断片:墓所
少女とヘラヘラ笑う男のはなし
墓所の空には、重い重い雲がかかっていた。
気付けばポツポツと雨が降り出している。
雨はすぐに、乾いた地面に吸い込まれていく。
雨はすぐに本降りになり、少女と男を濡らした。
後から後から振ってくる雨は、少女の瞳を濡らし、少女は何度も手で、ぬぐう。
地面はすでにじっとり濡れている。
男はヘラヘラ笑っていた。
この時だけでなく、いつも、ヘラヘラ笑っていた。
「ねぇ、どうして、いつも笑っているの?」
少女が男に尋ねる。
「へ、へへ、いつ、楽しいことが起こってもいいようにさ、へ、へへっ、笑ってりゃあ、大概のことは楽しくなるもんさ、へ、へへへ」
男は答える。
「どうしても、悲しいときも、あなたは笑っているの?」
少女は尋ねる。
「へへっ、へ、そうさ、あっしは、笑っている、へ、へへ」
「もしも、あたしが、死んでしまったたしても?」
「へへ、へ、そうさな、それでも、あっしは笑っているさ、へへ、へ」
少女はそれを聞いて少し悲しそうにする。
「 あたしが、死んでしまっても、あなたは、悲しくはないのね。」
男はヘラヘラ笑いながら首を振る。
「へ、へへへ、悲しくないことは、ないさ、へへっ、笑っていても、悲しいときは悲しいし、つらいときはつらいもんさ、へ、へへ」
「あなたは、泣いてはくれないの?」
「へへ、へ、泣いてなんていたら、楽しいことが来たときに、楽しくなくなっちまうから、な、へ、へへへ」
「あたしも・・・、笑っていたら、楽しい気持ちになれるのかしら。」
呟くように少女が言う。
「へへ、へ、そりゃあ、わからねぇ、へ、へへっ、ただ、泣いてるよりも、笑ってる方が、あっしは、楽しいがね、へへ、へ」
「じゃあ、あたしも笑ってみようかな?」
少女は無理に笑顔をつくってみる。
「へ、へへ、それがいい、へへ、たとえ、あっしが死んでも、この世で、おめぇ一人になっても、笑ってりゃあ、きっと楽しいさ、へへ、へ」
にわかに、雨が弱まり、雲間から、僅かに日差しが差し込んでくる。
「へへ、へ、ほれ、早速、いいことがあった、へへ、へ」
男は空を指していう。
少女は小さくほほ笑んだ。