第6話
交渉事とか、頭使うの苦手です・・・orz
ぢつは戦闘描写も苦手だったり(致命傷)
翌日――。
アキバの南側、森林ゾーンに日の光が差し込んでいる。
低レベルゾーンであり普段であれば長閑な場所であるが、今は似つかわしくない剣戟と魔法の音が響く。
陽輔が双剣を相手の盾に叩きつける。その隙にカイトがステップ特技を使い、敵の壁役の後ろに回り込む。
駆け抜け様に脇腹を斬りつけ、ダメージを負わせた。
「ッ…!しまっ…」
守護戦士の男はアンカーハウルを掛けようとするが対処に遅れ、一瞬の隙が出来た。
目の前に女武士が飛び込み、すかざず百舌の早贄で喉を潰し大見得を切る。
「あんたたちの相手はこっちだよ!」
「ぐっ、くぁっ…!」
ガックリの目立つ行動が敵全員の視線を一手に集めた。
刀と盾がぶつかり合い、金切声を上げる。
その間に陽輔とカイトが敵チームの中心に飛び込む。
「PKしようってんだから返り討ちに遭う可能性も考えてんだろうな!」
後方で待機していたゲオルグが珍しく叫んだ。腕を組んで仁王立ちで、相手チームを睨んでいる。
ジョージや比呂と共に、PKに襲われていた初心者プレイヤーを囲んでいるようだ。
そうこうしている内に、二人の攻撃手が施療神官と妖術師、暗殺者の男たちを翻弄していく。
ステルスブレイド、レイザーエッジ、アーリースラスト、デッドリーポイズン…次々と技を繰り出し、敵をすり潰す。
相手側も技を繰り出すが、人数の差やガックリの挑発特技など、戦術に翻弄されてHPを削られていく。
「うわっ!」
カイトが相手の施療神官を足払いで倒した。
「これで終わりだ」
冷たい声で呟き、<魔法の鞄>からアイテムを取り出す。
魔法級素材<女郎蜘蛛の糸>を紡いで作った<魔女の捕縛縄>だ。
これで縛られると、現実で5分、セルデシア内の時間で1時間程度、動く事も特技の使用も出来なくなる。
ただし、モンスターはパーティランクまでは無条件で発動するが、レイドランクおよびPvPの場合、相手のHPが赤色、つまり20%以下になっていないと捕縛に成功しない。
「な、何だこれはっ!?」
カイトが倒れた敵の上に縄を落とすと、縄が自動的に動き男をぐるぐる巻きに縛り上げた。
捕縛判定は成功したようだ。
「ぐあっ」
「くそっ!」
その声にカイトと守護戦士の男が振り返る。
妖術師と暗殺者の男たちが捕縛されていた。陽輔も成功したらしい。
「畜生!てめーら何なんだ!」
「何ってさっき言ったろ?PKの見回りだよ」
ウィリーが至極面倒そうに言い放つ。右手を初心者の肩に置きながら、少し離れた守護戦士に対してゲオルグの肩越しに睨みつける。
その視線の先でガックリと陽輔が入れ替わった。
男は盾を振り回して陽輔の連撃を防御しようとするが、盗剣士の素早い動きに翻弄され、対処がままならないようだ。
そもそも中級レベルの装備で戦術も練度も陽輔たちより劣るため、ダメージも蓄積しやすいのだ。
「なっ…!?」
そうこうしている内に足元のバランスを崩し、陽輔に体重を掛けられ、仰向けで地面に倒されてしまった。
ザクザクッと首の辺りで音がする。見上げると、双剣を地面に突き立て交差させて男の首を固定した陽輔が、男の目を覗き込んで立っていた。
HPも赤いしこうなってしまえばそれ以上の抵抗も虚しいだろう。守護戦士の男は戦意を喪失し、盾と剣を離す。
ガラン、カラン、と2種類の音がして、両手の装備が力なく地面に落ちた。
「俺たちを縛ってどうする気だよ…」
「聞きたい事が有るんだけど」
