第3話
今回借りた二次キャラ
会話:朝霧
シブヤの話題:片翼の天使ギルファー
回想シーン:西武蔵坊レオ丸
「朝香先輩、お久しぶりですね。あ、こっちじゃ朝霧か」
『あぁ、久しぶりだな…現実ではたまに会っていたが、こっちではいつ以来になるかな』
「あたしが<三月兎>作った時に挨拶して以来ですから…もうすぐ一年ですね」
『もうそんなになるか』
<大災害>から四日目の朝、三月兎は庭で農作業の手を休め、念話に応答していた。
相手は大学時代の先輩だった。とは言っても、直接の後輩は姉であり、その縁で姉妹ぐるみの付き合いは有った。
「どうしたんですか?あたしの所に念話よこすなんて」
『本当はもっと早く連絡しようと思っていたんだが、現状把握に手間取ってしまってな』
「別に構いませんよ、あたしは。<放蕩者の記録>と<共鳴の絆>の方が大事でしょう」
クスクスと笑いながら、あっけらかんと言い放つ。
「参加しなかったのはあたしですから」
『…それも、そうだな』
参加しなかった事に、特に然したる理由が有った訳では無い。
早苗に取って、朝霧と言うプレイヤーは、現実でも憧れだったのは事実だ。そもそも、彼女がエルダーテイルを始めた切っ掛けが、この人がやっていたという理由からだ。
だが、目標でも憧れでも、やはり自分とは違うのだ。そもそもあそこまでの人数を率いる手腕やカリスマ性は無いし、メンバーに入るのは、何かが違う。
「で、今回はどうしたんです?わざわざ安否確認だけに念話して来た訳じゃ無いですよね」
『うむ、幾つか有るのだが…そうだな……先ずは、そちらで作った野菜を分けてほしい。勿論、タダとは言わない。マーケット価格でも良いから、優先的に貰いたいんだ』
「はぁ…まぁ、先輩とあたしの仲ですから、少しくらい安くしても構いませんけど…庭でやってるんであまり多くは渡せませんよ」
『済まないな。余った分だけで構わないよ。こちらでも作るが、やはり食事の種類は欲しい』
「そういう事ならこちらも少し貰っていいですか?ってこれじゃあ物々交換ですね」
『ふっ…そうだな。まぁ、何を交換するかはおいおい決めて行こうか』
二人でクスリと笑う。
「分かりました。で、二つ目は?」
『シブヤの動向…詳しい情報が聞きたい。少しは聞いているが、やはり関係者の生の情報には触れておきたいからな』
「?…先輩の所には色々情報が入って来てる筈ですよね?あたしの知ってる情報なんて、ホネスティに舞たちの情報が付いてるだけですよ」
『ふむ、その舞ちゃんたちの情報も欲しいんだ。なるべく精度を上げたくてな…初日に陽輔君が新人二人を拾ったと聞いたが』
「そうですね、うちに入ってもらいましたよ。いずれ合流した時に農作業手伝ってほしいんで。まだギルドもサブも決まって無いって言ってましたし」
『そうか、初日に、か。君の姪っ子は、男を見る目は有るようだな』
「そりゃなんたって姉さんの娘ですからね」
そう言って嬉々とした笑みを浮かべる。自分は独身で縁が無いが、姉は結婚している。自分とは雲泥の差が有ると、本人は思っているのだ。
そして、そんな姉を、彼女は誇りに思ってもいる。
「そう言えば、ギル君たちが何やら動いてるみたいですね」
『あぁ、そうらしいな。そちらには何か連絡でも来たのか?』
「う~ん、まだ特段のモーションは無いみたいですけど…一応、重要な話が有る、とは持ちかけられたそうですよ」
『ほう、興味深いな。少し探りを入れてみるか』
「先輩、一体何を考えてるんですか?」
『うん…ちょっと今後の事で気がかりが有ってな…』
少し言い淀んでいる。話して良いものかどうか、と言った雰囲気だ。
