第23話
9時45分
百貨店のオープン15分前に中央レジカウンター前でフロアー朝礼が始まる。
ぞろぞろと面倒臭そうに各ショップのスタッフが集まった。
アタシの隣には綾子がいて、その横には佐伯がいる。
マネージャーの川島が緩く整列された前に立つと朝礼が始まった。
「おはようございます。」
ライトグレーのスーツに白シャツを着ているせいか日に焼けた肌は更に黒く見え た。
「昨日の売上は…」
そっか…海に行ってるんだ
そろそろ川島さんも夏休み入るかな
節電の為に効きの弱い冷房の中、ぼんやりとしていた。
この数ヵ月こうして川島を遠くで見ることはあっても目が合うことはない。
すれ違い様挨拶をする時だって、営業スマイルで目の奥に感情がない。
それなのに、今日に限ってバッチリロックオン。
川島の姿が近づいてくる。
レザーソールが固い床にあたる音が段々早くなる。
遂にアタシはイカれてしまったのか。
結局忘れたくても忘れられなくてどうしようもない。
女は男より終わった恋愛を引きずらないと聞いたことがあるけど、そんなのアタシには当てはまらない。
それは強い女の人だけだ。
川島の慌てた顔
初めて見る表情
そしてずっと忘れられないでいる強引な、だけど温かい掌の感触
体がフワッと宙に浮いた。
途端に周囲がざわつき始める。
「キャ…」
「アシスタントマネージャー、朝礼の続きを。私は彼女を病院に連れて行きます。遅番が来るまで誰か店に立たせてください。」
アタシは川島にお姫様抱っこをされたまま気を失っていった。
的確な指示を出し、颯爽と有紀を抱き抱える川島は王子様になれるんでしょうかねぇ…。