Ep.6 目的の一致
そうして半ば強引に、小さな仲間が加わった。
朔也と翔が戻ってくるまでの間、少年と大扉の前の段差に腰かけて話をした。
とりあえず要点だけをまとめるとこうだ。
この異世界[スター・ラビリンス]は、時間の流れも文化も暮らす種族も違う人々が、それぞれのあの空飛ぶ島に暮らしている。
そして、時間の流れが同じで文化も近いいくつかの島で国が成り立っており、ほとんどの島民は他の国の島に行くことはなく生涯を終えるそうだ。
生活は自分達のエリアだけで十分に成り立つし、国境を超えて他島に渡ろうと思うと政府により多額の運賃を要求されるかららしい。
だから、一般市民は他島の事はほとんど知らないのだとか。
そして、この遺跡が狙われていた理由。
それはやっぱり、俺達をこの世界に引き込んだあの大扉だった。
「あの扉は、いついかなる時代、世界にも通ずる、ライトエルフ達が代々護り続けてきた大事なものなんだ。」
「なるほど…。でも、今は開かないんだろ?」
「まぁな。もうここ100年以上ずっと使われてない。第一、もう開き方を知る者が居ないんだ。」
「ー…そうなのか。」
その言葉に少々落胆する。
結局のところ、帰り方の手がかりは無さそうだ。
「でも、島間の移動費で稼いでるバカ政府からしてみりゃ、危険な芽は摘んどきたいんだろ。それにあいつ等、最近亜人種や魔族を虐げ出したんだ!」
なるほど…、だから昨日、俺達に敵意むき出しだったんだな。
「ー…それなのに、俺達のこと心配してくれたんだな…。ありがとう。」
「ーっ!!にっ、人間に感謝される筋合いはねえ!」
思った事を言っただけなんだが、顔を真っ赤にして柱の陰に逃げられてしまった。
「ま、まぁ、人間にだって色んな奴が居ることはわかってるさ。俺は大人だからな!」
そんな事を言いながら胸を張る姿につい笑ってしまう。
と、話が一段落ついた所へ、翔が朔也に引っ張られるようにして戻ってきた。
「おぉ、おかえり。」
「ー…うん。」
バツが悪いのか、ちらっと一瞬人の顔を見てすぐ視線をそらす。
まぁ、あんな立ち去り方したら無理ないけど。
態度で反省してるのはわかるのでそれ以上は追求はしない。
「さあ、俺が聞かれたことは話したんだ。」
少年が『今度はお前らの番だぞ!』と言い、朔也と翔がきょとんと俺の顔を見る。
「あー…、そうだよな。翔、朔也も、先に謝っとくわ。ごめん!」
「「ー…は?」」
『訳は後で話すから!』なんて2人に言い訳をしてから、少年に向き直り口を開く。
俺達がこの世界の人間では無いこと、理由も何もわからないままここにあの大扉を通じて飛ばされて来た事、全て洗いざらい話した。
その話を聞いた少年だけじゃなく、翔と朔也も唖然としている。
まさか、俺が話すとは思わなかったんだろうな。
そしてしばらく間をあけてから、少年が『マジかよ…』と呟く。
「だっ、だって、この数百年俺だってなんどもあれを開けようとしたんだぞ!どんなに力のある魔物に押させても、ありったけの魔力をぶつけてもビクともしなかったあの大扉の、‘向こう側’から来たって…!?」
「きっとお前からしてみれば信じられない話なんだろうが、本当の事だ。」
見かねたのか、朔也がすっと付け加えてくれた。
少年は俺達の顔を順に見上げてから、ヨロヨロと扉に近づき、寄りかかった。
「そっか…。じゃあ、やっぱこの扉の伝承は本当だったんだ…!」
「なんだよ、自分の種族の大事な伝承なのに疑ってたのか?」
「翔、そんな言い方はよせ。またケンカになるぞ?」
流石に学習したのか、今回は口答えはせず『はーい』と引き下がる。
全くこいつは…。
でも、結局翔の言葉は少年には聞こえなかったらしく、未だ扉をずっと見上げている。
「後は、開き方さえわかれば…!」
「ー…え?」
不意に聞こえた呟きに反応すると、ようやくハッとしてこちらに向き直った。
「なっ、何でもない!それより、要はお前らは元の世界に帰りたいんだな?」
「あぁ、もちろんだ。きっと皆心配してるだろうし、会いたい人も居るしね。」
「ー…ノロケか。」
「ちっ、違うって!」
朔也の茶々にあからさまに反応してしまい、翔にまでからかわれる。
「だっ、だから、別に百合だけじゃなくてさ…。」
「誰も百合先輩だなんて言ってないけど。」
「墓穴だな(笑)帰ったら言っちゃおっかなー。」
「だから違うんだってっ!」
ったく、油断も隙もない…。
反論もままならない状況にアタフタしていると、後ろから頭に何かが当たった。
「痛っ!何だ…?」
「ケンカなら後にしろ。全く、子供だなぁお前らは。」
見る限り明らかな子供にそう言われてしまうと、なんだか普通に言われるよりダメージが大きい。
何も言えずに押し黙ると、少年はビシッとこちらを指差してこう言った。
「お前らもこの扉の開き方が知りたいんだろ?だったら、協力してその方法を探せばいい!」
~Ep.6 目的の一致~
そうして半ば強引に、小さな仲間が加わった。