表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
例えばそんな異世界事情   作者: 弥生真由
序章
6/151

Ep.4 第一の島

まずこの場所を知ること、それが今の俺達の第一歩。

「ふぁぁ~、よく寝たー…。おはよー…。」

「あぁ、おはよう。」

一夜明けて…、時計がないからどれくらい経ったかはイマイチわからないが、ようやく空が明るくなり始めた頃、翔が伸びをしながら起き上がった。

「あれ…?あぁ、そっか。やっぱ夢じゃ無いんだな。」

その言葉に何とも言えず、苦笑を浮かべつつ焚き火に木を追加する。

『寝て起きたら全て元通りでした』なんて都合のいい展開、現実には起こり得ないだろう。

「まぁ、とりあえず朔也が起きたら情報集めに行こう。」


寝起きの悪い(なんでも低血圧なんだとか)朔也は自分で起きるまで放置することにして、2人で辺りを少し見回した。

昨日は暗闇でよくわからなかったが、この島はそんなに広くはない。

そう、丁度俺達の元居た学院の敷地と同じくらいの面積のように感じる。調べるのにそんなに時間はかからなそうだ。

そんな事を考えていると、ぐーっとなんとも間の抜けた音が聞こえて振り返る。

「あー、腹減ったなぁ…。」

その言葉に、昨日の昼から何も食べてないことを思い出す。

それにしても、これだけの異常事態の中こんな風に普通にしてられる辺り、翔には妙な大物感があるな…。

「―…まぁ、情報と一緒に食べ物も出来る限り集めるから。」

とりあえず今は、苦し紛れにそう答えるしかなかった。

翔もそれ以上は何も言わず、持っていた飴玉を一粒口に放り込んだ。

俺も1つ貰い、口の中で転がす。

もちろん腹には到底溜まらないが、甘さが疲れた体と心を少しだけ癒してくれるような気がした。












それから少しして、朔也も目を覚ましたため焚き火と寝床を片してから散策に出る事に。

3人で固まって、とりあえず島の輪郭をなぞるようになっている道を歩く。

すぐ外側には雲が漂い、鮮やかな青空がまるで海のように広がっている。

「これさぁ…、普通に落ちたら死ぬよね。」

「こ、怖いこと言うなよ…。でも、確かに柵も何も無いのは変だな。」

「うん、だって子供とか居たら絶対事故起きるよこれ。」

今俺達が歩いている道から1メートルもずれればまっ逆さまだ。

少し頭を動かして下を覗いて見るが、遥か下の方が霞んでいるだけで何があるのかすら全くわからない。と、その時…

「えっ!?うわぁぁぁっ!」

「おいっ、馬鹿落ちるだろ!!」

不意にかなりの突風に煽られ、翔と朔也が島の外へとバランスを崩す。

慌てて2人の腕を掴むが、勢いと重さで引っ張られ結局3人で倒れ込む。

が、落ちることなくクッションのような感触に包まれ、島の内側に弾き返された。

「「「し、死ぬかと思った…。」」」

流石に恐怖が襲ってきて、少し笑っている足を震い立たせる。

改めて何もないはずの島の縁に手を出してみる。

「これは…、なんだか見えない壁があるみたいだ。」

指でぐっと押してみると、押したのと同じくらいの力で押し返される。

「結界みたいな感じ?」

「そうなのかもな。まぁ、何にせよ助かった。」

「そうだな。それにしても翔、お前少しは気をつけろよな。」

朔也に睨まれて、翔が力なく項垂れる。

「まぁまぁ、ケンカするなって。助かったんだしいいじゃないか。」

2人をなだめながら歩き続けていると、不意に背中に視線を感じた。

「ん?」

ふと振り返ってみるが、特に誰も見当たらない。

気のせいか…。

「なぁ、あれ何かのゲートみたいじゃね?」

翔にそう言われ指差す先を見ると、確かに何かの門に人が集まっているのが見える。少し近くに行くと、ザワザワと不満げな囁きが聞こえてきた。

