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太陽の貴公子  作者: みずっち
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第1話

自転車操業ってどうなんだろう(^^;

都内のアパートの一室、陽輔はPCを操作していた。エルダーテイルの画面に、アキバの街並みが映っている。フレンドリストを操作し、念話を掛けた。


「あ、陽輔君」


聞き慣れた女性の声がスピーカーから聞こえる。


「もう、遅いよぅ」

「ごめん舞ちゃん、やっとログインできたよ」


本当は今日、彼女と出かける予定だったが、急なバイトが入り、今になってしまったのだ。

舞には拝み倒して許してもらった。遊園地一日分。二十歳の大学生には結構な出費だが仕方ない。


「じゃあシブヤ来れる?」

「あ、うん。大神殿前だっけ」

「うん。じゃあ皆と待ってるね」


陽輔は念話を切り、アバターをトランスポートゲートに向かわせた。もうすぐ12番目の拡張パックがアップデートされる。


「一分切ったか」


何とか間に合いそうだ。陽輔はトランスポートゲートに飛び込み、シブヤに転移した。




―――――――暗転――――のち――光―――――――




目が眩み、咄嗟に瞼を閉じる。ゆっくりと目を開けると、視界いっぱいに青空が飛び込んで来た。

背中の感触から察するに、地面に寝そべっているらしい。ついさっきまで部屋に居たはずだ。PCの前に座っていたのだが。

上半身を起こし、状況を確認する。着ている物は、エルダーテイルのアバターのそれだ。直前まで操作していたキャラのモノ。

手は動く。足も動く。左右の腰に差してある二振りの直剣は愛用の幻想級だ。多分、髪は山吹色だろう。


「やれやれ…一体どこのラノベだ」


立ち上がりながら独りごちた。埃を払い、周囲を見回す。見慣れたシブヤの町が眼前に広がっていた。

背後にはさっき飛び込んだゲートが聳え立っている。本格的にゲームの世界に飛ばされたようだ。


「何だ…これ…」

「ちょっと、どうなってるのよ…!」


何人かが声を上げている。巻き込まれたのは自分一人では無いようである。


(う〜ん…他人が騒ぐのを見ると逆に落ち着くって聞いた事有るけど、ホントなんだな…)


頭をポリポリ掻きながら周りを観察する。混乱して喚く者が居る。途方に暮れて瓦礫に座る者も居る。

ふと、歩こうとして躓く者が何人か見えた。


(あ〜…体格差かな…)


