あなたの国のうたは
月明かりの下で、二つの影が一つになった。
風は優しく吹き、星は静かに瞬いている。
胸を締め付けるあの忌々しい曲は、もう耳に届かない。
何故なら、本当の曲を歌える人が彼女の耳元で小さく笑い声を立てている。
この人は笑っている。
きっと、本当の曲を知っているから。
そうだわ。
気にする事なんてないのだわ。
あれは偽物なのだから。
わたくしは、あの曲で踊ったのではない。
だったら、わたくしも笑い飛ばしてしまえるわ。
ああ、それにしても、この人はなんて強いのかしら。
あなたの国のうたは、あなたのものね。
【蜥蜴の果実】
:『素直なきもち』から抜粋(一部脚色)
滅ぼさせた国の国歌を、他国で勝手にアレンジされ使われていた事に憤るヒロイン。
反面、当の亡国の少年は少しも気にしていない。
ヒロインは、少年の強さに憤りを吹き飛ばす。
もう一遍
*
あの夜この曲で踊ったね
壊れた音楽器が飛び飛びに
あなたの国の音楽を奏でた
鳴らない節はあなたが鼻歌で教えてくれたね
廃墟の酒場で月の光と小さなランプ一つ
それだけで私たちふたりには十分だった
それ以上明るかったなら
伝えてはいけない気持ちがあなたに見えたかしら?
今 滑らかに音楽家達がたくさんの楽器であの曲を奏でているよ
こんな曲だったんだね
そう思いながらひとりで聞いている
踊りましょうとたくさんのひとたちが手を差し伸べるよ
連れて行こうとするの
豪華なダンスフロアとたくさんの燭台の中へ
わたしの知っているあなたの国の音楽は
あの夜あの廃墟の酒場で
月の光と小さなランプ一つ
壊れた音楽器が飛び飛びに奏でて
あなたがわたしを抱いて 優しく歌っていた
あの人たちはそれを知らないまま
こんな風に
あなたの国の曲まで奪っていくよ