「今日も馬車出ないのかよ!」

「これじゃあ野菜がいつまで経っても売りに行けないわ…。」

「せめて理由くらい聞かせろ!!」

そんなざわめきを、西洋の正装のような姿の男達が制しているのが見える。

「あの…、すみません。」

「あぁ!?なんだよ!」

一番後ろ側に立っていた男性に声をかける。

皆ずいぶんイラ立っているらしく、敵意むき出しに振り返られる。

「何だ兄ちゃん、あんた等も馬車使いたいのか?」

「え?あ、はい…。」

「見ない顔ね…、まさか余所の島の人?」

最初に声をかけた男性の近くに居た女性と男性がこちらに気づいて対応してくれた。

「馬鹿言え、馬車もゲートも使えないのにどうやって余所から来るんだ。」

「それもそうね…。ごめんなさい、私ったら。」

穏やかな2人の雰囲気になだめられてか、イラ立っていた男性も口を開いてくれた。

「まぁ、他の天島に行きたいならあんた達も諦めた方がいい。」

「どうしてですか?」

「この1ヶ月、理由も無しに島間を結ぶ馬車も移動用ゲートも使用禁止になったんだ。」

「そうなの。そのせいで元々食材生産の島だったここは大打撃なのよ。」

「あー…、出荷が出来ないもんな。」

「そうなんだよ。いくら良い食材が出来たって買い手が無いんじゃなぁ…。」

男性の言葉に、周りの人々も同意して頷く。

「他に方法は無いんですか?」

「あぁ…、あるにはあるが…。…ってか、兄ちゃん達何も知らないのな。」

「あっ、あぁ、ちょっと訳あって林の奥で暮らしていたものですから…。」

「そうなのか…。その格好から魔導師か何かだと思ったんだけどなぁ。」

男性のその言葉に、妙な感じを覚える。

昨日会った自称エルフの少年もそんな事を言っていた。

この島の人々にはこの制服姿がどうにも高貴な身分に見えるらしい。

「まぁいいや。で、他の方法だが、一応有るにはあるぞ。」

「本当ですか!?」

「あぁ。このゲートは公共馬車の物なんだが、ここと丁度真逆の位置に民間の馬車のゲートがあるぞ。」

「そうですか、ありがとうございます!よし、行こうぜ!!」

その男性の言葉で走り出した翔を、朔也追いかけて走っていく。

「あいつ等はまたっ…!あ、お話ありがとうございました。失礼します!!」

話を聞かせてくれた人達に一礼して、あっという間に遠くなっていく2人を追いかける。

その為、『あれはぼったくりだから関わらない方がいいぞー!』と言う男性の忠告を、この時は聞き逃してしまったのだった。

「おっ、あったぞ!」「ほら、1人で先行くなって。」

結局3人で島の反対側まで走ると、確かに先ほどより少し小さめのゲートが目に入った。

「あの、すみませーん!」

こちらのゲートにはさっきと違って、ラフなコートを羽織った男性1人しか居なかった。

その男性に駆け寄り、翔が声をかける。

「おぉ兄ちゃん、馬車に乗りたいのか?」

「はい!ちなみに、どこまでなら行けますか?」

「おー、とりあえず向こうに見えてる首島[カーバンクル]までだな。乗りたいならすぐにでも出してやるぞ。」

恰幅の良い男性がニカッと笑う。

翔が『乗せてもらおう!』と言うが、朔也と俺は少し躊躇った。

まず、今俺達は一銭も持っていない。

乗せてもらったってお金が払えないんじゃ料金を踏み倒す事になってしまう。

それに、この島のことだってよくわからないのに移動するのも危険な気がした。

「あの…、ちなみに運賃の方はどれくらいになりますか?」

とりあえずそう尋ねると、『そんなのいいからいいから!』と誤魔化されてしまった。

「さぁ、乗った乗った!!」

「そうだよ、行こうぜ!」

「えっ、ちょっと、待てって!」

「―…やれやれ。」

男性に腕を引かれ、翔は俺の背中を押す。

