第18話
「ザントリーフ?」
「あぁ、マリエールさんたちの引率で、合宿に行ったらしいよ」
「へぇ」
カイトは気の抜けた返事を返す。
本部からの情報では、レベル二十台の者たちはラグランダの杜、それ以下の者たちはメイニオン海岸で蟹取りらしい。
海沿いの大地人集落には歓迎されたと言う。
「なんかマリエールさんがゴリ押ししたって」
「駄々こねたんじゃね?」
有り得る。
「…目に浮かぶっす」
イーサンも、苦笑しながら同意した。
天真爛漫な彼女ならやりかねない。
「そういや、領主会議はどうなってるかなあ」
「まだ始まったばかりらしいけど…」
到着しても、暫くは社交パーティが続くらしい。
「貴族ってめんどくせーっすね」
「うん」
「俺無理かも」
三人揃って乾いた笑いを出してしまった。
「そう言えば、マミさんと皿子さん、テンプルサイドの近くに来てるらしいよ」
「そうなのか、とうとうそこまで来たか」
「じゃあ、どっかでばったりとか、有るっすかねぇ」
かもな、とカイトは笑った。
◆ ◆ ◆
「もうすぐテンプルサイドだって」
「吉祥寺やったっけ」
「うん」
凸凹な二人が、街道を歩きながら話している。
マミは関西出身のため、こっちの地理には疎い。
もうすぐと言っても、徒歩だと数日掛かるらしいが、それでもやっとここまで来た。
馬も使っているが、今日はもう時間切れだ。明日まで待つ必要が有る。
狼は普通サイズで無理だし、熊は騎乗に向かない。
のしのしと言った感じで、歩くのと変わらないのだ。戦闘中は、あんなに機敏に動くのに。
自分の指示が悪いのかも知れないが。
そんな訳で、近くにあると言う村に着いたら休もうと決めていた。
「あ、商隊が居るよぉ」
皿子が前方を指差した。
ゴトゴトと音を立てながら、荷馬車が街道を進んでいる。
脇には、冒険者が数人、護衛に付いていた。
「どこ行くんやろか?」
「聞いてみる?」
「せやなぁ、ちょっと聞いてみたい気ぃはするけど…お邪魔にならへんやろか」
マミの呟きを聞いた皿子が、マミの制止を聞かずに走って行った。
「すいませーん!」
「ちょっ、皿子ぉ!?」
マミが慌てて追いかけた。
追い付いた頃には、既に会話をしていた。
「ホネスティか…手伝ってくれるなら有り難いが、報酬どうするんだ?」
「えっとー、三食と、アキバかシブヤまで…あ、マミちゃんは?」
「ウチもそれでええです」
「ふむ…テンプルサイドに寄ってアキバに行くが、それで良いか?」
リーダー格の<暗殺者>の言葉に、二人とも頷く。
相手としても、回復職と魔法攻撃職が加わるのは有り難いとの事で、護衛に加えてもらう事になった。
◆ ◆ ◆
「アキバに送って行こうか」
陽輔が、エリオとニナの処遇について皆に話す。
長期的な話では無く、明日明後日の話だ。
「そうだねぇ」
「まぁ、俺達と一緒に旅するよりは安全だしなぁ」
舞とカイトの言葉に、イーサンや凜太郎たちも肯いた。
「エリオ君、ニナちゃん、私たちのお家に行く?」
舞の問いに、エリオはチラリとニナを見て、肯いた。
「ニナ、新しいおうちに行くぞ」
「…うん」
難しい事は、二人には分からない。
ただ、この冒険者たちが、自分たちの事をちゃんと考えてくれるのは分かっていた。
「空飛んで…どんぐらいだ?」
「多分、一日か二日ぐらいじゃないかな?」
カイトの質問に舞が答える。
ペガサスなどは、一日の使用期限と人数制限が有るため、子供たちはカイトの召喚獣に乗せる事になる。
スピードが落ちるので、多分それぐらいだろう。
「グリフォンとか有ったらな~」
「まあ、伝説になってますからねぇ」
イーサンの羨望に、リリーが肯いた。
自分たちも空を飛ぶ召喚獣を持っていれば、負担を掛ける事も少ないのだが。
そこはそれ、持ってない物は仕方が無い。
イーサンたち低レベル組を、シブヤ組に一旦預ける事になった。
「じゃあ、明日から行って来ます」
「分かった、良いよ」
ジョージは了承した。
「所で陽輔君」
「何ですか?」
「正式な婚約はいつするんだい?」
「えっ!?」
不意打ちだったので、少し固まってしまった。
「まだ学生だけど…数年なんてあっという間だから、ちゃんと考えといた方が良いよ」
「あ、はい…」
実体験だろうか?
陽輔は目をしばたかせた。
◆ ◆ ◆
翌日、カイトの召喚したロック鳥にエリオとニナを乗せる。
二人は最初、おっかなびっくりだったが、カイトが一緒に乗ると慣れたらしく、目を輝かせていた。
陽輔と舞はペガサスに乗った。
低レベル組のメンバーが手を振る中、二体の騎乗生物がゆっくりと上昇し始めた。
高くなるにつれ、二人の目の輝きが増して来た。
そこから先は大はしゃぎだった。
「おにいちゃん!おにいちゃん!」
「すげー!すげー!」
二人ともそれしか叫んでない。
翌日もはしゃぎながらアキバに着いた。
「おう、この子たちか」
「うん」
「はい」
「うす」
三月兎の視線の先には、エリオとニナが居た。
エリオは決然とした表情を浮かべ、ニナは不安げにエリオにしがみついている。
だが、陽輔と舞とカイトは自然体で笑みを浮かべていた。
「んじゃ、部屋決めるか」
「何処が良いっすかねぇ」
「やっぱり二人一緒の方が…」
「あの、宜しいでしょうか?」
大地人夫婦が手を挙げる。
「うちで引き取るのは如何でしょう?」
「えっ?」
「冒険者方の手を煩わせる程では有りませんし、うちの小屋は中が広いですから、子供二人ぐらいは大丈夫ですよ」
ゲーム時代に三月兎が作った居住用の小屋は、ゲームの仕様で外側の見た目より中の空間が広い。
それに、大地人と冒険者では、考え方も身体能力も色々違う。
徐々に慣れて行く方が良いだろう。
「それだ!」
三月兎が即決した。
子供たちは大地人夫婦が引き取る事になった。
「所で陽輔」
「何ですか?」
「うちに泊まるだろ?いつまで泊まるんだ?」
「はぁ、いえ、すみません、ホネスティに戻ります」
「はあああん!?」
三月兎が激昴した。
一泊二日と言うと、更に沸騰した。
「何でだよお、泊まってけよお!」
「いや、本部に一度顔出しておきたいし、部屋も掃除とか…」
「そんなもん、カイト使って二、三日掛けりゃ良いだろうが!」
「あの、俺も部屋の片付けとか」
「てめえは黙れ」
カイトの言葉はピシャリと止められた。
この後、小一時間ぐらい一悶着して、日程を少し妥協した挙句、舞とカイトが三月兎を取り押さえている間に、陽輔が逃げる様に家を出ていった事を付記しておく。
妥協案
・もう一日アキバに滞在する
・二日目は<狂宴>に泊まる
カイト?どうでもいい