに残った。

なぜ、彼が、白いシャツなんてものをもっていたのかと言えば、塀の、その壁厚の内部には真っ暗な空洞が広がっており、白い服を着ていないと、黒い闇の中に溶かされてしまうからだった。

普通、塀の内部から外に出るときは塀から足を出すと同時に、黒い靴下を履き、黒いズボンを履かねばならない。

そして、上半身が出るときに、黒い上着を羽織って、黒い帽子を被るのだ。

少年は黒いズボンを履いてから、帽子と上着を羽織り忘れて、そして、そのまま、塀の外へ出てしまったのだった。

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