半ば強引に馬車に乗せられそうになったその時、朔也が後ろを見てからすっと横に避けた。

と同時に、草むらから小さな影が飛び出す。

「ファイヤーボール!!」

「アチチチチチッ!!!」

横に避けた朔也に腕を引かれ、俺と翔は炎に当たらずに済んだ。

男性は小さな火の玉に焼かれ、悶えながらコートについた火を必死に叩き消している。

「このアホ人間!!こっち来い!!!」

「あっ、昨日のくそガキ!!」

「ガキって言うな馬鹿!」

『いいから来るんだ!!』と叫んで、少年に引っ張られる。

まだ火傷に悶えている男性を気にする間もなく、結局林の奥へと逆戻りすることになるのだった。











「お前ら馬鹿だろ!!本っっっ気で馬鹿だろ!!!」

「何だと!?もっかい言ってみろこのガキ!」

「だからガキじゃないっ!!」

少年に連れられるままにたどり着いたのは、昨日の遺跡だった。

それにしても…

「なぁ、もしかしてずっと俺達のことつけてたのか?」

「ーっ!!!」

そう聞いてみると少年の顔がみるみる赤くなった。

どうやら図星らしい。

なるほど、さっきの視線はこの子だったんだな…。

「で?なんで邪魔しに来たんだよ。嫌がらせか?」

大人げなく翔が少年を睨み付けるが、向こうも負けていない


「助けてやったのにその言い草はなんだ!!」

「助けた?恩着せがましい…、邪魔しただけじゃねーか!」

『嘘をつくな』、『嘘じゃない』と言い合う2人の間に割って入り、少年に目線を合わせる。

「失礼な態度とってごめんな。それで、『助けた』ってどういうことか説明してくれるか?」

すると、『俺はそのアホじゃなくお前に話してやるんだからな』と前置きしてから説明してくれた。

あの馬車は、公共馬車が動かなくなってから急に始まった、無免許の違法馬車なのだと言う。

この世界で馬車等の島間の移動する物を扱う人は、各エリアの首島(元居た世界で言う首都にあたるらしい)で試験を受けて免許を取る必要がある。

だが、あの無免許馬車はその試験を受けず、また使用している馬車も(ペガサス)も規定の物じゃないので事故なども多く、また乗ってしまった後で違法な金額を要求されるのだとか。

「しかも、払えないやつは詐欺やらなんやら色々違法なことやらされて払い終わるまで逃げられねーんだ!どれだけ危ないことしたかわかったか間抜け!!」

その話で、ようやく納得したらしく翔も流石に大人しくなった。

「なるほど、危ないところだったんだ…。ありがとうな。」

頭を撫でようとすると、手は払いのけられてしまった。

「ガキじゃないって言ってるだろ。」

「あぁ、そうだな。ごめんごめん。」

「―…俺も、ごめん。悪かったな、ガキとか言って。」

「…まあ、許してやるよ。俺は大人だからな!」

2人が和解をした姿を見て、ほっと一息をつく。

「まぁ、とにかく、移動は当分無理だって事だな。」

「そうだな…。ま、でも多少は情報も得られたんだ。少し整理をした方が、よさそうだ。」

手帳を取り出し、先ほどゲートに居た人々から聞いたことと、少年が話してくれた内容を手帳に書き出してまとめていく。

と、遺跡の外でバタバタと結構な人数の足音が聞こえてきた。

「何だ…?」

足音の大きさと気配から、周りを囲まれているであろう事がわかる。

「おい、お前の仲間か?」

翔がそう聞くが、なんだか様子がおかしい。

酷く震えている。

何かに怯えているようだ。

「大丈夫か…?おい、しっかりしろ!」

少年は震えながら、肩を掴んだ俺の手を握りしめた。

「あいつ等は…、俺を捕まえに来たんだ…。」



~Ep.4 第一の島~

まずこの場所を知ること、それが今の俺達の第一歩。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