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虚構都市  作者: 虚構建築設計
10/11

断片:深海

少女の散歩のはなし

少女は深海へ落下していった。

深く、深く、落ちていくに従って、どんどん光は弱くなる。

透明だった世界は、次第に青色で染め上げられて、群青となり、そして、黒となる。

深く、深く、落ちていくに従って、水圧はどんどん高くなる。

少女はどんどん圧縮されて、海底に着くころには、小指ほどの大きさになっていた。

海底は、まるで砂漠のようだった。

真っ暗な砂漠の中を少女はてくてく歩いていく。

時折、宝石のようにキラキラ輝くクラゲたちが、ふわりふわりと海中を漂っているのが見える。

ギョロリと、大きなガラスのような目をした魚が、少女を見つけると、パクリと少女を丸呑みにした。

魚に丸呑みにされた少女は、食道を通り過ぎながら、自分のお腹が鳴ったのに気づいた。

丁度、おやつの時間で、お腹が空いてきたところだった。

「おなかが空いたけれど、このお魚は食べられるのかしら。」

パクリと魚の食道に噛り付いてみると、コクがあって、とても美味しい。

少女はそのまま、パクパクと魚の体を食べ始める。

魚の体内を食べ進んでいくと、大きなガラスのような目の内側まで来た。

「まるで、潜水艇の中のようだわ。」

少女を目玉のなかに入れたまま、ガラスの目の魚はゆったりと深海を泳いでいく。

少女が魚の目玉を持ってグリンと動かすと、魚はその方向に泳いでいった。

「これは、とても楽しいわ。」

深海にはおかしな形のヒトデや、脚が妙に長いカニや、やけに透き通った魚がいた。

少女は魚の潜水艇で深海探索を楽しんだ後、グリンと魚の目を上へ向ける。

魚の潜水艇は水面へ向かって進みだす。

水圧はどんどん小さくなって、少女はどんどん大きくなった。

魚の目玉は、どんどん大きくなっていく少女の体に圧迫されて、風船のようにどんどん膨らんでいく。

目玉はどんどんどんどん大きくなって、魚の体よりも大きくなる。

それでもどんどん大きくなって、水面が見えてきたあたりで、魚の目玉は、パンとはじけて、少女は海の中に飛び出した。

目玉の破裂した魚は死んだようになって、深海の暗闇に沈んでいった。

少女はスイスイ泳いで水面を破る。

午後の日の光が、水面をキラキラ輝かせている。

向うのほうには陸地が見える。

少女はスイスイ泳いで陸地に上がる。

砂浜は日に焼かれてジリジリ熱くなっている。

少女の服も、髪も、深海に染まって、濃藍色になっている。

少女は砂浜でゴロリと横になる。

深海の濃藍色はどんどん焼かれて透明になっていった。

ひとしきり、日向ぼっこをしたあとに、少女は家に向かって歩き出す。

夕日が空と海を紅色に染めている。

家の扉をあけると夕ご飯の匂いがする。

「今日はどこに行っていたの?」

お母さんが少女に尋ねる。

「今日は、深海にいっていたのよ。」

「そう、それは良かったわね。ご飯にするから手を洗ってらっしゃい。」

少女はお父さんとお母さんと食事をとると、部屋に行ってベッドに横になる。

窓から見える三日月が弱弱しい、薄っ白い光を少女の部屋に投げかけている。


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