第7話
今日は早番だ。
早番の時はタイムカードの打刻30分前に、百貨店近くの安いコーヒーショップで一服するのが常だった。
「有紀、おはよー」
同じフロアの他ショップで働く綾子が既に一服している。
彼女は服飾系専門学校を卒業して今年入社の同期だ。まぁ1才年下だけど…。
これでもかって位にマスカラを重ね塗りして、特殊メイクのように太くアイラインをひいている。所謂ギャルだ。
長い茶髪をこてで巻くために出勤前は必ずこの喫茶店にくる。
「ね〜、次の日曜日さ、うちらの歓迎会だよ!覚えてる?」
すっかり忘れていた。
元々酒好きの多いメンズチームは何かにつけて飲み会を開きたがる。配属初日に既に飲みに連れて行かれているし、そういう事に消極的なアタシはあまり乗り気じゃない。
「アタシは、いいかな...」
「駄目!荒木店長もくるし、有紀んとこの...越智店長も来るんだから!」
知らぬ間に段取りされてる...。
綾子は荒木ファンだ。
それは知っていたけど、女の子が絡むと飲み会に出席しないことで有名な荒木をどうやって誘い出したんだろうか?
「荒木店長引っ張り出すの超大変だったんだからぁ」
満面の笑みで話し出す。
綾子の話は大抵男の事で、呆れるっていうのを通り越して感心してしまう。
「直談判したの?」
綾子はテンションが上がりきってしまったのか、オーバーリアクションで説明し始める。
「まさか!佐伯に取り入ったんだよ」
綾子が得意気に鼻をすすったのが何だか可愛くて笑ってしまう。
「ちょっとぉ、佐伯だよ!さしで飲み行ったんだよぉ」
「佐伯って誰よ?」
さっきから綾子の話に出てくる【佐伯】という人が誰なのかが分からないから、いまいち大変さが伝わってこない。
「荒木店長んとこの新人のギャル男。あたしギャル男ダメなんだよねぇ...」
綾子がギャル男が苦手なんて意外だ。凄く似合うような気がするけど...。
出勤時間の迫ったアタシ達は、飲み会に参加するという約束をして仕事に向かった。
積極的な綾子に押され気味の有紀。そもそもこの2人がなんで親しくなったのか不思議だ…。