「珍しいですね、先輩の方が念話して来たのに躊躇するなんて。話して下さい、聞きますよ」
『…………大地人について…どう思う…?』
少し逡巡した後、声を落として問いかけてきた。三月兎は、その質問の意図を考えた。
『ギルファー氏が何をするのか、大地人に対してどう思っているのか、少し気になったんだ』
「それは…あたしたちが、彼らと、どう接するべきか…という事と同義ですよね?」
『その通りだ。その様子だと、君も気づいてるようだな』
「まぁうちも農夫雇ってますからね、大地人の夫婦。最初は衝撃でしたけど。もう普通の人間ですからね」
『やはりそうか。私たちも彼らと少し話してみたが、最早NPCでは無い。思考が有り、自分で考え、感情も故郷の家族も過去の記憶もちゃんと有る…』
「えぇ、でも、その事に気づく冒険者が果たしてどれくらい居るか…」
『案外、常連たちの方が足元を掬われるかも知れないな』
「認識の転換ですか。そうですね、初心者の方が素直に受け入れられるかも知れませんね。舞たちもそうみたいでしたから」
『今後は、それに関連してPKも増えるかも知れんな』
「なるほど。他にやるべき事も無いし、モンスター少し狩れば最低限の生活は可能…ですか」
『まぁな。私は大丈夫だが、君は…』
「そうですね、レベル低いし、状況が落ち着くまでは、街の外には出ない方がいいかも知れませんね」
『うむ。では、シブヤの情報も頼む』
「まぁ、先輩の情報網と比べれば雲泥の差だとは思いますけど、分かりました」
それから、また連絡を取り合うように約束と挨拶を交わし、念話を切る。晴天を見上げ、ふーっと息を吐く。
朝霧の予測によれば、「状況が落ち着く」という事は有力ギルドが幅を利かせるという事だそうだ。
そうなればPKも減るだろうが…どうにも好きになれない。好きにはなれないが、自分にはそれを打破する方法も力も頭も、ついでに情報も無い。
(まあ、仕方ない、か)
無い物ねだりは止めておこう。今後、それを出来る者が現れたら、協力して志を託せばいい話だ。
その候補者を数人思い浮かべる。
(先輩、クラスティに…レオ丸?…そう言えば、また一緒に酒飲みたいな)
前のアカウントで暴れまわっていた頃、クエストの打ち上げに参加して何度か彼の法師を捕まえた事がある。
下戸とか言っていたが、無理やり飲ませ、潰した事も一度や二度では無い。
周囲は遠慮していたが、彼女だけはずけずけと酒を注ぎ、嫌がる彼に押し付けていたのを、実は彼女自身、半分ぐらい覚えてないし、罪悪感など雀の涙程も感じてないのが性質の悪い所でもある。
実は昔の二つ名はそこから付いている。
――<嗤う悪魔>――
『おらぁ!もっと飲めレオ丸ぅ!!』(#^∀^)σ))Д`)
『ぎゃああああああああ!早苗さんやめ…あばばばばば』(@Д@;)
『あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ…』(。∀゜)(゜∀。)
今ではいい思い出だと思う。あくまで彼女の主観だが。
(いやでもアイツは西に居るしな…まぁ、今度アキバに来たら酒でも奢ってやろうか)
彼は今ミナミに居る筈。街一つ動かせる可能性は有るだろうが、アキバに居なければ意味が無いのだ。
(或いは…)
思考を巡らし、再び候補を挙げる。
(<腹黒>君…か)
シロエと言う名の、眼鏡を掛けた朴訥な青年だ。「腹黒眼鏡」と言うと嫌がる元<茶会>の参謀。悪くない。
――もしその時が来たら――
三月兎は口の端を歪め、街の、そして候補に挙げた者たちの動向を見守る事にした。
◆ ◆ ◆
二日目、シブヤ支部の屋上を戦闘行為可能にし、午前中に特技の確認を行う。本部との情報交換も有り、モーション入力が可能になっていたからだ。
