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虚構都市  作者: 虚構建築設計
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断片:事務所

ある事業を立ち上げようとする経営者のはなし。

男はある事業を立ち上げようとしていた。

それには立派な、これ以上ないほどに立派な建物が必要だ

なぜなら、男の構想は果てしなく大きく、 いずれ世界を席巻するはずだからだ。

男は、建設業者へ依頼をする。

限りなく立派な建物をつくるようにと。

広い執務室、立派な応接間、リラックスできる談話室、 大きな資料室...etc

業者は図面を引いて男に見せた。

建物それ自体が宝物のようで、 世界中のあらゆる財を凝らした設計だった。

男はそれを見て首を横に振る。

「確かに、この建物はすばらしい。しかし、 入り口の扉が小さすぎやしないかね。建物に入るときに、 まず触れるのは入り口の扉だ。 それは大きくて立派に見えるものでなくちゃあならない。」

業者は頷くと、図面を引きなおす。

今度は入り口の扉を出来るだけ大きく、そして贅沢なものにした。 その分少しだけ、他の部分を質素にする。

入り口の扉は、普通の扉の2倍以上はあるだろう。

しかし、男はその図面を見て、また首を横に振る。

「確かに、入り口の扉は大きくなっている。それはすばらしい。 しかし、まだまだ小さい。 私の事業は世界をリードするはずのものなのだ。 こんな小さな扉でいいはずがない。」

業者は反論する。

「これ以上大きくすれば、普通の人では、 重くて扉を開けられませんよ。」

「そうか、しかし、こんな小さな扉では、 私の事 業の将来には全く足りない。 いいからもっと扉を大きくしてくれたまえ。」

業者はしぶしぶ頷くと、図面を引きなおす。

更に扉を大きくする。もう建物の正面は扉だけになっていた。 そして扉が立派に見えるように意匠を凝らす。そのために、 ほかの部分は大分質素になってしまった。

しかし、それでも男は図面を見て首を横に振る。

「確かに、大分良くなった。しかし、まだまだ、足りない。 もっともっと、大きくするべきだ。」

業者は反論する。

「これ以上は、もう、大きくは出来ません。 これ以上大きくするには建物の大きさが足りません。 ここだけ大きくするにはお金が足りません。」

「では、他の部分を少し小さくしてでも、 扉は大きくならないか。 」

「他の部屋を小さくすると、ご要望の機能を満たせませんが。」

「かまわない。いずれ世界を席巻するといっても、 今は私一人なのだ。ならば、多少小さくてもかまわないだろう。」

業者はため息をついて、図面を引きなおす。

入り口の扉の部分だけが異様に大きくなり、 他は小さな事務所くらいの規模になる。

それでも男は首を立てに振らない。

「確かに、かなり良くなった。しかし、もう少し、 扉を大きく出来ないか。」

業者は反論する。

「これ以上大きくしてしまえば、もうほとんど何も残りませんよ! 」

「かまわない。最初は私一人なのだ。 最低限一人が仕事できるスペースがあれば問題ない。」

業者はやけになって、図面を引きなおす。

もうほとんど全てが扉だった。 他は小さな部屋とトイレが一つずつだけしか残っていない。

男は大きく頷いた。

「すばらしい。これこそ、私の事業に見合う扉だ。」

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