第12話
え、え、アタシ荒木さんにキスされてる!!
突然のことに驚いて荒木の胸板を押し返そうと腕に力をこめるが、そんな非力はなんの役にも立たない。
無理矢理こじ開けられた唇の間からねっとりとした荒木の舌が入って強引に絡められる。
「はぁ…」
荒木の吐息が聞こえ、思考がおかしくなっていく。
甘いキスだった。
不覚にも受け入れてしまう自分がいた。唇が解放された後も、荒木にしがみついたまま暫く動くことが出来ない。
それを承諾の合図とみなした荒木の行動は、更にエスカレートしていく。
「すぐそこうちだから今日は泊まっていきなよ。」
「でも...」
耳元で囁かれ、腰に腕を回して半ば強制的にお持ち帰りされてしまう。
もうどうにでもなれっ
アルコールにやられた体はだるく、足が異常に重たく感じた。歩く事すら億劫で、全体重を荒木にかけたまま何とか足を前に出している。
これが良くない事だと頭の片隅では分かっているのに、今すぐにでも横になりたい一心で拒否する事すら出来ない。
「もぉ眠いですぅ...。すみませんが玄関先でいいんで泊めて下さい...ふぅ...」
「玄関先?最初がそれ?...それもいいかもね」
荒木の表情まで窺う余裕はなかったが、明らかに言葉尻はイヤらしい意味合いが込められている。......その時は全く気にする余裕はなかったけれど。
遠くに見えていたコンビニに立ち寄って、2リットルの水のペットボトルと滋養強壮飲料を2つ買い込んだ。
マンションに着くと、エレベーターのボタンを押した。
「2階なんだけど歩けないでしょ?」
荒木は完全に寝に入ったアタシを片手で必死に支えながら買ったばかりの滋養強壮飲料を一気に飲み干した。
「久しぶりだからね、頑張っちゃおうかな...」
荒木は自分に言い聞かせるように呟くと、ドアを開けて段差のほとんどない玄関にアタシの体を横たえた。
「ふぅ...」
買ってきた水を冷蔵庫に入れてからスーツのジャケットを脱ぐと、ゆっくりとした足取りで玄関先に戻ってくる。
微かに残っている意識の中で荒木が響かせる様々な音が、子守歌のようにアタシを眠りに誘う。
「柳井、ベットで寝ろよ」
荒木が体を揺り動かした反動で、シャツの第3ボタンが外れて胸の谷間とブラジャーが覗いた。
「ヤバい...」
切羽詰まった荒木の切ない吐息が顔から少しずつ下に降りていき、胸の辺りで止まる。
「ぅう...ん」
長くしなやかな荒木の指がアタシのシャツのボタンを外していく。
下着の上から胸の膨らみをなぞり、そのままやんわりと手のひら全体で揉んだ。
「ここもいいんだけど...さ…」
上擦った声で呟くと、アタシを軽々と抱き上げた。