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「それにしても倉山、何で分かったんだろう」

「多分、ヒイラギの目が刈りますよ、って言いそうな目をしていたからだと思う。オレも一回そう見えたから」


 流石運動部の助っ人を任されるだけの事はあってか、倉山は私達よりもヒイラギに一番近い位置にいる。倉山ほど脚力はない私とサトルは後ろの方でその後を追いかけている格好だ。そして追いかけられているヒイラギは倉山に負けじと必死に鳩を追いかけていた。


「…………」


 ヒイラギが何回目かは分からないけれどまた転んだ。それをしめたと思った倉山はすかさずヒイラギが起き上がる前に捕まえた。ヒイラギは捕まった事にショックを受けたのか、放せと言わんばかりにバタバタと倉山の腕の中で暴れていた。


「ほら大人しくしろ……噛むくらいなら我慢してやるから。お前もほら、いいから遠くへ逃げろ。死にたいのか?」


 暴れるヒイラギを押さえつけ、まるで私達のように茫然としている鳩に逃げるように指示し、鳩がヒイラギに見つからないような場所まで行ったのを確認すると、倉山はやっとヒイラギを放した。


「…………」


 二人の傍まで追い付けば、ヒイラギは折角の遊び相手(?)を失った怒りのあまり、倉山の手を思い切り噛んだ。やられた倉山は悲鳴を押し殺して耐えている。ああ、何か痛そう。血が僅かだけど流れている。


「あーあ、やっちゃった。玲さんに怒られても知らない、っと。玲さん約束破る子には怖いんだよ?」


 嘘だか本当だか分からない。私はあまりお兄ちゃんの本気で怒る姿を見た事がないから。だけどまるで兄である倉山を助けるかのようなサトルの言葉に、ヒイラギはずっと噛んでいた倉山の手を放した。倉山の手は血まみれとはいかずとも、傷が生々しかった。


「…………」

「大丈夫。ちゃんと謝ればお兄ちゃん、許して貰えるよ?」


 ヒイラギがプルプルと震えているのはお兄ちゃんにひどく叱られると思ったからだろう。それは分からないけれど、誰だって素直にちゃんと謝れば許してくれる筈。だから慰めるように頭をなでながら言った。するとヒイラギは安心し、ぎゅーっとまるで抱きついてくるかのように私の懐に飛び込んできた……のも一瞬。何かの気配を感じたのか、すぐに身体をから離れ、辺りを見回したのだ。


「まさか……」


 倉山がサトルから貰った絆創膏を貼り終え、ヒイラギの行動に対してぼそりと言葉を発したのとほぼ同時に、ヒイラギはその横を走って行った。走った先にいたのは何処かのブチ模様の野良猫。それを見た瞬間、私も倉山と同じ予感が脳裏をよぎった。


「その猫も寿命はまだだからやめろぉー!!」


 この猫に限らず、ヒイラギはターゲットを見付けたらまた追いかけて、倉山や私やサトルに捕まって、それからまた解放されて。これの繰り返しだった。猫や鳩だけじゃなく、他の鳥までもが被害に遭いかけていた。人間の命を刈ろうとしなかったのが唯一の救いだ。


「ヒイラギ、此処にいるのは皆まだ寿命が充分に残っている生き物ばかりなの。だから刈るなんて真似絶対に駄目だよ?」

「?」


 ……そうか、難しい言葉は分からないんだったね。と言う事は何を言っても無駄って事か。気がつけばもう夕方。そろそろ帰った方が良さそうだ。何か今日一日私の知らなかった死神の事が色々分かった気がする。

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