第16話
自分の部屋に着くと、たった1日しか経っていないのに暫く帰ってきていないように感じた。
窓を覗くとまだ荒木が上を見上げている。
視線こそ合ってはいないけど点けたばかりの電気のせいで部屋がバレたらしい。
「彼氏かっつーの…」
誰も居ない部屋に自分の声が響いた。
4階から見下ろす荒木は職場で見る彼と変わらずモデルのように恰好よかった。
ベッドに倒れ込んで目を閉じると暫くして例の爆音が聞こえた。
荒木が帰って行った安心感に体を起こし、重たい足を引きずってユニットバスに向かう。
無造作に脱ぎ捨てた服から自分じゃない匂いがした。
昨夜の自分の軽率な行動を洗い流すかのように熱めのシャワーを強くひねり出し頭からかぶった。
好きでもない荒木と体を重ね、記憶がほとんどないはずなのに快感を得た辺りだけは鮮明に覚えている。
遅ればせながら開発されてしまった自分の性への嫌悪感に吐き気がするのと同時に、川島への仄かな想いに気付いてしまった。
荒木にされたのと変わらない傲慢な行為なのに、川島にだけ感じる切ない気持ち。
冷静になればなるほど見えてくる問題に危惧せざるを得ない。
考えれば考えるほど明日の出勤が憂鬱だ。
「綾子……マジでごめん」