陽輔は双剣を逆手に握ったまま無表情に見下ろす。
「何だよ…」
「何でPKなんかやって腐ってるんだ…?」
「何でって…他にやる事がねえからだよ…」
男がポツリと呟く。
全てを諦めた。そういう心が透けて見える。
レベル上げをしようにも、良い狩場は大手ギルドに押さえられ弾かれた。
ただ、低レベルモンスターでも数匹狩れば日々の生活には困らない。
更に周りの冒険者たちがPKをやり始めた事で自分たちもするようになったという。
「はぁ…」
陽輔は溜息と共に苛立ちを吐き捨てる。
男を見下ろす顔は無表情だ。心なしか目に虚無感が纏わりついている。
「くだらないな。そんな理由なんて」
「何…?」
「やれる事なら…有るよ」
守護戦士の目の光が揺らぐ。
不信、期待、驚愕、様々な感情が湧き出し、男の心を玉虫色に染める。
「んだと…?」
「他の街に行くとか<妖精の輪>の調査とか…周辺ゾーンの調査とかも有るだろ」
「ッ…!」
「まぁ拠点移せば良い狩場とかも有るだろうしな」
カイトが、後衛の二人を引きずりながら陽輔の言葉を引き取る。
「それは…」
地面に縫い付けられた男の視線が泳ぐ。
一度は考えた事だ。だが人間というのは楽な方へ流される生き物だ。
そして彼らはその典型的な部類に属している、至って普通の人間なのであろう。
「シブヤに移る手も有る。覚悟決めれば、ミナミやススキノまで旅も出来るだろ」
「それに、ヨコハマやスワ、サフィールとか、大神殿が無くても比較的大きな町は有るしな」
「…」
陽輔とカイトの言葉に、男たちは沈黙する。
「じゃあ…てめーらは…どうなんだよ…」
守護戦士は苦し紛れに、ぶっきらぼうな態度で言葉を絞り出した。
「勿論いずれはやるさ。でもまだアキバは不安定だから…見逃せないんだよ」
淡々とした口調とは裏腹に、陽輔の目に何処となく寂しさが宿る。
「見逃せねえって…なんか、方法でもあんのか…?」
「さぁね、まだいい方法は見つからないよ。けど…」
エルフの青年は男の疑問を一蹴する。
「…少なくとも、あんたらみたいにずっと腐ってるのはゴメンだね」
陽輔はそう言い捨てると双子の化身を地面から引き抜いた。
魔女の縄を取り出し、守護戦士の男を拘束する。
「立ち止って燻って、いざって時に動けなかったらきっと後悔する。もしそれがクエストの形なら尚更だ。だから…PKなんかやって腐ってる場合じゃ無いんだよ」
陽輔はそう言ってゲオルグたちの方を向く。その視線の先に初心者を捉えた。
「僕は凡人だから方法は思い付かないけど…いつかそれを出来る人が現れたら手伝いたいんだ」
「手伝う…だと?」
施療神官が陽輔を見上げ、呟くように尋ねる。
陽輔は向き直り、訥々と言葉を紡ぐ。
「あぁ、色々ね。例えば街の事とか元の世界への帰還方法とか。今は情報も何もないしアキバ周辺に留まってるから、この世界の事はほぼ何も知らないのと一緒だ」
「何も?ここはセルデシアだろ?エルダーテイルだろ?」
暗殺者の男が、地面に転がされたままで縋るように確認を求める。
その顔には不安、嘲り、驚きなどが綯い交ぜになり、表情を歪ませている。
「あのさあ、拡張パック適用されてんだぜ?何処がどう変わってるか分かんねえじゃん」
カイトが呆れたように溜息を吐く。
「それにレベルが高いからって威張り散らしたってさ、全然カッコ良くないよ」
傍に立ったガックリが腕組みをして見下ろす。
そもそも”初心者”というのはレベルの話だ。ただの数値であり、無論身体能力を左右するが、人生経験までをも縛るモノでは無い。
