氷
イトが倉庫から店内に駆け出した直後、ドライアイスにお湯をかけたような冷ややかな煙が地面を埋め尽くした。次第に自分の足元さえ見えなくなり一つ歩いた先に本当に地面があるのかどうかさえ分からなくなりそうな異様な空間が出来上がった。
もしやイトに何かあったのではないかと思い店内に潜入し、イトの姿を探そうとしたが
「シンニュウシャ ハッケン ハイジョ シマス」
壁が瓦解する轟音とともに現れた大きな鉄の塊が侵入者を目掛けて突進してきた。
ひき殺される。逃げなければ。しかし意志に反して僕の足は予想すらしていなかった事態に動けずにいた。ロボットと僕の体が衝突する直前、地面を這っていた冷気が急に起き上がり鉄の塊と僕の間に割って入ると同時に気体から固体へと姿を変えた。
「…!?ショウガイブツ ヲ カクニン カイh…」
ロボットは突然現れた氷の壁を避けようとしたがかわせる訳もなく、そのまま二度目の轟音を鳴り響かせながら沈黙した。
僕が腰を抜かしたまま呆けていると
「安全になるまで倉庫にいてって言ったのに…。」
背後から不機嫌そうなイトの声が聞こえた。