恐らく、現実とアバターの間に乖離が有るのだろう。そう考えると、現実と大差無いこの肉体は幸運と言うべきか。


「そういや、ステータスってどうやって見るんだ?」


うんうん唸り、手を動かしたりメニュー画面を声に出してみたりしたが上手く行かない。

数分の思考錯誤の結果、意識を虚空に集中させた途端、ウィンドウが目の前に展開した。


陽輔/男/エルフ/盗剣士Lv90/料理人Lv90

所属ギルド:ホネスティ


「そういうやり方か…ってこれどうやって…」


試しに指でなぞってみると、マウスの様に操作出来た。

ステータスや装備、特技を確認していく。一応変更を受けた所は無い。

経験値は流石に全て覚えている訳ではないが、少なくとも上4桁は記憶と齟齬が無い。死亡回数も大体合っている。


「GMコールとログアウトは無理か」


何度試してもこの二つは拒否される。どうやらこの世界に閉じ込められたらしい。

仕方が無いのでそちらは諦め、フレンドリストを開く。舞の名前を確認し、呼び出した。


「ふぇっ!?あっ、これでいいのかな…も、もしもし…陽輔君?」

「あぁ舞ちゃん、そっちは大丈夫?」

「う、うん大丈夫、皆も無事だよ…でもこれ何なの?」

「良く分かんないな。ログアウトも出来ないみたいだし」

「そう…今どこ?」

「トランスポートゲートの前だよ、舞ちゃんたちは大神殿前?」

「うん」

「じゃあそっちに行くよ、皆と一緒に待ってて」

「うん分かった」


彼は念話を切り、一歩踏み出した。






    ◆    ◆    ◆






「しっかしまぁ…さっきは驚いたよ」

「何がですか?」


ギルドハウスに向かう道すがら、前を歩く召喚術師が陽輔に話しかける。


「舞ちゃんいきなり陽輔君に抱きつくんだからね」

「す、すみません…つい…」

「流石に僕もビックリしました」


陽輔の隣に居る森呪遣いの少女が顔を真っ赤にして俯く。陽輔も微妙な表情で耳の裏をポリポリと掻く。

あの瞬間、現実を忠実に再現した重量感たっぷりの二つの膨らみが先に陽輔にぶつかり、窒息しそうになった。

そのまま抱きついて数十秒離れなかったため、下半身に血が集まったのは秘密だ。


「あっはっはっは、いいね、若いな」

「でもジョージさんだって、シブヤ支部(ギルドハウス)にルーシーさんが居るじゃないですか」

「流石に抱きついたりはしないと思うよ、そんな歳でもないしね。さっき念話で連絡取ったけど、結構落ち着いてたよ」


ジョージと呼ばれた召喚術師は腕を組んで苦笑する。確か30代半ば。ギルドハウスに待機しているはずのルーシーとは現実でも夫婦である。

二人してホネスティの幹部だ。尤も、ホネスティは数百人規模のメンバーが居るため、幹部と言ってもそれほど上の立場では無い。

専ら陽輔を始めとした若手の保護者的なポジションである。


「それに出会ったばっかの初心者プレイヤーを二人も連れて来るなんてよ」

「え?いや、話しかけられたし、親子って言うし、なんか困ってたっぽいし…」


幼馴染の暗殺者がニヤリと茶化すように笑う。陽輔は苦笑しながらポリポリと頭を掻いた。


「そう言えばカイト君は、錯乱して喚いてたよね最初」

「ちょっ、それ言うなって」


舞が思い出したようにクスッと吹き出し、陽輔にちょっかいを出していたカイト(暗殺者)は横槍を食らって慌てている。


「ていうかレベル22と16って本当に始めたばっかりですね」


陽輔は後ろを振り返り、件の親子を見遣る。当の二人は恐縮しきりで、端っこで縮こまっている様子だった。

いや正確に言えば、本当に恐縮しているのは付与術師の母親だ。小学生だという武士の少年は、興味津々で周りをきょろきょろと見回している。

先入観があまり無いのか実感が湧かないのか、楽しんでいる様子である。


「すみません、会ったばかりなのに…それに舞さんたちのギルドにも入れて頂いて」

「構いませんよ文絵さん、叔母は良いって言ってましたから」


舞が労わるように微笑む。文絵はまた頭を下げた。

大神殿前で合流した後、陽輔が連れてきたこの親子は、ホネスティの下部組織に入る事になった。下部組織と言っても、舞とカイトを含めて四人だけの零細ギルドだが。


零細ギルド<三月兎の狂宴(マッド・マーチ)@ホネスティ>


ホームタウンはアキバであり、ギルドハウスも向こうに有る。

ギルドマスターは舞の叔母で、<三月兎(マーチヘア)>と名乗り、現在アキバの家(ギルドハウス)に居る。

舞とカイト、そしてシブヤ支部で待機しているはずの守護戦士(イーサン)はそこのメンバーである。

現在二人には、ギルドタグの欄に<三月兎の狂宴(マッド・マーチ)@ホネスティ>が追加されている。


「僕も早く陽輔さんやカイトさんみたいになりたいなぁ」


凜太郎と名の付いた武士は目を輝かせて二人を見つめる。

武士は戦士職、盗剣士と暗殺者は武器攻撃職だが、どちらも刀剣を使う共通点が有る。


「まぁ、それも含めて一旦ギルドハウスに行ってから相談しようか」


ジョージが大通りに面した建物を指差す。目当てのギルドハウスが見えてきた――。

2話目にして、二次のキャラを借りる予定。

書いたら泣いて土下座しに行こうorz


9/16

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