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虚構都市  作者: 虚構建築設計
2/11

断片:井戸

深い井戸に入った若者のはなし

井戸があった。

井戸は果てしなく深く、そして、深い闇を抱いていた。

皆、そこに井戸があるのは知っていたが、誰も、その底がどうなっているのかは知らなかった。

ある若者が言う。

「俺が行って見てこよう」

若者は、長い長い、とても長い縄を用意した。

それを深い深い井戸に垂らすと、ゆっくりゆっくり、井戸を下りていく。

井戸は果てしなく続き、闇はどんどん深くなり、若者を包み込む。

闇はどんどん近づいてきて、若者の肌に触れるほどだった。

もう自分の鼻先さえ見えない。

若者に感じられるのは、手のひらで縄を握る感覚と、ジメジメして冷たい井戸の空気が肌に触れる感覚だけだった。

若者は、ひたすら、井戸を下りていく。

ずっと、ずっと、井戸を下りて行くと、下のほうが、なにやら明るい。

更に下りていくと、井戸は突然終わっていた。

若者の下には雲が見える。

その更に、ずっとずっと下には、山や川や村が、小さく小さく見えた。

強い風がびゅうびゅうと若者と縄をゆらゆら揺らす。

ゆらゆら揺れて、若者は振り落とされそうになる。

「こりゃ、いけない。」

若者は、縄を登って、戻ろうとする。

そこで、つるりと、手がすべる。

「あっ、」

一声あげると、若者は空へ落ちていく。

ずっとずっと落ちていって、そして、どんどん地面が迫ってくる

地面がどんどん大きくなって、家や道やそこにいる人の姿も見えてくる。

人影は、見覚えのある人影だった。

若者の家の隣に住んでいる、女だった。

その間にも地面はどんどん迫ってくる。

井戸が真下に見えた。

若者が入った井戸だった。

若者はそのままの勢いで井戸に吸い込まれる。

暗い暗い井戸の中を、若者はひたすら落ちていく。

落ちていって、また空に出る。

空を落ちて、また井戸の中に落ちていく。

そうやって、若者はひたすら、落下しつづけた。

落下の速度は次第に増していく。

空気と若者との間に、生まれた摩擦が熱を生み、熱はどんどん高くなって、そして若者の体は炎に包まれる。

若者の体はどんどん燃えて、そして、骨も残らず燃え尽きた。

空から、井戸へ、一条の炎が真っ直ぐ下りて、空に赤い線を一本引いた。

そしてそれも、すぐに、風にのまれて消えて行った。

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