第6話
なんだかんだで、流されるままに川島にやられてしまった有紀。だけど、まんざらでもない!?
いかがわしいホテル街から仰ぐ空は濁りのない青で、後ろめたい気分だった。
「朝飯食おうぜ」
川島の言葉に否定も肯定も出来ず、ただ後ろからついて行った。近くにあった喫茶店に入りモーニングセットを注文して一服する。
「はい、これやる」
向かい合わせに座った川島が、テーブルの上に名刺を滑らせてよこす。それを拾い上げて美味しそうにタバコを吸う川島と交互に見ていたら、無意識に溜め息が漏れた。
マネージャーとやっちゃったよ...
働きだしてから彼とは音信不通だったから、エッチ自体も久しぶりだ。まさかこんなシチュエーションで一夜限りの経験をしてしまうなんて、自分じゃないみたいだ。
今までは付き合った人としかしなかったし、しかも年の離れた相手は初めて。
今までの彼とのエッチは本当に億劫だった。だけどしなければ彼が離れてしまうという不安から仕方なくやっていた。だから川島とのエッチは本当に驚いた。
大人ってスゴい...って感じ。
名刺に印刷された肩書きが実際の川島とはあまりにもかけ離れている感じがして苦笑いしてしまう。
「川島さんって、ほんっとに勝手...」
「そう?」
短くなった煙草をもみ消しながら興味なさそうに川島が答えた。
家に帰ると、何だか全てが夢だったような気がした。
ベットに寝そべって、川島から貰った名刺を取り出すと名刺の裏には手書きで携帯の番号が記してある。
「紳士服飾部統括マネージャー...川島徹平...か...」
覚えている限りの川島との会話を思い出しては1人でにやつく。
強引に組み敷かれ、愉悦に歪む自分の顔を部屋中に張り巡らされた鏡越しに見た。我慢出来ずに川島にしがみついた時の肌の感触が忘れられない。
背中一面に彫り込まれた藍色の双頭の龍が天に向かって泳いでいた。その何とも言えない微妙な肌の凹凸感が指先にこびりついていた。