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虚構都市  作者: 虚構建築設計
11/11

断片:矢印

通路を歩く男女のはなし

町は無数の矢印で満ち溢れていた。

それはもう、矢印の氾濫と言ってもいいくらいだった。

巨大な町のどこを見ても、どこに行っても、矢印が目に入らない瞬間はない。

そして、町に、ひしめくようにして住んでいる人々も、みんな矢印に従って動いている。

それは一方通行や通路のどちら側を歩くかの矢印に始まり、おすすめの商品、果てはパソコンのマウスにまで、矢印は浸透し始めていた。


今も、僕は矢印に従って地下通路の左側を歩いている。

通路は人でごったがえしていた。

あまりに混み合っているために、僕たちはペンギンのようにヨチヨチとしか前に進めない。

ふと、右側を見れば、そこはガラガラだった。

通路の右側は反対向きに歩く人が通る。

床に描かれた矢印が、そう指し示している。


右側を歩いてしまえば、スタスタ進めるなぁ


そんな考えが頭をよぎる。

僕と同じようなことを考えたのだろう。

すぐ前を歩く、若い男が通路の右側に出て矢印とは逆走して歩きはじめる。

彼はスタスタ歩いて、すぐに見えなくなってしまった。


「僕たちも、右側を歩いてみようか?」

僕は隣でヨチヨチ歩く連れに話しかけてみる。

連れは髪をセミロングにした、どこか柔らかな雰囲気のある女性だ。

「ダメだよ。」

彼女は首を振る。

「矢印には従わないと。」

ふぅ、と息をついて、僕たちはまたヨチヨチとペンギンのように行列を続ける。


しばらく歩いたところで、先ほどの若い男が、係員らしき制服を着た男と口論していた。

どうやら、若い男は逆走していたところを呼びとめられたらしい。

「なんで、こっち側を歩いちゃいけねぇんだよ!そんなこと決めた法律なんかねぇだろうが!」

「ですが、矢印には従って貰わないと。この先に進みたいなら、一度矢印に従って戻って貰って、それから列に並び直してもらうことになります。」

「なんだそれ、ふざけんな!」

若い男はかなり熱くなっているようだった。

係員の言う通りにするならば、もう一度最初からこの行列に並び直して、ペンギン歩きを始めなければならない。


「ほらね、やっぱり矢印に従わないとダメなのよ。」

やりとりを見ていた連れがこっそりと耳打ちする。

したり顔の連れの顔を見ながら、僕はふと疑問に思ったことを尋ねてみる。

「そう言えば、僕たちはどこに向かっているんだっけ?」

「さあ?私たちは矢印に従ってここまで来たのよ。これからも矢印の方へ進むだけだわ。」

「そうか・・・、そうだね。」

そう言って、僕たちはまたヨチヨチとペンギン歩きを始める。


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