断片:箱
色とりどりの少女たちとつるはしを持った男たちのはなし
さまざまな、色の服をまとった少女たちが、くるくると回りながら、あたりを飛び回っています。
彼女たちは、一時も回転を止めず、常にくるくると回り続けています。
彼女たちは、さまざまな色の服をきています。
赤、青、黄色、緑、紫、色とりどりです。
そのスカートはとても長く、身の丈の5倍以上あるでしょうか。
彼女たち、あまりに速く飛びまわっているので、
そして、彼女たちのスカートがあまりに長いので、
彼女たちの通った軌跡が、色とりどりの線となって、空中に飛び交っています。
彼女たちの一人が、四角い箱を見つけました。
それは、とても大きな箱で、3階建ての建物よりも、更に大きな箱でした。
彼女は他の色の少女たちも呼んで、その箱をコンコンとたたいてみます。
音は、箱の中で響いて、箱の中が、空っぽであると分かりました。
少女たちは、その箱に、噛り付きます。
彼女たちは常にくるくる回っているので、噛り付いた部分が、
ドリルで削られたように穴が開いていきます。
穴はどんどん深くなり、そして、内側の空洞に達します。
何人かの少女は歯が欠けたり、抜けたりしました。
穴が開通すると、少女たちは、めいめい、自分の空けた穴に入っていきます。
しかし、回転しながら入ろうとすると、服のどこかが穴に引っかかり、
彼女たちは、服からすっぽり抜け出て、裸で、箱の内側の空洞へ落ちていきます。
彼女たちの着ていた服は穴の部分から垂れ下がって、長いスカートが、まるで筒状のカーテンのように、彼女たちをすっぽりと覆っています。
四角い箱の中には、暗闇を割るように、少女たちの空けた穴から、カラフルな光がスカートを通して入り込んできます。
スカートは、まるで行灯のように、ぼぅっと光っています。
そこには、中にいる裸の少女たちのシルエットが、影絵のように浮かび上がっています。
影絵の少女たちは、相変わらす、くるくると回り続けています。
箱の壁が、ガンガン叩かれる音がします。
間もなく、壁が崩れてつるはしを持った男が一人、箱の中へ入ってきます。
男は手近なカーテンをめくると、中にいた裸の少女は、くるくる回るのを止めて、凍りついたように動かなくなります。
男は少女を襲って、子を孕ませます。
孕んだ少女の腹は、見る間に大きくなり、そしてポンッと赤子を生みます。
少女は母になって、赤子に乳をやると、赤子は見る間に大きくなって、青年になります。
青年は近くのカーテンをめくって、新たな少女を捕まえると、それを襲って、子を孕ませます。
その間に、青年の母も、新たな子供をつくり、ポンッと赤子を生みます。
青年の襲った少女もポンッと赤子を産みます。
赤子は皆、男の子です。
そうやって、箱の中には男がどんどん増えていきます。
最初にいた少女の数より、男の数が多くなると、あぶれた男たちは、女を求めて箱の外へ出て行きます。
箱の中で、男は常に増え続けていますから、それは一列の行進のように、地平線まで、ずっと続いていきます。
箱の外では、たくさんのつるはしが、そこここで茂みになっています。
男たちはめいめいそれを拾い上げると、列になって歩き続けます。
しかし、列になって歩く男たちは、あるものは疲れで、あるものは乾きで、パタリパタリと倒れていきます。
地平線のさらに先の地平線のそのまた先につくころには、男の列は一人になってしまっています。
男はそこで、四角い箱を見つけます。
それは3階建てほどの大きさで、壁のいたるところに、小さな穴が空いています。
男が入れそうな穴は見つかりません。
男は来るべき場所に着いたと思い、壁に向かってつるはしを振り上げます。