中にはサブアカウントでログインしたプレイヤーも居るだろう。
それにレベルが低いのが悪いと言うならば、大災害直前に始めた本当の初心者たちは悪いのか。
「お、おい!俺たちを…どうする、つもりだ…!?」
「さてね~…どうする陽輔?」
ガックリが陽輔の肩に手を置く。
「…ジョージさん、連絡着きました?」
陽輔は、振り返ってジョージに問う。
「ああ。取り引きすれば見逃してもいいって」
「と、取り引き…?」
ジョージの言葉に、男たちは目をぱちくりさせる。
「自分たちの半分以下のレベルの冒険者に対してPKを仕掛けねえって事。そうすりゃこっちだって目くじら立てたりしねえよ」
「後は街で威張り散らさないとか、オプションで情報交換とか戦闘訓練を一緒に、とか?まぁこれはそっちのリターンになるかもね」
ゲオルグとウィリーが後を引き取る。
「悪い話ではないと思いますけど?」
比呂も畳み掛けた。
男たちの顔が豆鉄砲を食らった鳩のようにぽかーんと呆ける。
「な、何で、そんな…」
「だってさぁ、冒険者って死んでも復活するじゃん?復活した後、あんたらがまたPKやりだしたら意味無いだろ?」
カイトはそう言いながら男たちの傍に胡坐を掻いて座った。
死が意味を成さないこの世界では、彼らが改心しない限りPKの連鎖は終わらない。
執拗に追い掛けて逆PKやPK返しを仕掛けても良いが、何と無く後味が悪い。
そのまま殺してしまえば、効率は良いだろうがPKが減るとは限らないし、街の雰囲気も悪くなる可能性が有る。
そこで時間は多少掛かるかも知れないが、説得を試みる事にしたのだ。
無論それでもダメなら神殿送りにするのも止むを得ないだろう。
提案した陽輔自身、甘っちょろい考えである事は自覚している。だがやはり、同じ穴の狢にはなりたくない。
「…ま、そんな感じ。つっても<ホネスティ>全体じゃねえけどな。俺たちの独自ルールってヤツ?」
「<西風>や<黒剣>とかだったら、問答無用で神殿送りだろうね」
頬杖を突くカイトと傍に立つジョージが説明を続けた。
「も、もし、協力を断ったら…どうするんだ?」
「最低限PKを止めてくれればそれでいいよ。ただし、2度目以降はこんな説得はしない。見つけ次第対処する」
「逃げ道を塞いでな」
陽輔の言にゲオルグが付け加える。
「…分かったよ…もうPKはしねえよ…そん代わり、頼みがあんだけど…」
「何ですか?」
守護戦士の男が陽輔を見上げる。二人の視線がかち合った。
「さっきの”オプション”ってヤツ…まだ有効か…?」
「少なくともうちの部隊では有効ですよ。まぁ他の部隊との共同訓練とかは、本部に聞いてみないと分かりませんけど」
陽輔の話を聞いた男たちは目線を交わし、頷き合う。
「じゃあ…取り引き、頼む」
陽輔は返事の代わりに4人の縄を切り裂いた。
「あ、あの、有り難う御座います!」
成り行きを見守っていた初心者の少女がペコリと頭を下げた。
装備からすると魔法職だろうか。ローブのフード部分が頭に覆い被さった
「あぁ、別にいいですよ。僕たちが勝手にやった事ですから」
ジョージが笑って応える。
「街まで送りますよ。またPKに遭っても大変だろうし」
「あ、あの…」
「ん?何ですか?」
躊躇いがちに言いよどむ少女に対し、ジョージが続きを促す。
「も、もしご迷惑で無ければ…<ホネスティ>に、入れて貰えませんか?」
「えっ?」
そう言えば、2次の皆さんが登場してないの1話以来かなぁw