午後、街の外で戦闘訓練開始。モンスターたちも現実化したとの事で、低レベルエリアを中心に訓練を実施。尤も、初心者の親子にすれば同レベル帯であるため、結果的にパワーレベリングも兼ねる事になったが。
現実化した戦闘は最初はグダグダだった。低レベルでも、モンスター達の殺気や臭いなどは経験が無い。更に、死んでも復活するとは言え、やはり死ぬ事には恐怖と抵抗が有る。
全員何とか脱落せずに済んだが、高レベルプレイヤーでも、様になってきたのは夕暮れ時だった。逆に、プレイ歴が短く、先入観のあまり無い者たちの方が順応が早かったのは、皮肉と言うべきか。
三日目、班を二つに分け、屋上で再確認をするパーティと外で実戦を行うパーティに分割。午前と午後で入れ替わりに訓練を実施。
夕方、ジョージに念話が入る。<片翼の天使ギルファー>から、意見が聞きたいとの事だった。
夜、三月兎と念話しながら、親子二人のサブ職を相談する。凜太郎は<見習い徒弟>、文絵は<家政婦>と決定された。
「うううりいいいいいいいいいいいい!!うるぁ!反応起動回復!」
「あざっす!アンカーハウル!てめーらの相手は俺だああああああ!!!」
――キシャアアアアア!――
ヤッホーのサポートを受けたイーサンが、裂昂の気合いをモンスターたちに浴びせる。
トリフィドが三体、ゴブリンが二体、鉄壁の防塞の構えを取った守護戦士に殺到する。
敵のレベルは20~30であるため、レベル50台のイーサンからすればそれほどのダメージは無い上に、障壁等も掛けてあるので、HPの心配は無い。
暗殺者と盗剣士がステップ特技を踏んで後ろに回り込む。
「ワールウィンド!」
「ステルスブレイド」
――グオオオオオオオオオオオオ!――
陽炎のような一撃と旋風のような双刃が舞い踊る。ゴブリン二体とトリフィド一体が仕留められ、泡と消えた。
「フレアアロー!」
「従者召喚:ワイルドボア!ウリちゃん、お願い!」
ルーシーの放った炎の矢がトリフィドの一体を焼きつくし、森呪遣いの召喚した猪が残りの一体に突進し、虚空へと葬った。
「う~ん…どうしようかなぁ」
四日目の午後、森の中で休憩していた陽輔がポツリと呟く。大木に背を預け、片足を投げ出した状態で座り、もう片方の膝に腕を乗せ、空を見上げる。
側には、舞の従者である灰色狼が、何故か寄り添うように寝そべっていた。
「だからよ、戦士職ってのは、皆の盾にならないといけねぇんだ。その代り、背中を仲間に預けなきゃいけねぇ」
「な、なるほど」
イーサンが凜太郎に講釈を垂れている。カイトとウィリーがそれに茶々を入れ、文絵がころころと笑っている。会話に花が咲いているようだ。
陽輔はぼーっと虚空を見つめ、ポチの背を撫でながら、周囲の会話を聞かずに流す。
尤も、仲間たちからは少し離れた場所に居るので、ちゃんと意識を向けないと聞けなかったりする程度の距離はあるのだが。
「わふっ!」
急にポチが立ち上がり、陽輔の頬を舐めた。
「んぁ?どした、ポチ?」
陽輔が目を丸くして振り返る。狼は、じっと彼を一瞥すると、先導するように歩き出した。
「くぅんくぅん」
「ん?ポチどうしたの?」
飼い主の元にすり寄り、陽輔を見遣る。
「ようすけ かんがえごと なやみ」
ナチュラルトークで声を聴いた舞が、陽輔に顔を向けた。
「悩みって…何か有ったの?」
「あぁ、いや…えっと…」
舞が歩み寄り、真っ直ぐに見つめ返す。首を傾げ、心配そうな表情に、陽輔はたじろいだ。
困ったように頭を掻く青年に、十一人の視線が集まる。
「先輩、何すか!言って下さいよ、水臭いっすよ!」
「そうだね、言うだけならタダだよ、陽輔君」
