「審判とかしたくないですホント……」
「さぁさぁ、入ってくださいよ、さっさとね!」
鬼の親玉の様な奴が言う。その気迫は親父を狩る不良にひけをとらないだろう。
僕は閻魔。死んだ後閻魔になったようだが、周りの鬼達は僕を「第16代目閻魔ナキ」として扱っている。僕はそうじゃないと言えずに今に至る。今から仕事、つまり審判らしい。
責任が重い………………。
「わかってますよ……………うぅ……」
呻きながら目の前に架かった深紅の布を少しめくる。
ざわざわざわぁーーーーーーーっ!!!
無数の魂が蠢く音なのか、自らの鳥肌が立つ音なのかはわからないが、ともかくそういう音が耳に飛び込んでくる。
ひゃぁあーーーっ!
声にならない悲鳴を挙げる。そこまではまだ耐えられたのだが、次の瞬間に魂についた円い眼が一斉にこちらを向くともうだめだった。
「いぃやあぁーーーーぁっ!??」
女の様な悲鳴を挙げると尻餅をつき、ホラー映画の悪霊の如く手足を使って後ろへ飛び退いた。
「あっ、あ、あぁががいぃああぁ……………!!!」
泣きそうになりながら鬼を仰ぎ見る。藁にもすがる思いだ。だが、僕の必死のSOSは鬼の「あんたは女子か」という一言によって一瞬で打ち砕かれた。
そして僕は地獄着の襟を掴まれ、布の向こうへと放り出されてしまった。
全ての魂の眼が僕の姿を捉えた。布の向こう側はとてつもなく広い空間だが、僕の立っている場所は閻魔台だ。半径1メートルほどの半円状の足場に教卓の様な、(といっても派手な造りだが)台があるのみで、しかも地面から50メートル位の高さにある。
だから魂を見下ろす形になり、さほど怖くはないはずなのだが、僕は人一倍怖がりだった。
「ひぃーーっ!やっぱ無理ッ!!無理だからぁぁあああッッ!!助けッ………」
咄嗟に振り向いたが、さっきまであったはずの布はもうなく、代わりに輝きを放つ壁が存在した。
「嘘だろ?ちょっ、あぁぁあぁぁぁあ!!」
再び魂達の方を見ると、じっとこちらを見詰めている。まずい、何か喋らないといけないんじゃないかコレは………!
「あっ、ど、どうも、閻魔です」
やっと出た一言がコレ。だめだぁ、僕。
案の定、
あれが閻魔?なんかイメージと違くない?
しどろもどろになってんな。大丈夫か?
等とあちこちから聴こえてくる。
「何やってんですか。さっさと審判始めてくださいよ、さっさとね!」
いつの間にかさっきの親玉鬼が。
「親玉鬼さん!」
「何ですかそれは。私の名はレイヤです。わすれたんですか?」
「あの、レイヤさん、審判ってどうやるんですか?」
すると、レイヤという鬼の堅い顔が崩れ、目は円くなった。
「わすれたんですか!?はぁあ…………、いいですか、まず手に力を込めて…………………ッ!」
そう言うとレイヤは手を魂の一つに向け、力んだ後、その手を上へゆっくりと上げた。
うっうわぁああ!
その魂が上へと浮かび上がったのだ。魂本人は勿論、周りの魂まで仰天している。
「そして持ち上げたまま、閻魔眼で魂の中の閻魔帳を見てください。」
レイヤはこっちを見ている。
いやいやいやいやいやいや…………………!!!!!
無理ですから!!!!!閻魔眼って何なんですか!!
だがレイヤはこちらを見詰めているどころか何故かにこやかになっている。その笑顔には
さっさとしてくださいよ、さっさとね!
という彼の圧が感じられた。
もぉぉぉぉぉ!!!!!やればいいんでしょ、やれば!!
僕はとうとう魂の方を見やり、眼に力を込めた。
閻魔眼!!!!