イーサンが前のめりに、ジョージは穏やかに微笑みながら、陽輔に言葉を投げかける。
ゲオルグは口端を吊り上げながら、ウィリーは気だるげに、それでも興味深そうに待機中だ。
「なんかやりてぇ事が有るってツラだな。取り敢えず言ってみろ」
ヤッホーが陽輔の背中を叩き、ニヤリと笑った。吸血鬼の八重歯がキラリと光る。
「げほっ、痛いっすよ…う~ん…ギルドハウスに戻ってからの方が、いいかなぁ」
「何故だい?」
むせながら話す陽輔に、ジョージが訊ねる。
「イザベラさんとメリダさんにも聞いて欲しいんです」
「メイドさんたちにもかい?そいつは増々ほっとけないねぇ」
ウィリーが面倒臭そうに反応を返す。
「…すいません。ギルドハウスに戻ったら話します」
「ふむ…分かった。その代わり、ちゃんと話してくれよ」
「…はい…」
◆ ◆ ◆
「アキバに移ろうかと…」
夕方、支部のロビーで、メイドの姉妹も交えた席で、十三人の視線を浴びながら、陽輔は胸の内を明かした。
「銀行は無いし、<狂宴>のギルドハウスはあっちに有るし…」
「…全員で移ると、ここががら空きになるって事か」
比呂の呟きに、彼は頷く。
「う~ん、捨てるって手も有るけど、そうすっとイザベラちゃんたちも連れて行く事になるのか?存続するとして、別荘みたいにするならそのまま任せるって手も有るけどな…」
ヤッホーも腕を組んで考える。ちらりと大地人姉妹に目を向けた。
「あ、私たちは雇って頂けるならどちらでも構いませんが…」
「これまで、皆さんがいらっしゃらない時には、私たちがそのまま掃除してましたし」
言われてみれば確かに、冒険者が誰もここに居ない時間帯も有ったはずだ。その間も彼女たちは働いていたのだろう。
「それもそうなんですが、もう一つ…」
「何だよ?」
「シブヤががら空きになったら、街の情報が得にくくなるんだ」
陽輔は、カイトの顔を見つめ、頭をポリポリ掻いた。
「そうか…その場合、誰か協力者を作らないとな…信頼出来る相手に…」
「今のこの状態で誰か居るんですかねぇ…?」
ジョージの呟きに、ウィリーが面倒そうに返す。
「一応ギルファーさんからなんか話が来てるけど、外部の人だしなぁ」
「何の話なの?」
「いや、まだ具体的には聞いてないんだ。今度直接会って聞く事になってるけど…だからまだ何も判断できない」
ジョージが隣のルーシーに返答する。
「誰か残るか?」
ゲオルグが言葉を放り投げ、皆の顔を見回す。
「…<狂宴>のメンバーはもちろん、陽輔君はアキバに行くでしょ。ジョージさんは保護者だから付いて行くとして…」
「え~!じゃあ私も行くぅ~」
「あ~はいはい、いい子いい子」
ウィリーの言葉に、ルーシーが反応した。わざとらしいぶりっ子口調でジョージに抱きつくが、流れ作業のように頭を撫でられる。
「まぁこっちとあっちは近いからな」
「グリフォン、ワイバーン、ドラゴン種、ペガサス…空飛べば数十分、馬に乗っても飛ばせば二~三時間ですしね」
ヤッホーと比呂が思い出すように騎乗生物を数える。
「じゃあ俺残るわ」
「そうねぇ…あたしも残ろうかしら。近いんなら往復余裕でしょ?」
ヤッホーとウィリーが手を挙げる。
結局、比呂は残り、ゲオルグは移住すると決めたらしい。
片翼の天使ギルファーには、その夜、ジョージから念話を掛け、今後の事を話すそうである――。
そう言えば、法師には天敵居ないんだろうか…って思ったら早苗さんが酒乱キャラになってしまったorz
お手紙
「西武蔵坊レオ丸様
アキバにお越しの際は是非、<三月兎の狂宴>にお立ち寄りください。
<三月兎>が全力でおもてなしさせて頂きます。」
早苗「来ないとこっちから追いかけるからヨロシク」(地の果てまで)